皆さんは、この食べ物を何と呼んでいるだろうか。今川焼き?大判焼き?それとも…。
実は、同じ食べ物なのに、全国では40以上の呼び方がある。なぜこれほど多いのか、そして信州では何と呼んでいるのか、調べてみた。
同じ食べ物なのに名前が違う 長野県内でも呼び方様々
この記事の画像(18枚)型に生地を流し、たっぷりのあんこを乗せ、2つ合わせて焼きあげる。こちらは長野県池田町の相馬菓子店。住民に愛されている店の名物は…。
店を訪れた人:
大判焼きですね。これがおいしいだいね
店を訪れた人:
あんこがたっぷり、大判焼き
店を訪れた人:
クリームが好き
店の「大判焼き」は1個130円(税込み)。39年間、変わらぬ型と製法で作られている。
相馬菓子店・相馬正義さん:
(自慢は)あんこが中身がたっぷり、ボリュームがあっておいしいというところですね
小麦粉などを練った生地にあんこを挟んで焼くこの食べ物。スーパーなどで売られている大手食品メーカーの商品名は、大抵「今川焼き」だ。「大判焼き」と「今川焼き」、何か違いがあるのだろうか?
相馬菓子店の客:
大判焼きは字の通り大きいね
相馬菓子店の客:
今川焼きっていうのもあるんですけど、あれより大きくておいしいって言われたから
相馬菓子店の客:
えー…何が違うんでしょう、わからないです
相馬菓子店・相馬正義さん:
違いはないと思います、名前だけで。(食べ物としては)同じですね
では、なぜ「大判焼き」という名称になったのか。
相馬菓子店・相馬正義さん:
うちは大判小判の大判だと思いますけどね、江戸時代の大判。よくわからないですけど、大判焼きで40年来やっています
相馬さんによると、かつては松本市と安曇野市に2店舗ずつ「大判焼き」の名で販売する店があったという。松本市で聞いてみると…。
30代:
大判焼きですね、それ
60代:
大判焼き。今川焼きとも言いますよね。この辺はあまり言わないね
一方、「大判焼き」以外の回答も。
70代:
太鼓焼きじゃん。あんこでしょ、丸くていろいろ言い方あるけど、私は太鼓焼きって言ってるよ
松本市では大判焼きが最も多く、16人中、10人(約6割)だった。同様に長野市、飯田市で聞いてみると…。
10代・20代(長野市):
なんだっけ?今川焼き。そう、今川焼き
70代(長野市):
今川焼き
80代(長野市):
今川焼きは今川焼き。大判焼きというのは、わからないですね
60代(飯田市):
今川焼き
70代(今川焼き):
今川焼き
長野市と飯田市では、多くの人が「今川焼き」と回答した。やはり「今川焼き」が主流なのだろうか?識者に聞いてみた。
今川焼きの起源は江戸時代? 大判焼きは愛媛発祥
同志社女子大学の吉海直人教授は国文学が専門だが、地域や文化による名称の違いも調べている。
同志社女子大学 吉海直人教授:
江戸の今川焼きが出発というか、1番だというのはほぼ間違いないと思います
江戸時代後期に出版された「富貴地座位」という書物には「今川やき」の記述があり、それが最も古い記録とみられている。
同志社女子大学 吉海直人教授:
(江戸に)今川橋という橋があって、そのそばで売っていたので今川焼きという説が一番強いんですが、今川義元が桶狭間でやられたので、それに合わせて「今川を焼いちゃう」。そういう江戸っ子のしゃれみたいなものだと言う人もいるし、起源はほとんどわかりません
では、大判焼きは…。
同志社女子大学 吉海直人教授:
発祥が愛媛県松山市なんですね。(ある店が)「大判焼き」という名称を付けて販売したことで、全国的に売れるようになったということなんです
愛媛県松山市の「松山丸三」は食品関連の商社。当時、話題だった獅子文六の小説「大番」の人気にあやかり、大判焼きの名で売り出したそうだ。
同志社女子大学 吉海直人教授:
最初は四国、中国あたりで広まっていって、それが全国に広まっていくという形。大判というのがお金に関わるようなイメージがあって、それでちょっと一般の人の心を揺さぶったのかもしれませんけどね
全国からの参拝客でにぎわった御開帳期間中の善光寺。今川焼き・大判焼きに次いで多いとみられる名称を聞くことができた。
京都から:
関西では当然「回転焼き」です。鉄の型に入れてひっくり返す、回転させるので「回転焼き」やと思いますけど
宮崎から:
回転焼き
同志社女子大学 吉海直人教授:
回転焼きは関西、九州が多いんですけど、関西の人はあまり全国制覇は考えてなかったみたいで、自分のところで売れればそれでいい、みたいな
北海道は「おやき」で三重は「御座候」
「今川焼き」「大判焼き」「回転焼き」が主流となっているものの、教授によると、全国には確認できただけで40以上の名称があるという。
同志社女子大学 吉海直人教授:
調べていて一番面白かったのは、北海道ではただの大判焼きを「おやき」という。長野の人はそれを許すのか…
こちらは64店舗を展開する北海道の食品会社「サザエ食品」のホームページ。確かに商品名は「おやき」だ。十勝産のあずきを使った人気商品で、「北海道でおやきと言えば、こちら」とのこと。
北海道からの影響か、東北の一部も「おやき」と呼ぶそうだ。
青森から:
おやき。普通に(店の)のれんに書いてた。なのでこういう食べ物は「おやき」っていう感覚
その他にも…。
三重から:
「御座候(ござそうろう)」です、三重県では
岩手から:
うちの方では小さいテントの店で焼いていて、よく「あじまん」買ってきてと
長野市:
「どりこの焼き」でしょ。ここら辺ではそう呼んでるけど
いずれも人気店の商品名で、「どりこの焼き」は、かつて長野市内の店で売られていた。
同志社女子大学 吉海直人教授:
はやった店ができたら、それが地域に広がって、独特の名前が定着していくということでしょうかね
独特の名前が地域に定着した代表例が上田市にある。
40代:
「志゛まんやき」です。大判焼きとか言われる方が違和感あります
10代:
家族がみんな「志゛まんやき」って呼んでいて、それで定着してしまいました
60代:
上田の名物ですね、名前の通り志゛まんやき(じまんやき)、自慢の一つ
海野町商店街に店を構える「富士アイス」の「志゛まんやき」。80年以上に渡って市民に愛され、不動の人気を誇っている。
店の人気や住民の愛着度によって定着していった呼び名。バリエーションがこれほど豊かな理由ははっきりしないが、店独自の名前を付けやすかったことも背景にあるようだ。
いずれにしても呼び名の数だけ、思い出の味や自慢の味が各地にある。あなたは何と呼ぶ?
(長野放送)