6月29日、新型コロナウイルス感染拡大の影響で運休していた「羽田(東京)一金浦(ソウル)」路線が復活した。運航は約2年4カ月ぶりだ。金浦空港に到着した乗客からは「(韓国の)実家で親戚との時間を楽しみます」(日本に住む韓国人)「久しぶりの韓国なので街がどう変化したか確認したいです」(日本の旅行会社関係者)といった声が聞かれた。

韓国の伝統衣装での出迎えを受ける乗客ら(金浦空港・6月29日)
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“ドル箱”路線「羽田―金浦」再開 

運航再開初日、金浦空港には約80人が降り立ち、韓国の伝統衣装での出迎えを受けた。当面は、日本航空、全日空、大韓航空、アシアナ航空の4社で、週に計8往復し、7月以降は増便を検討中だ。両空港は都心に近く、利便性が高い。コロナ前の2019年には年間で約205万人が利用し、ピーク時には搭乗率が約98%に上るなど、日韓の航空会社にとって“ドル箱路線”だった。

韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は就任翌日、自ら日本側に路線再開の意向を伝えていた。解決が容易でない元徴用工などを巡る歴史問題を抱える中、人的交流の活性化を通じ、日韓関係改善に向けた国内世論を醸成したい考えだ。

韓国政府はすでに6月から外国人を対象に観光ビザの発給を開始していて、さらに7月からは有効期間中、何回でも入国できる「マルチビザ」を導入すると発表した。今回の人気路線の再開も相まって、日本人観光客の韓国行きに一層弾みが付くとみられる。

歓迎式典(金浦空港・6月29日)

活気は戻りつつあるも…苦境続く有名観光地

「また1000ウォン上がったか……」。6月下旬、日本人にもお馴染みの観光地・明洞(ミョンドン)のレストランを訪れると、メニューは軒並み値上げされていた。特にカルグクス(手打ち麺)は、小麦価格の高騰で値上がりが続いている。

韓国では外食物価が軒並み上昇

通りを散策していると、手持ち無沙汰な観光ガイドの女性が目に入った。「日本人と中国人はまだまだですね」。赤い制服の左腕には「日本語可能」のワッペンを付けているが、活躍の場面は少ないという。

流ちょうな日本語でオススメの飲食店などを教えてくれる観光ガイド

街には「“ウェルカムバック”明洞」との横断幕が掛かり、欧米や東南アジアの観光客らが大勢行き交う。韓国ドラマ『イカゲーム』に登場したタルゴナ(韓国の伝統菓子)などの屋台が並び、免税店にも活気が戻りつつあるようだ。新型コロナの影響で空き店舗の割合が50%を超え“ゴーストタウン”と化していた頃とは明らかに違う光景である。

にぎわいが戻りつつある明洞
様々な国から訪れた観光客がショッピングなどを楽しむ

だが、自営業者らの表情は暗い。「コロナの流行前、ここは中国か?と感じてしまう程だったんです」(韓国メディア)。約20年間、明洞で屋台を営む女性(70代)は、中国人観光客に依存していた当時をそう回顧する。韓国観光公社によると、コロナ前の2019年に韓国を訪れた中国人(約602万人)は、2位の日本人(約327万人)を大きく引き離し、断トツの1位だった。6月の観光ビザ解禁で、日本の領事館前に大行列を作った日本人たちは7月から本格的に韓国入りするとみられ、期待の声も聞かれる。

一方、中国人観光客はゼロコロナ政策を堅持する中国政府の方針で、回復する見通しが立っていない。イギリスの調査機関「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット」によると、中国人の海外旅行規模がコロナ前の水準に戻るのは2025年末以降になる見込みだという。

思えば2017年、THAAD(高高度防衛ミサイル)の配備を巡り、中国が報復措置として韓国への団体旅行を禁止した際も、明洞は大きな打撃を受けた。世界的なパンデミックはもとより、2国間の政情にも左右されるインバウンドで、特定の国に依存するリスクが改めて浮き彫りになっている。

人出は増えてきたが空き店舗も目立つ

日本の“顔パンツ”に「共感」 “外さない”背景にルッキズムも

日常回復に向けた動きを加速させる韓国は、4月に飲食店の営業時間や人数の制限を撤廃したのに続き、5月上旬には屋外でのマスク着用義務を解除した。屋内では引き続きマスクを着用しなければならないのだが、5月末には、タクシー運転手の男性がマスクをしないまま乗ってきた女性客(20代)を注意したところ、スマートフォンで殴られ脳振とうを起こした上、20針を縫う物騒な事件も起きている。

一方、街の様子だが、欧米のように一気に“ノーマスク社会”とはなっていない。解除直後に比べれば暑さが厳しいこともあり、マスクを外す人は増えてきたが、それでも5人に1人程度という印象だ。パリパリ文化(「パリ」は韓国語で「早く」の意)という言葉が示す、せっかちともされる国民性に加え、長らく「K-防疫」と呼ばれる厳しい感染対策に耐えてきた反動もあり、すぐに“ノーマスク”になるのではと思っていたため、いささか意外な光景だ。

屋外マスク解除初日のソウル市内(2022年5月2日)
6月28日のソウル市内

マスクを外さないのは「感染が怖い」「(屋内と屋外で)着けたり外したりするのが面倒」といった理由だけではない。 成均館大学社会学科のク・ジョンウ教授は、韓国・聯合ニュースの記事で「“ルッキズム”=外見至上主義からくる脱マスクへの拒否感」を指摘する。元々、外見で人の価値を判断するルッキズムの風潮が強い韓国社会で「長いマスク生活により、素顔を露出することへの負担感が増大した」という。

