7月8日午前、安倍晋三元首相が選挙演説中に銃撃され、夕方に亡くなった。BSフジLIVE「プライムニュース」では、銃撃事件をめぐる最新情報とともに安倍元首相の番組出演時の映像を振り返り、政治への影響などについて議論した。

安倍元首相の死去は大きな損失、警察的には「大失態」

長野美郷キャスター(左)、反町理キャスター
長野美郷キャスター(左)、反町理キャスター
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反町理キャスター:
まず、心よりお悔やみ申し上げるとしか言いようがない。安倍さんには、2009年の番組開始時から何回もご出演いただいた。安倍晋三とはどういう政治家だったのか、その果たした役割・功績をゲストの皆さんに伺いながら振り返りたい。まず、訃報についての受け止めを。

橋本五郎 読売新聞特別編集委員:
びっくりすると同時に、非常に大事な人を亡くしたという痛恨の思い。まだまだいろんな意味で日本のあるべき姿を示してくれる人。安倍さんは非常に率直で、それが時に誤解されたりするが、恐らく僕らと話していても他の政治家と話していても変わらない。だからこちらもいろんなことを言える。あまりそう思われていないが、聞く耳がある。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
本当に残念で残念で。まだやるべきこと、やってほしいことがあったが、銃弾に倒れた。本当に無念、むなしい感じがする。経済、安全保障、外交の問題でも、この国に対する危機感があった。自民党の中で本当に政治を動かすことができる数少ない方だった。一対一で話すとかなり深い話をされる。取材する上で惹きつけられる魅力があった。

米村敏朗 元内閣危機管理監
米村敏朗 元内閣危機管理監

米村敏朗 元内閣危機管理監:
ショックです。警察的に言えば、はっきり言って大失態。安倍元総理には内閣危機管理監として1年お仕えしただけだが、危機管理監は、意見があるときには意見を言わざるを得ないという立場。それを非常によく聞いていただいた印象。

宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹:
こんなショックはない。戦後日本の外交・安全保障政策を変えることができた唯一の首相。これをタイミングよくやれたから、今の世界の大混乱に日本はなんとか対応できている。失うものは大きい。

安倍元首相の盟友・ライバルだった岸田首相は悲痛な表情

岸田文雄 内閣総理大臣
岸田文雄 内閣総理大臣

長野美郷キャスター:
今回の襲撃事件を受けた岸田首相の会見の映像です。

岸田文雄 内閣総理大臣(7月8日):
本日午後5時3分、安倍晋三元総理がお亡くなりになられました。どうか一命を取り留めていただきたいと祈っておりましたが、祈りもむなしくこうした報に接することになってしまったこと、まことに残念であり言葉もありません。心よりご冥福をお祈りしたいと思います。民主主義の根幹たる選挙が行われている中、安倍総理の命を奪った卑劣な蛮行が行われた。断じて許されるものではなく、最も強い言葉で改めて非難を申し上げます。

安倍元総理は私にとりましても当選同期であり、国会議員になってからも同僚議員として、また安倍内閣を支える一閣僚として、多くの時間を共にした良き友人でもありました。この国を愛し、常に時代の一歩先を見通し、この国の未来を切り開くために大きな実績を様々な分野で残された偉大な政治家をこうした形で失ってしまったこと。重ね重ね残念でなりません。安倍元総理の残されたさまざまなご功績に敬意を表し、心から哀悼の意を表する次第であります。

長野美郷キャスター:
橋本さん、岸田首相の発言や表情などをどうご覧に。

橋本五郎 読売新聞特別編集委員
橋本五郎 読売新聞特別編集委員

橋本五郎 読売新聞特別編集委員:
選挙のさなかにという点、自分たちの責任も、という思いも当然あるだろう。一番大事な民主主義の基礎がこういう形で害されたことへの怒り、そして友人としての安倍さんを失ったことへの気持ち。いろんなものがこみ上げてきたと思う。

反町理キャスター:
当選同期で、岸田さんは安倍政権を支え、今は最大派閥である安倍派に支えられている関係。安倍・岸田というと、僕みたいな立場からはすぐに対立構図で見たがるが、そうではないものを岸田さんの表情から感じる。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
安倍さんと岸田さんの関係は盟友でありライバルでもあったが、お互いの信頼関係が切れることはなかったと思う。互いに認め合っている。国の最高権力を争う中での友情・対立だから、一般と違う緊迫感もあるのだと思うが。

周囲に人が集まる安倍氏の魅力は「脇の甘さ」にあった

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏
政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏

反町理キャスター:
近しい政治家を見ても、明らかに心の底から安倍さんが好きだという方が集まる。この魅力とは何だったのか。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
安倍さんは非常に率直で親しみやすいわりに、脇が甘いところもある。政治家は、脇が甘くないと人が集まってこない。

反町理キャスター:
それは欠点ではなくて長所なんですか。

橋本五郎 読売新聞特別編集委員:
完璧主義者はダメですよ。安倍内閣が憲政史上最長の3188日続いた要因。ご本人が言うには、一番大きいのはやはり第一次内閣の失敗を率直に言い、みんなが共有したこと。ある種の非常に強い共同体が生まれた。

