参加者全員が履歴をチェックできる技術

写真出典:https://pxhere.com
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いい意味でも悪い意味でも、今ブロックチェーンが注目されています。
2018年は、国内の仮想通貨取引所から暗号資産が盗まれたり、急な価格変動により資産を失ってしまったり、といった事件や事象が目につきました。その一方で、Microsoftなどの大手企業がブロックチェーン技術の普及に向け、大小関わらず技術力のある会社と提携を進めた時期でもありました。

このブロックチェーンは、分散台帳技術と呼ばれる技術の一部です。分散台帳技術とは、ネットワークに参加している参加者全員が、そのネットワーク上でやりとりされる情報や価値(金銭的価値や権利などの価値)の履歴をチェックできるようにする技術のことをいいます。この技術を構成する要素の一つがブロックチェーンです。しかし、分散台帳技術と書くとやや堅苦しくなってしまうため、今回は「ブロックチェーンにまつわる、あらゆる技術のことをひとまとめにしてブロックチェーン技術」と呼ぶことにします。(わかりやすさを優先するため、あえてこのように書きます。専門家の皆さん、お目こぼしをお願いいたします)

「資産管理は人に任せるもの」との認識を改めよ

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ブロックチェーン技術が注目されるようになったのは、リーマンショックのあとです。銀行や証券会社のずさんな資産管理、後先を考えない商品開発のおそろしさ、そういう会社に自分自身の資産を預けることへの疑問を、リーマンショック後に世界中の人たちが持つようになりました。

その事件が起こるまでは、資産管理は人に任せるもの、銀行に依頼すればいいもの、というのが世界の共通認識でした。しかし、特定の会社や組織に自分自身の資産を預けることは、必ずしも安全ではないということに多くの人が気づいたのです。

さらに、リーマンショックが起きた時点では、すでにインターネットが発展。世界中に情報があっという広まる土台ができつつあった時代です。一つのマーケットの影響が、あっという間に世界に飛び火することも目の当たりにし、これがなおさら人々の心の奥底に資産管理を自分自身でしなければならない、という思いを抱かせました。

全ての人がブロックチェーン技術のメカニズムを知る必要はない

このような背景の中で注目を浴びるようになったのがビットコインです。ビットコインは暗号通貨と呼ばれるインターネット上でやり取りされる通貨です。そして、この通貨を支える技術がブロックチェーン技術です。

 率直な意見をお伝えすると、少なくとも私(筆者)は全ての人がブロックチェーン技術について知る必要はないと思っています。なぜなら、誰もがメールが相手に届くまでのプロセスや、インターネットで検索結果が返ってくるまでのメカニズムを気にすることなく、日々インターネットを使っているからです。

 メールを送るときに、このメールはどのように相手に届くだろうか、と考えたことはありますか。大半の方はないでしょう。それよりも人が知りたいのは、メールを相手が読んで、いつ返事をくれるか、です。

数年以内に日常生活の基盤に

ブロックチェーン技術も同様で、今は多くの人の注目を浴びていますが、数年以内に日常生活の基盤になっていくと私は考えています。あって当たり前、だから誰も気にしない、けれど知らないうちに恩恵を受ける。今でいうサーバーやデータベースのような形で、空気のような存在になっていくでしょう。

とはいえ、ブロックチェーン技術が話題になっていることを受けて、多くの人が「どんなものだろう」と気になるのもわかります。この技術について、たとえ話と実例を交えながらお伝えしていきます。

ブロックチェーン技術と既存のインターネットを支える技術、この両者の違いは様々です。その中で3つだけ、特に重要な要素を抽出するならば、ブロックチェーン技術は「落ちない」「真似できない」「制限されない」点が他の技術との違いであるといえるでしょう。

これらの特徴は、これまでのインターネットでは提供できなかった価値をより安全に、より効率的に提供できるインフラストラクチャーを構築していきます。

1:ネットワークがダウンしない

年に数回、インターネットサービスが日本、あるいは世界中で一時的にダウンする、つまり、使えなくなってしまうことがあります。Twitterで投稿できなくなったり、Facebookをブラウザで開けなくなったりしてしまうという軽微なものもあれば、Slackという仕事のコミュニケーションツールが全世界でダウンし日常業務に多大な影響を与えるケースもあります。

しかし、ブロックチェーン技術によって構築されているシステムやアプリケーションはダウンすることがありません。一時的に取引量が増えることで動作が遅くなることはあるにしても、利用者はサービスを利用することができます。

ビットコインが2009年に人から人へ送られてから今年で9年目経ちますが、一度もビットコインのネットワークが止まったことはありません。世界中で使われているTwitterが年に1度か2度、アクセス過多で止まっていることと比較すると、ビットコインが止まらないことの素晴らしさを想像していただけると思います。

2:コピーされていても、それが本物かどうかチェックできる

私たちは日本円を使っています。紙幣については、コピーをして偽札を作ることができます。精巧なコピーを作成できれば、その紙幣を自動販売機などで利用しない場合に限り、利用することができてしまうのが現状です。

