土石流に襲われた静岡・熱海市の伊豆山地区に、唯一の薬局がオープンした。お年寄りには安心のよりどころになりそうだ。
薬剤師の男性が、30年前まで祖母がやっていた薬局を復活させた形だ。「生まれ育った街に恩返しを」と願う店主に取材した。
土砂の直撃は免れたけれど…
静岡・熱海市伊豆山にある薬剤師の千葉久義さん(49)の自宅。千葉さんは自宅の1階に7月3日に薬局をオープンさせるため、準備を進めていた。

自宅があるのは国道135号線沿いで、土石流の被害を受けた逢初橋のすぐそばだ。土砂こそ免れたものの、この建物もまた土石流の影響を受けた。

薬剤師・千葉久義さん:
天井と壁の部分がかなり広くぼっこり穴が開いて、天井のパネルが下に落ちてしまった

土石流災害の影響で断水した後に水を通したところ、水道の配管が破裂し、1階部分が雨漏りで水浸しになった。
千葉さん:
水漏れに関して一部損壊という判定が出たが、それ以外の部分は判定が全く出ない状態だったので行政からの補助はなくて、火災保険と義援金と自分の持ち出しで賄いました

「土石流が背中を押した」
実はこの場所は、千葉さんの祖母・八重子さんが約30年前まで薬局を営んでいたところだ。閉店後は倉庫として使っていた。

薬剤師だった父が勉強に使ったものも残っている。
千葉さん :
漢方薬や生薬の原料の見本です
千葉さんは市内の薬局に勤務しながら、いつかは地元で薬局をやりたいと考えていた。そんな千葉さんにとって、この土石流災害が薬局オープンに踏み出す大きなきっかけとなった。
千葉さん:
今回の土石流で(1階の)中にあったものを全部ボランティアの方に外に出してもらって、かなり広いスペースができた

被災によって1階部分が片付いたことも大きな後押しとなり、祖母と同じ場所で薬局を開くことを決めた。
唯一の薬局に地元も期待
店の名前は「薬局123(いずさん)」。医療機関のない伊豆山地区では唯一の薬局だ。

千葉さん:
私がかなり若手の部類に入ってしまうくらいの高齢者の多い地域。今はもう薬局も開業医も病院もないという医療の空白地域だったので、そこに薬局を作ることで地域の方の役にたてればと思って
薬局がオープンする知らせに、地元の人も大きな期待を寄せている。
伊豆山浜町・千葉誠一町内会長:
高齢者の方々がみんなこの薬局に薬を取りに来て、またここで千葉さんと話をして安心してもらえればなと思っています。

千葉さんがオープンの日として選んだのは、土石流の発生からちょうど1年となる7月3日だ。
千葉さん:
そういう日に、しっかり新しいスタートを踏み出すということを考えた。あとは今後もその日を忘れないという思いを込めて、7月3日にオープンにしました

故郷を思う気持ちが強まって
千葉さんが薬局のオープンを決めた一番の理由は、生まれ育った地元に貢献したいという思いだ。その思いは、地元・伊豆山が土石流によって甚大な被害を受けたことでより強まった。
千葉さん:
いつかは伊豆山に恩返しではないが、何かしたいという思いはあった。今回のこと(土石流災害)は残念でしたけども、それが自分のきっかけにもなったので、一つの転機ととらえている

2022年の年明けから少しずつ店の準備を続け、取材した6月下旬には内装の工事はほぼ完了。店頭に並べる市販薬や生活用品の注文作業に追われていた。
薬剤師・千葉久義さん:
地域の住民の方と対話して、困ってることを伺ったりしながら、地域の方に寄り添える薬局を作っていきたい
土石流をきっかけとして、発生から1年を迎える日に地元・伊豆山のため新たな一歩を踏み出す。
(テレビ静岡)