反町理キャスター:
第一次内閣のあと、いつの間にか安倍さんを支える勝手連みたいなものができた。それも、長所としての脇の甘さから来たものか。

橋本五郎 読売新聞特別編集委員:
やっぱり少し可愛くないとだめ。何から何まで全部わかっているのではなく、少し抜けているというか。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
同時にもう一つ大事なのは、菅義偉前首相も言っていたが、人が気づかないことに安倍さんは気づいてくれる。ものすごく鋭い目も持っている。

13年前から最後の番組出演まで、一貫していた安倍元首相の危機感

長野美郷キャスター:
安倍元首相には番組に21回もご出演いただいた。2009年4月、初出演時の映像。

八木亜希子キャスター(2009年4月7日放送):
視聴者の方からのメール。「現在の日本人は自衛のための武装にすら臆病になりすぎている。核武装議論も避けて通るべきではないと思う」。いかがですか。

安倍晋三 元内閣総理大臣(2009年4月7日放送):
我々政治に携わる者は、国民の安全と財産に対して大きな責任を負う。特に総理大臣、政府がそう。今の憲法解釈と法律で十分にそれが果たせるか。日本の軍事力・自衛力は世界でも相当高い水準にあるが、例えば敵ミサイル基地を攻撃する能力はない。抑止力としてそこを補完するのが日米安保条約だが。また核武装においては、NPT(核不拡散条約)で日本は永久にその手段を放棄している。だが近隣国に核の危険がある。例えばNATO(北大西洋条約機構)においては、核シェアリングでの抑止力担保という例がある。核戦術についていろんな議論がなされることは、日本の安全保障のためにいい。

反町理キャスター:
これは13年前の安倍さんの発言。内容は反撃力の話や核シェアリングの話で、次にご紹介する2022年5月の最後のご出演でも同様の話をされている。

安倍晋三 元内閣総理大臣(2022年5月6日放送):
もし日本を攻撃したら手痛い目に遭うかもしれないからやめておこう、と相手に思わせるのが抑止力。戦争をするのではなく、戦争をさせないという力。今までは、打撃力は専ら米側が行使するという枠組み。だが、日本が攻撃を受けアメリカが相手に打撃を与えにいくとき、日本が一緒に行かなければアメリカは驚く。やられたのは日本でしょう、と。その瞬間に日米同盟は大変な危機に瀕する。最低限の打撃力を日本はやはり持つべき。日米で協議をして、報復の手順を決めていく必要がある。例えば核シェアリングしている国々では、その手順が全部決まっている。

宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹:
戦後日本の首相で、外交・安全保障、特に国際的な戦略論について本当に理解していたのは安倍さんだった。他にもいたかもしれないが、誰も本音で言わなかった。安倍さんは一貫しており、一期目と二期目で変わっていない。世界のほうが変わった。

宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

反町理キャスター:
ロシアのウクライナ侵攻、台湾危機の可能性、ようやく安倍さんの危機感に世界の情勢が追いついてきた。このタイミングで凶弾に倒れたこと、ご本人はいかほど悔しいものか。

橋本五郎 読売新聞特別編集委員:
もうひとつ非常に大きなことは、自分たちの国は自分たちで守るということ。国際情勢が変わろうが変わるまいが大事なこと。国論を二分した特定秘密保護法、テロ等準備罪、安保法制、全てそこに繋がる。ずっと一貫していくつものタブーがあった。憲法に触れてはならない、こういう議論をすること自体が何かもう戦争国家に繋がるというタブー。それが少しずつ薄れてきて、安倍さんが前から言っていたことがわかってきたという状況だと思う。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
今日本人がようやく、安倍さんが考えているレベルになりつつある。自分の国を自分で守ることが、いよいよ参院選後に具体化していくのだが、そのためのエンジンが一つ欠けたような気がする。

事前の指示が不足していたことが警護失敗の原因か

反町理キャスター:
安倍元首相への襲撃事件の特性やセキュリティの課題について。凶器は手製の銃器のように見える。どうご覧に。

米村敏朗 元内閣危機管理監:
作り方さえ分かれば、十分に密造は可能。至近距離からの殺傷力を持つ程度のものであれば。

反町理キャスター:
現場を俯瞰した図を見ると、犯人は遊説場所の背後から撃っている。警護側からすれば、この犯行経路は死角になるのか。

米村敏朗 元内閣危機管理監:
非常に厄介なのは、360度に壁がないこと。また不特定多数の人間の集まるところへ入っていく選挙活動は一番怖い。どう防ぐかといえば、不審者の発見しかない。警備は現場の反応ですべてが決着するから、指揮ができない。だから、不審者とは何か、どう声をかけるか、全部指示して事前にきちっとインプットさせなければだめ。今回の失敗の原因はそこにあると感じる。

BSフジLIVE「プライムニュース」7月8日放送