病棟に響き渡る赤ちゃんの泣き声。新しい命の誕生。
お母さんにとっての忘れられない日。

妊婦:
ありがとうございます。救われました

助産師:
お母さんも赤ちゃんも元気で良かったよ

それは、この病院で働く助産師たちにとっても、特別な日だ。

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突然始まった未知のウイルスとの闘い…再開待ち続けた2年間

大阪市立十三市民病院で妊婦に寄り添う、助産師の藤谷萌(ふじたに もえ)さん。

藤谷さん:
動いてるの分かりますか? 元気ですよ

この仕事が、できなかった日々があった。

松井市長:
十三市民病院をコロナ専門病院としたい

大阪で、新型コロナの感染拡大により病床がひっ迫していた2020年4月。
大阪市は病床確保のために、十三市民病院を「コロナ専門病院」にするという異例の措置を打ち出した。
職員にも知らされていなかった、突然の発表だった。

藤谷さん:
私は家にいたので、友人から連絡が来て、職場じゃないの?って言われて、ニュースを急いでつけて知ったんですけど。あまりにびっくりして、この先どうなるんだろうとお先真っ暗というか…何も見えなくなりましたね

助産師の藤谷さんも、コロナ患者の対応に当たることになった。

防護服に身を包み、コロナ患者に声を掛ける。

藤谷さん:
苦しくないですか?

手探りの状態で、未知のウイルスとの闘いを続けた。

コロナ患者の受け入れを公にしている病院が少なかった当時、職員たちは誹謗中傷を受けることもあったという。

約3カ月が過ぎて、一般外来が徐々に再開されたが、産科は休止されたままだった。
日々変化する感染状況の中で、半年以上先の分娩を確約することができなかったのだ。

終わりの見えないコロナ対応に気持ちが揺らいでも、藤谷さんが病院を離れることはなかった。

藤谷さん:
そこまで頑張らなくてもせっかく資格があるから、やりたい所で頑張る選択肢もあるんじゃないの?と言ってもらったこともあったんですけど。この病院が好きなんですかね。ここの産婦人科が好きだから、ここの産科を復活させたいというのが、一番の気持ちでしたね

待望の産科外来の再開 戻ってきた妊婦の声

産科外来がようやく再開したのは、2021年の12月。
ずっと待ち望んでいた一方で、藤谷さんは複雑な気持ちも抱えていた。

藤谷さん:
やっぱり普通だったら、コロナ専門病院っていう感染症のイメージが付いている病院で、わざわざ産みたいかなって思うと…ちょっと難しいのかなとも思うので

そんな不安を消してくれたのは、病院に戻ってきた妊婦たちだった。

分娩を予約した妊婦:
この前に妊娠した時にだめになってしまって、手術をする必要があって、ここで受けたんですけど、みんなすごい良い人だったので。ここで産みたいなって、次妊娠できたらここで産みたいって、ここに決めてました

約4年前に1人目を出産した時に、藤谷さんが育児指導を担当した女性も来ていた。
久しぶりの再会だ。

妊婦:
ずっとお会いしてなかったから、いらっしゃらないんかと思った。いてはって良かった

藤谷さん:
ずっといてましたよ。懐かしいですよね、お久しぶりで。意外とうちのスタッフ、そのまま結構残ってますよ

この女性は、3人目の出産を控えている。

妊婦:
またお世話になりますけど

藤谷さん:
楽しみにしてます、本当に来てくれてありがとうございます。十三市民病院に来てくれるのって感動

妊婦:
(前回)ほんまに退院してから、一切不安がなくって

藤谷さん:
ほんとですか。ほんとうれしい、そういう言葉が

コロナ前にはほど遠いものの、2023年1月までの分娩の予約は約90件になっている。

2年ぶりの分娩に向けて…助産師たちの奮闘

5月、十三市民病院の産婦人科では約2年ぶりの分娩に向けた会議が行われていた。

医師:
2年間休んでいたので、どうやったかなというのと、新たにこうした方がいいというのは、どんどん意見出してもらって

助産師:
濃厚接触の期間中はお母さん個室だから、赤ちゃんもこっちに戻ってきて採血するとかはなしですよね?

新たな感染対策として、分娩室には細かい飛沫を取り除く機械を設置。
妊婦には、病院に到着したらまずPCR検査を受けてもらう。陰性の場合は通常の分娩室で、陽性の場合はコロナ病棟で対応する。

助産師も、毎日シミュレーションを重ねていた。

藤谷さん:
もう一回息吸って。いいですよ、上手ですよ

2年前とは違い、防護力が高いマスクなどを付けて、分娩を介助しないといけない。

助産師:
汗がやばい。水滴がやばい。中がびちょびちょやん。8階(コロナ病棟)おったときは空調が効いてたけど、ここは赤ちゃん用に暖かいから…

藤谷さん:
助産業務から離れることが、助産師として止まっているというか、助産師として進めていないと思っていたんですけど、最初は。2年間があったからこそ自信が、感染対策の知識が、最前線でやっていたからこそついた。今では強みに思っています

風評被害を生むこともあった「コロナ専門病院」としての一面。
今では病院の「強み」になった。

十三市民病院で生まれた新しい命…再び歩み始める助産師の想い

6月9日、新しい命が生まれようとしていた。
助産師が妊婦に声を掛ける。

助産師:
しんどいね、もうちょっとで終わるからね

お母さんの陣痛は、12時間以上続いていた。

助産師:
大丈夫、絶対産めるからね、ここまで来たんやから。産めへん人、おらんからね、ここまで来て。赤ちゃんも頑張っとるからね、二人三脚よ。みんな、藤崎さんのお産を楽しみに待ってたから

そして…

助産師:
おめでとうございます!頑張った、頑張った

3000グラムを超える元気な赤ちゃんが無事生まれ、お母さんのもとにやってきた。

妊婦:
心強かったです、ありがとうございました

助産師:
よく頑張りました、長かったね

6月14日、取材班が病院を訪れると、病棟には赤ちゃんの泣き声が響き渡っていた。
分娩の再開を待っていたかのように、1週間で5人もの赤ちゃんが生まれたのだ。
病棟は一気ににぎやかになり、2年前の光景が戻ってきた。

藤谷さん:
毎日毎日みんなで準備して、勉強会してシミュレーションしてって毎日やってきましたけど、その期間も(産婦人科)再開はしていたけど、赤ちゃんを目の前にして抱っこすると本当に実感するというか。ようやく一歩前に踏み出せたかなという感じがします

出産を終えたお母さんに会いに、家族たちも病院を訪れた。
再び踏み出す一歩に、藤谷さんも期待を膨らませる。

元の姿に戻りつつある十三市民病院。
今も、コロナ病床は70床確保されていて、コロナ対応と一般診療の両立が続いている。

藤谷さん:
誰かが(コロナ対応を)やらないといけないので。大阪市の職員として、大阪市の病院として、頼むねと言われた時にはやらないといけないので。そこはやるぞという気持ちはあります。
理想を言うなら、たくさんの方に産みに来てもらいたいなという気持ちがあるので、安心して「十三で産みたい」って言ってくれる方が増えたらいいかなって思っているので。今のこの環境を大事に頑張っていきたいと思います

(関西テレビ「報道ランナー」2022年6月22日放送)

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