シリーズ「名医のいる相談室」では、各分野の専門医が病気の予防法や対処法など健康に関する悩みをわかりやすく解説。

今回は口腔顔面痛・口腔内科の専門医、あんどう歯科口腔外科の安藤彰啓院長が、帯状疱疹の一種「ラムゼイハント症候群」について説明。

歌手ジャスティン・ビーバーさんが顔面マヒを公表し注目されるラムゼイハント症候群。その治療法や予防ワクチンについて解説すると共に、顔面マヒで注意すべき「BE FAST」についても詳しく語る。

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ラムゼイハント症候群とは

ラムゼイハント症候群は、のところに起こる帯状疱疹の一種です。

昔感染した水痘帯状疱疹ウイルスは治った後も体内に潜伏しますが、それが耳の中にある膝神経節に潜んでいることがあります。それが、ストレスがかかったり、疲れた状態、高齢になり免疫機能が非常に低下した状態において、再燃してしまうことがあります。

多くの場合、帯状疱疹ウイルスは体の他の部位、例えば顔、胸、お腹、おしりに起こりますが、ラムゼイハント症候群は耳の神経に潜んでいて、それが再燃したものになります。

発症率は非常に稀で、10万人に5人程度です。

ラムゼイハント症候群 3つの症状

症状は大きく分けて3つあります。

1つ目は耳の痛み。これは大半の方に起こる症状です。

2つ目は、耳に起こる水ぶくれ

そして1番ショッキングに感じる方が多いのが、顔の麻痺です。特に影響を受けている顔の片側が動かなくなります。

そのほか耳鳴りとか、耳の中の神経は平衡感覚やバランスを担っているのでめまいがする。

また、顔面神経は味覚も含んでいるので、味覚異常が現れたりします。

さらに、口の中、例えば上あごとか舌など、耳以外に水ぶくれができることもあります。

進行速度と後遺症

進行速度は症状によって少し異なります。

耳の痛みから始まることが多いですが、大体症状が始まる1~3日ほど前から体がだるい、風邪のような症状が出ます。時には水ぶくれの症状から始まることもあり、さらには顔の神経の麻痺が起きてきます。

多くの場合、痛み水ぶくれは1~2週間かけてだんだん増えて、それがまた減って治る経過を辿りますが、顔の神経の麻痺はもう少し時間がかかります。落ち着くまでに数週間、場合によっては数ヶ月かかることがあります。大半の方は元の状態に戻ることが多いです。耳の痛みと水ぶくれは、痛みが落ち着いて、水ぶくれの大きいものはかさぶたや傷痕が残ることもあります。

顔面神経の麻痺は、見た目からもわかるので100%治って欲しいと思う方がほとんどですが、7割の方は戻ってきますが、3割ほどは多少の麻痺が残ることがあります。

人と話しているときに、片方の眉毛だけ少し動きが悪いとか、目を閉じようとすると片方だけつむりが悪い、笑ったとき片方だけ口角が上がらないなどの後遺症が残る場合もあります。

もう1つ辛い後遺症は、帯状疱疹と同じですが、帯状疱疹後神経痛といって、耳に起こることもありますが、顔が焼けるようなピリピリする痛みが残ってしまうことがあります。

受診は何科?

受診する科は症状によって変わると思います。

耳の痛みだと耳鼻科が良いと思いますが、水ぶくれなどがひどい場合は皮膚科も良いかもしれません。

しかし、覚えておいて頂きたいのが、顔面神経の麻痺が急に起こった時は、神経内科脳神経外科を受診して下さい。

欧米では、症状の頭文字を取って「BE FAST」という標語があります。顔面神経麻痺のすべてがラムゼイハント症候群とは限りません。

次の兆候が出たら、脳卒中、脳溢血、脳梗塞、つまり脳血管障害を疑いましょうという標語です。BE FAST に当てはまる症状が急に出現した場合は、救急車を呼ぶか、救急外来、神経内科、脳神経外科を速やかに受診してください。

「BE FAST」の意味は…

B=Balance 平衡感覚やめまい

E=Eyes 視野、視力、見えない所がある、目がぼやける

F=Face 顔の麻痺

A=Arm 腕が片方だけ上がらない、動きが鈍い

S=Speech 呂律が回らない、うまく言葉が出てこない、思い出せない、喋りにくい

T=Time 症状が出たら早く医療機関を受診、救急車を呼ぶ

治療法

治療は、抗ウイルス薬ステロイドの内服治療が行われることが多いです。

最初は熱っぽい、風邪っぽい、免疫機能が落ちているところから始まるので、まずはしっかりと休んで、栄養ある食事を摂って療養していただきます。

治療をなるべく早い段階で始めることがキーポイントです。

少なくとも水ぶくれが出来てから3日以内に抗ウイルス薬とステロイドの投与を始めたいところです。

症状を放っておいても大体は2~3週間で回復していきますが、後遺症が出るリスクが、治療したグループとそうでないグループとでは大きく異なります。なので早期に治療を受けることが好ましいと言えます。

予防法

帯状疱疹の感染症にはワクチンが存在します。

小さい頃にワクチンを打った、あるいは水疱瘡にかかった場合、多くは免疫が一生続くと思われていましたが、経年的に免疫が弱ってくると考えられています。

なので50歳を過ぎたら帯状疱疹のワクチンを打つことが推奨されています。このワクチンは1回打つものと、2回打つものがありますが、2回だと大体打ってから6~8年ほどは効果が持続すると言われています。

ラムゼイハント症候群は、高齢者がかかると帯状疱疹後神経痛だったり、神経の麻痺、機能異常などの後遺症が残るリスクが高くなります。

ワクチンを打つことで辛い後遺症が残らないようにすることが大切です。

顔の神経麻痺があった時はなるべく早く医療機関を受診することと、帯状疱疹のワクチンを打っておくことの2点を覚えておいてください。

安藤彰啓
安藤彰啓

あんどう歯科口腔外科 院長Spark Medical代表・昭和大学歯学部 客員講師・昭和大学歯学部卒、南カリフォルニア大学歯学部卒(University of Southern California)Orofacial Pain and Oral Medicine Center Residency Program 修了・2013年にDiplomate American Board of Orofacial Pain (米国口腔顔面痛学会 専門医)を取得して、日本へ帰国・日本全国でもこの専門医を維持しているのは、6名だけである(2021年7月現在)・さらに、口腔顔面痛と口腔内科の両方を専門とする唯一の歯科医師である。