広い駐車場での悩みが、駐車場所と施設との移動。場所を覚えたり、買い物をしても運ぶのが面倒だったり、雨でぬれることもあるが、この問題が解決するかもしれない。

それが「自動バレーパーキング」というサービス。三菱重工グループとスタンレーロボティクス社(フランス)による試みで、自動走行するロボットで、無人の車を指定の場所に持ってきてもらおうというものだ。

利用は(1)入庫(2)自動搬送(3)出庫予約(4)出庫の流れで進む。まず、利用者は車で目的の施設に到着すると「バース」と呼ばれるエリアに駐車する。

自動バレーパーキングの流れ(提供:三菱重工グループ)
自動バレーパーキングの流れ(提供:三菱重工グループ)
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ここでは乗り降りや荷物の積み下ろしもできる。利用者の準備が終わると、ロボットが無人となった車を運び、専用の駐車場に自動搬送するというものだ。

自動搬送のロボット。奥に見えるのがバース(スタンレーロボティクス社の画像より)
自動搬送のロボット。奥に見えるのがバース(スタンレーロボティクス社の画像より)

帰りたいときは専用のスマホアプリで出庫予約をすると、ロボットが予約時間に車両をバースまで自動搬送する。なお、搬送状況はアプリで確認することもできるという。

自動搬送の様子(スタンレーロボティクス社の映像より)
自動搬送の様子(スタンレーロボティクス社の映像より)

従来の駐車場では、駐車場所と施設が離れている場合などに移動する必要があったが、自動バレーパーキングではバースが中継地点になることから、この手間が省けるというわけだ。

四輪を持ち上げるので無人でも運べる

自動バレーパーキングは6月13日から、三菱地所グループが運営する「酒々井プレミアム・アウトレット」(千葉県酒々井町)で実証実験を行っている。国内の商業施設では初の試みだという。

実証実験エリアとイメージ(提供:三菱重工グループ)
実証実験エリアとイメージ(提供:三菱重工グループ)

画期的なアイデアで便利そうだが、重量がある車をどのように運ぶのだろう。三菱重工グループの担当者に、自動搬送を実現できる仕組みを聞いてみた。


――ロボットはなぜ無人の車を運べる?自動搬送の仕組みを教えて。

運ぶのは“Stan”というAGV(無人搬送車)ロボットで、車両の長さに合わせて自動調整するプラットフォームを車両下部に潜り込ませ、タイヤ部分を支えてゆっくり四輪を持ち上げて搬送しています。利用者の予約情報を基に自動的にこのロボットに対して搬送指令を行い、指示を受けたロボットが自律走行をして、指定駐車スペースへ車両を搬送します。

搬送自体にオペレータの介在は不要ですが、トラブル発生時の対応に備えて、管制室からロボットの状態を常時監視しています。今回の実証実験だと、現地のコンテナハウスで目視及びPC経由で状況を確認しながら搬送を行っています。

四輪を持ち上げることで無人での搬送を実現(スタンレーロボティクス社の映像より)
四輪を持ち上げることで無人での搬送を実現(スタンレーロボティクス社の映像より)

――車両の違いはどう判別している?自動搬送できないものはあるの?

入庫時に利用者と車両情報をひも付けます。出庫時は出庫予約に基づき、該当する車両を識別し、予約時間に合わせてバースに車両を準備します。最低地上高が極端に低い車や一部の車(ピックアップトラックなど)を除く、通常の乗用車を搬送できます。

収容できる車両の数は、最大で50%の増加が可能

――サービスの実現でどんな効果が期待できる?

商業施設の運営者には、2つのメリットがあると考えます。一つは大型立体駐車場を建設することなく、限られた駐車スペースを有効活用し、低コストで迅速に追加駐車スペースを確保できること。もう一つはプレミアムな顧客に提供することで、施設の付加価値や顧客満足度を向上させ、顧客の囲い込みができることです。新しい収益源にもなります。


――従来の駐車場と活用面で違いなどはあるの?

専用エリアに高密度に駐車を行うことができ(車の左右に乗り降りするスペースが必要無くなるため)、限られた面積での収容台数を、従来の駐車場より向上させることができます。駐車効率は、駐車場のレイアウト、求められる処理必要台数などによって変わりますが、ロボットによる効率的な配置とした場合、同じ敷地面積の駐車場に収容できる車両の数は、最大で50%の増加が可能とみています。

乗り降りのスペースが必要ないので、駐車場の有効活用にもつながる(スタンレーロボティクス社の映像より)
乗り降りのスペースが必要ないので、駐車場の有効活用にもつながる(スタンレーロボティクス社の映像より)

――搬送中に事故などは起きない?もしもがあったときの責任はどうなる?

ロボットには各種センサーによる障害物検知・安全機能が備わっており、異常を検知すると安全に停止する仕様となっています。万が一、車両損傷などの事故が発生した場合の責任は、ご導入いただく事業者様との協議の上、あらかじめ取り決めていくことになると考えております。

ロボットには障害物検知・安全機能も搭載(スタンレーロボティクス社の映像より)
ロボットには障害物検知・安全機能も搭載(スタンレーロボティクス社の映像より)

商業施設・空港などに導入を提案

――今回の実証実験の目的と現在までに分かったことは?

目的はロボットの搬送性能、利用満足度の検証です。本サービスは日本にない新しいソリューションとなるため、実際に利用してもらうことで意見や課題点を抽出したいと考えました。想定外の状況が発生した場合の対処方法など、将来の事業化を想定した検証・評価を行うほか、自動搬送という新しいサービスが受け入れられるかを、定量・定性的に評価したいとも考えています。現在も試験が続いておりますが、ここまで技術面において想定外の事象は発生しておりません。


――自動バレーパーキングの導入費用はどれくらいなの?

導入にはロボットに加えてバース(乗降場所)のセットアップが必要となります。導入費用は規模によりますが、立体駐車場ビルのような大型設備投資は不要で、低コストで早期に導入することが可能です。具体的な費用は、ロボット・バースの台数がポイントになり、駐車場の規模や時間あたりの処理台数に依存するので、回答は差し控えさせていただきます。各事業者様のご事情に合わせてオーダーメイドで検討させていただくこととなります。

自動搬送ロボット(スタンレーロボティクス社の映像より)
自動搬送ロボット(スタンレーロボティクス社の映像より)

――今後の導入予定は?日本でも広がっていく?

今回の三菱地所様との実証試験の結果(搬送能力、顧客フィードバック)を評価し、三菱地所様を含む国内事業者様に対して、国内商業施設・空港などへの導入を提案していきます。



駐車場の効率的な活用にもつながりそうなこのサービス。国内事業者に導入を提案していくとのことなので、近いうちに我々も利用する場面があるかもしれない。

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プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。