韓国では、就職の際も企業側が堂々と「容姿端麗」を募集条件に掲げることも珍しくない。コロナ禍には「マギックン」という造語も生まれた。「マスク」と「サギックン(韓国語で「詐欺師」)」を合わせた言葉で、日本では“マスク美人”となるが、“詐欺師”とは辛辣だ。最近では、“マスク詐欺師”の度合いをAI(人工知能)が判定するアプリまで登場し、若者世代を中心に浸透している。

知人の韓国人女性(30代)は「マスクを外すと裸になるような感じ」だと話す。日本でマスクが“顔パンツ”と表現されていると知り「強く共感した」という。4月末に就職情報サイト(インクルート)が実施した調査では、韓国国民の4分の1以上(26.3%)が「コロナ終息後もマスクを着用し続ける」と回答していて、ノーマスクが当たり前の生活はもう完全には戻らないのかもしれない。

「マギックン」判定アプリ 筆者の“マスク詐欺師”の度合いは「99%」だった

“駆け込み整形”ブーム 日本人の“渡韓整形“も再開

“脱マスク”を敬遠する動きもある中、活況なのが美容整形市場だ。韓国は世界の整形市場の約4分の1(年間5000億円超)を占める、言わずと知れた“整形大国”だが、カード会社の調査によると、4月以降、整形外科で決済された金額が、2021年の同時期より30%以上伸びている。今後ノーマスクで対面する機会が増えていくことを見据え、今のうちに外見を整えておく、いわば“駆け込み整形”だ。

ソウル中心部のある美容整形外科によると、特に人気なのは、鼻や輪郭の手術だという。いずれもマスクで隠されてきた部位だ。近頃は「工場型整形外科」と呼ばれる比較的安価なクリニックもあり、支払いには政府が支給したコロナ支援金(国民1人あたり約2万5千円)を充てる利用者も多い。整形が終われば“マスク詐欺師”を卒業し、晴れてノーマスクとなるのだろうか。

美容整形手術の“聖地”とされる江南(カンナム)にはクリニックがずらりと並ぶ

一方、日本からの“渡韓整形“もすでに再開している。観光ビザを取得し、早速、韓国で整形手術を受けた日本人女性は「手術代が(航空券代などを含めても)日本より安価で、医師も経験豊富で技術的に優れているから」と理由を明かした。また、美容整形の際の通訳などを行う「江南メディカルツアーセンター」では観光ビザ解禁の前後で、日本からの相談件数が10倍近くに急増した。

コロナ前、整形手術のため韓国を訪れた日本人は、年間で約2万4千人。コロナ禍の2020年には韓国NO.1の美容整形情報アプリが日本に上陸し、より手軽にクリニックを調べられるようになったという。ソウル市内のリエンジャン美容外科・皮膚科の担当者は「年齢・性別を問わず『K-ビューティ』に興味を持つ日本人が増え、7月以降の予約が相次いでいる。コロナ前の人気を超える可能性もあるのでは」と期待をにじませる。

観光ビザ解禁で韓国の美容整形外科に日本からの予約が殺到(リエンジャン美容外科・皮膚科の公式LINEより)

日本への旅行は「北朝鮮観光より不自由」

では、韓国から海外への観光は今後どうなっていくのか。

5月下旬、日本政府が「6月10日から外国人観光客の団体旅行を一部解禁する」と発表したところ、韓国国民の反応はすさまじかった。韓国の旅行会社、ベリーグッドツアーが7月以降の大阪ツアー(2泊3日)の予約を募ったところ、1365の枠がわずか2時間で完売した。

また、ホシギ旅行社のチェ・ホシク代表も「近い国なので経済的負担が少なく、日本への関心が非常に高い。問い合わせが殺到している 」とうれしい悲鳴を上げた。チェ代表によると「東京・大阪・九州方面の問い合わせが集中した」という。

取材に応じるホシギ旅行社のチェ・ホシク代表

さらに歴史的な円安が追い風となり、日本への旅行に備えた両替も進み、韓国のSNS掲示板「ネイルドン」には「早く日本に行きたい」とのコメントと共に、両替後の日本円を撮影した“認証ショット(証拠写真)”の投稿が相次いだ。

投稿された日本円の“認証ショット(証拠写真)”

韓国人の日本旅行は元々、日本の輸出管理の厳格化に反発する形で始まった反日不買運動(NO JAPAN)の流れで、コロナ前から自制する雰囲気が広がっていた。だが「NO JAPAN」はもう下火だ。不買運動を率いた「NO NO JAPAN」というウェブサイトも3月に閉鎖している。

反日不買運動ウェブサイト「NO NO JAPAN」閉鎖の知らせ

ただ、6月7日に日本への旅行のガイドラインが明らかになると、少し潮目が変わったのも事実だ。旅行先の日本では、マスク着用や食事中の会話自粛などの制限が伴い、自由行動が一切許されないことが分かり、韓国の旅行会社は急きょ旅程の変更を迫られたほか、1日の予約件数が激減したという。「会話まで統制するのは軍隊のようだ」「(常に案内員が同行する)北朝鮮観光よりも不自由」などと厳格な規制を敬遠する声が多く報じられ、“ノービザ・自由旅行”解禁まで様子見をする傾向が強まったと感じる。

2018年には年間で750万人を超える韓国人が日本を訪れていた。反日不買運動からコロナ禍と、約3年にわたり抑制されてきた日本への旅行の需要が実際にどこまで伸びるのか。日韓両政府の動向を踏まえ、引き続き注視したい。

(執筆:FNNソウル支局 仲村健太郎)

記事 2 仲村健太郎

FNNソウル支局特派員。テレビ西日本報道部で福岡県警・行政担当 、北九州支局駐在。2021年7月~現職。