インターネット上の通貨も同様で、コピーしようと思えばできます。しかし、ブロックチェーン技術を利用した電子通貨、いわゆる暗号通貨は、その通貨をコピーできないようになっています。

もし誰かが自分が有している暗号通貨の残高を改ざんしたとしても、ブロックチェーン上に残っている記録により、改ざんしたことがすぐわかるようになっています。

また、ブロックチェーンに記録されると、その通貨がどこで、誰が、どのように使ったのかの履歴を追いかけることができます。このように価値がどのように取引されたのかを誰もが追跡できる特徴のことを、透明性といいます。この担保ができる点が、ブロックチェーン技術を他の技術と差別化する要因です。

3:サービスや国の境目を超えてデータを利用できる

FacebookやTwitterにアカウントを持っていると、そのアカウントデータを利用して、他のサイトへの利用者登録をすることができます。たとえば、Twitterのアカウントを持っていれば、InstagramやPinterestというWebサービスに会員登録する代わりに、TwitterのアカウントでInstagramとPinterestに会員登録ができます。

つまり、Twitterアカウントをあなたの個人認証に使うことができる、ということです。
これと同様のことを個人情報、身分証明、資産管理でもできるようにする基盤技術がブロックチェーン技術です。

「あなたがあなたであること」を証明するQRコード

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パスポートを例にして説明いたしましょう。
現在、パスポートは所定の場所にいき、書類に必要な情報を記入したのち、2週間ほどで手に入れることが可能です。もしこのパスポートを紙ではなく、iPhoneのようなスマートフォンにいれておき、いつでもどこでも利用できるようになったら、便利だと思いませんか?

上記のように所有している身分証明を本物である証明を、ブロックチェーンを使えばパスポートでもできるようになる、と期待されています。その実現にもっとも近いところにあるのが「uPort」というアプリです。このアプリでは身分証明書を元に世界に1つしかないQRコードを作成、それを提示することで「あなたがあなたであること」を証明することができるようになっています。

なお、このアプリに個人情報を登録した、といっても個人情報そのものがブロックチェーンとともに全世界に公開されるわけではありません。あくまでも、ブロックチェーンに記録されるのは、あなたであることを証明するのに必要な情報がどこに保存されているのか、の目印となる情報です。

その情報にアクセスし、利用する際には、そのデータの持ち主の許可がないとできませんし、その情報の目印に赤の他人がアクセスしたとしても、それがいったいどのような情報に繋がるのか、検討がつかない形になっていますのでプライバシーについて心配する必要はありません。

データの横断利用が可能に!

こうしたアプリを使うことで、今後、以下のようなことが可能になると期待されています。
例1:銀行間で送金が指1本で完了。
わざわざ銀行のWebサービスに登録したり、複雑なパスワードを覚えたりすることなく、パソコンの画面上に表示されたQRコードを、個人情報の登録が完了しているスマートフォンアプリで読み取るだけで送金できるようになります。

例2:Eコマースサイトの違いを超えた快適な買い物経験
あらゆるWEBサービスをuPortだけ使えば利用できるようになり、Webサービスごとに会員登録をする必要がなくなります。それだけでなく、他のWebサービスの利用履歴を他のサービスを利用する時にも利用可能になることが予想されます。
例えば、Amazonの購入履歴を利用することで、ヤフオクで個人の趣向に合ったレコメンドを受けることが可能になります。これまではAmazonとヤフオク、どちらも使っていないと個人にぴったりなレコメンドは受けられませんでした。しかしショッピングサイトの利用履歴を、プラットフォームに関係なく利用できるようにユーザーが許可設定をすれば、プラットフォームの壁を越えて快適なショッピングを楽しめるようになります。

個人認証をブロックチェーン技術により行うことで、サービス間での様々なデータの横断利用が可能になります。これは言い換えれば、国境やシステムの壁、制限を受けることなく、人々が自由に国やネットワーク、WEBサービスを行き来できるようになる、ということです。

すでに述べていますが、ブロックチェーンに保存された情報は改ざんが非常に困難です。なぜなら、その改ざんは非常に電力や高性能なコンピューターを利用する必要があるためです。そのコストを費やすくらいであれば、すでに規定されたルールに則って行動した方がいい、というインセンティブが働きます。

たとえ駅で鍵がかかっていない高価な自転車を見つけたとしても、盗むことはないはずです。なぜなら、ルールに反した行動をし、警察に捕まって信用・信頼を失うくらいならば、後日自分のお金で買うことの方が得るものが大きくなるはずだからです。それと同様の理由で、決められた方法でブロックチェーンに記録を刻む、あるいは認証することを、記録を改善することよりも優先するような仕組みになっています。

ブロックチェーン技術によりサービスは常に動き、透明性が担保されることで身分証明が楽になり、人々は自由にインターネット空間や国家間を行き来する。そんな未来を構築する土台がブロックチェーン技術です。

(執筆:佐藤佑輝)