7月14日に大阪で行われた、近鉄の運賃値上げに関する公聴会。近鉄の社長に一礼して席に着いたのは、奈良県の荒井正吾知事だ。

利害関係者の意見を聞く公聴会に県知事が出席する、異例の事態となった。

コロナで利用者が大幅減 運賃の値上げを申請した近鉄

近鉄は新型コロナの影響で利用者が大幅に減ったことなどを理由に、2023年4月から運賃を平均17%値上げすると国に申請している。

普通運賃は、初乗りが現在の160円から180円となり、大阪難波と近鉄奈良の間は570円が680円に上がる。

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これに猛反発したのが、奈良県の荒井知事だった。 

奈良県 荒井正吾知事(5月12日):
(コロナで)赤字になったのは他の鉄道企業も同様でございますが、近鉄のみが値上げをされるということでございますが、近鉄はどうされたんでしょうか?

荒井知事が指摘するのは、阪急や阪神など他の大手私鉄は過去10年で乗客が増えているのに近鉄だけが減少していること。駅周辺の再開発など乗客を増やす取り組みが、JRや阪急と比べて消極的だったのではないかと主張した。

奈良県 荒井正吾知事(5月12日):
(近鉄が)効率的な経営かどうか、各社比較すると、必ずしもそうではないということが分かってきておりますので、まず説明をしてもらわないと…

一体なぜ? 近鉄だけ値上げ

近鉄の経営努力は、本当に足りていないのだろうか?

近畿・東海の2府3県が営業エリアの近鉄。私鉄としては日本最長の500キロの路線を持っている。

沿線は山間部や田園地帯も多く、人口の減少が進んだことで、新型コロナ前の2018年度の収入は、ピークの年から25パーセント減少。

ただ、支出もそれ以上に減らしてきた。

人件費を抑えるために進めた駅の無人化。総合案内センターでは、係員がいない駅にいる乗客からの問い合わせ1日平均4000件に遠隔で対応している。

さらに、レールにゆがみがないか検査する装置を一般の車両に搭載。

これまで真夜中に走らせていた、専用の「軌道検測車」が要らなくなった。(狭軌路線を除く)

専用車両の廃止は、全国でも九州新幹線と近鉄だけだ。

近鉄 技術管理部 中村大輔課長:
年間で今までだと100晩程度、専用車両の走行作業をしていたが、それが不要になりました。人手の節減というところに非常に大きな効果が発生しております

収支改善のための努力は続けてきたものの、新型コロナの影響で危機的な状況になったと訴える近鉄。

運賃の値上げについて、利用客はどう思っているのだろうか。

利用客:
ずっと値上げされてなかったと聞いたんで。今は電気代とかガス代が上がってたりするんで、もうしょうがないかなっていうふうに思います。定期代が上がるから、そこは痛いですね。会社が出してはくれるけど2万円まで。2万円超えちゃうと実費になるって感じです

しかし、知事の言い分に対しては…

利用客:
「訳があって値上げしたい」と近鉄は意見を言っているのに、ちゃんと見てないのと違うかと思います、荒井さんが…

さらに、荒井知事は利用者の負担軽減よりも、沿線開発への協力を求めているという手厳しい意見は、奈良県天理市の市長から。

天理市 並河健市長:
(奈良県の)公述書の中で、実際に県民の負担増について書かれているのが、この13ページの部分ぐらいしかないんです。延々書いてあるのが、「これまで・これからの沿線関連投資」。県政への協力を求める「圧力」として、公聴会を使っているというふうに捉えられる懸念もあるのではないか

奈良県 荒井正吾知事(7月7日):
県の主張とは異なる趣旨のご意見もございました。まあ、天理市長ぐらいなんですけれども

14日の公聴会は、双方が意見を述べた上で近鉄側が質問に答える形で進み、約2時間で終了。
荒井知事は、近鉄が沿線の開発に向けて前向きな姿勢をみせたことに、一定の理解を示した。

奈良県 荒井正吾知事:
大事なところだと私が思っているのは、人口が減少して、高齢化しているときの沿線の在り方ということになります。「対話をしましょう」と、明確な答えが初めて出てきたというのは高く評価をいたします。これまでは裏切られることが多かったので

公費を投入 伊賀鉄道の例

人口の少ない地域を沿線に多く持つ近鉄。過去には手放した路線もある。

三重・伊賀市を走る伊賀鉄道は、かつて近鉄の路線だったが、少子高齢化などの影響で収支が悪化。

5年前からは伊賀市が車両や鉄道施設を所有し、近鉄の子会社の伊賀鉄道が営業を行う「公有民営方式」が導入されている。

記者リポート:
上野市駅に来ました。とんでもない名前になっているみたいですが…

駅舎の壁には「上野市駅」よりもはるかに大きい「忍者市駅」の文字が。

伊賀市 岡本栄市長:
何か今、驚いてらっしゃいましたね?

――どういうことですか?

伊賀市 岡本栄市長:
見たまんま、忍者の町ですから、皆さんにより親しんでいただけるように「忍者市駅」にしました

車両には地元産の木材を使ったり、ローカル線では珍しいWi-Fiも完備。さらには、市役所の移転に伴って新しい駅を作るなど、市民目線でサービスを充実させている伊賀鉄道。

しかし経営状況は厳しく、2021年度は1億2000万円の赤字が出て、伊賀市が基金を使って一部を補てんした。

伊賀市 岡本市長:
「マイレール意識」っていうのができてきた。ただ、根本的に経営を改善するというところにはなかなかね…

市民は…

伊賀市民:
継続はしてほしいですよね。なくなっちゃったら、ここから名張の方へ行くにも大変になっちゃうし。やっぱりこのまま残り続けてほしいって言うのがあるけどね、小さいときからの思い出があるから。だけど年間1億なんぼも赤字出しとったら…っていう気もあるよね

伊賀市 岡本栄市長:
ここで伊賀鉄道が赤字が連続していますから「もうみんなやめましょう」って手をあげてしまったら自滅行為だと思います。やっぱり伊賀鉄道は地域の宝物だと思います

公費を投入して鉄道を維持する伊賀市。沿線の開発を鉄道会社に期待する奈良県。

各地で人口の減少が進む今、鉄道の未来が岐路に立たされている。

(関西テレビ「報道ランナー」2022年7月14日放送)

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