内閣支持率下落は凶兆か

週末(6/18、19)のFNN産経の世論調査によると岸田政権の内閣支持率は前月より5.2ポイント下落し63.7%だった。この結果を「5.2Pも下がったから大変」と見るか「まだ60%台だから大丈夫」と見るかは意見の分かれるところだ。同じ期間に調査をした3社も同様の結果となっており、物価上昇が響いたものと見られる。

内閣支持率の推移(FNN世論調査より)
内閣支持率の推移(FNN世論調査より)
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実はこの週末に世界各国でいくつか行われた選挙の結果に物価高の影響は出ていた。物価高に苦しむ国民が現政権に拒否反応を示し、実現は難しそうなバラマキ政策を打ち出す野党に投票するケースが増えているのだ。

6/19に行われたフランスの下院選挙ではマクロン大統領の与党が大量100議席を失い、過半数割れとなった。最低賃金の大幅アップや消費税の一部廃止などを打ち出した左右両極の政党が躍進し、フランス政治は今後大荒れとなる。

フランス・マクロン大統領の与党は6月19日の選挙で大量100議席を失った
フランス・マクロン大統領の与党は6月19日の選挙で大量100議席を失った

経済危機で格差が拡大している南米コロンビアでは同じ19日、大学の無償化などを訴えた元ゲリラの左翼政治家が大統領に選出された。コロンビアは長く続いた親米保守政権から反米左翼政権に代わる。

日本でもすでに異変が

欧米に比べ物価上昇幅が小さい日本でも異変が起きた。同日に行われた杉並区長選では立憲、共産、れいわ、社民、生活者ネットが推薦する新人女性が現職に辛勝。現職は旧民主出身ながら自公政権に近いと見られていた。

日本では物価高の原因は円安という印象だが、世界ではロシアのウクライナ侵略による資源、エネルギー、食糧の不足が物価高の原因だ。つまり物価高の「諸悪の根源」であるロシアのプーチン大統領のせいで世界中の保守政権が選挙に負けているという事なのだ。7/10投開票の日本の参議院選挙では同じようなことが起こらないのだろうか。

しかし世論調査の結果を見て奇妙なことに気づいた。

内閣支持率下落に伴って「比例投票先」も自民は39.2%から30.1%に9.1ポイントも下落しているのだが、受け皿になるはずの立憲も維新も上がるどころかわずかだが下落しているのだ。自民の下落分はどこに行っているのか探したら、「わからない、言えない」が9P増えていた。なるほど。

つまり物価高に人々は怒り、内閣支持率は下がり、自民に投票しようと思う人が減った。だがその人たちはまだどの政党に入れるかは決めていない、ということらしい。

フランスの教訓に学べ

フランス、コロンビア、杉並区の3つの選挙結果の教訓を考えてみよう。フランスの場合は既成政党の力がこれまでよりさらに弱くなり、左右両極の過激な政策に国民が共感している。コロンビアでは特に経済が深刻なため低所得層だけでなく国民の多くが社会主義的な政策を望んでいる。杉並は、やはり野党が共闘すると強い、ということだ。

7月10日投開票 参院選のポイントは…
7月10日投開票 参院選のポイントは…

世論調査と各国の選挙結果から参院選のポイントも見えてくる。まず既成政党よりはエッジの立った政策を訴える新興政党が人気を得る可能性がある。もう一つは物価高で本当に困っている人たちは誰なのかという事だ。

つまりフランスでもコロンビアでも物価高の影響は国民の広い階層に及んでいるが、日本では物価上昇幅が欧米ほどではないので「物価が高い」と騒ぐ割に本当に困っている人は限られているのではないか。そしてコロナがほぼ収束し、消費や投資に関心のある国民が増えているというのも事実だ。

だから与野党ともにこれから焦点にすべきはまず国民に幅広く行き渡るバラマキよりは、本当に困っている階層、分野に絞った支援だろう。また投資や消費のインセンティブとなる政策に関心ある人も多いはずだ。有権者の3割から4割の人はまだ投票先を決めていない。彼らの心理を読み間違えると与党も野党も大やけどすると思う。

【執筆:フジテレビ 上席解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。