症状に悩む人もそうでない人も、痛みを共有する社内活動とは。

理解を深め休みやすい環境を作る

とある会社のお昼休み。 行われていたのは「かるた大会」だ。

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なかなかの白熱ぶりだが、絵札も文章もなんだかちょっと変わっている。

「サボり癖があると思われていないか不安」 
「剣山に刺されるような痛み」
「仕事の効率が下がりながらも頑張るのが日常スタイル」

これは、片頭痛の見えない症状やつらさを詠んだ「ヘンズツウかるた」。片頭痛への理解を深め、休みやすい環境を作っていくことを目的に作られた部活「ヘンズツウ部」が作ったものだ。

「ヘンズツウ部」は日本イーライリリーという会社で社員達が立ち上げたものだ。

日本イーライリリー・山縣実句課長:
職場で「片頭痛でつらいから休む」という話を聞いたことがない。これはつらくても我慢して働いている社員がいるんじゃないかと。

部員のおよそ半数は片頭痛を持たない人たち。ヘンズツウ部では定期的な意見交換はもちろん、理解を促す動画を作ったり、片頭痛に優しいとされる食材を使ったお弁当を社内で販売したりするなど、様々な取り組みを実践している。

すると、社内の空気にも変化が・・・

片頭痛を持たない部員:
気合とか根性論とかそういうところで乗り切れるんじゃないかという思いもどこかにあったが、実際の当事者の話を聞いてみて、すごく自分の意識が変わりました。

日本イーライリリー・山縣実句課長:
しんどい時は休んでいいんだと思えることで心理的安心が担保されるというところで働きやすい社員が増えたんじゃないかと思います。

社内アンケートでも「体調不良時上司に相談する」と答えた人の割合は、活動を始めて3ヶ月後には11%UPした。

片頭痛を持つ部員:
片頭痛だけじゃないと思うんですよね。それぞれが人に言えない病気だったり事情を抱えながら、いろんな人が働いているのが会社だと思うんですけれども、こんなに受け入れてもらえるんだと知れたのは力になったし自分も他の人に対してそうしてあげたいと思います。

そして、片頭痛持ちの人たちが辛いと感じたときに、社内で休憩に適した場所をピックアップした「快適ゾーンマップ」も作成された。

部屋の角にパーティションで仕切られたソファ席は、ブラインドで光の調節が可能。 リクライニング式で軽く横になれる席もある。

この「ヘンズツウ部」は、今では片頭痛に限らず、頭痛や腰痛、生理痛といった見えない不調を抱えていても働きやすい職場づくりへと活動を広げている。

日本イーライリリー・山縣実句課長:
片頭痛もそうですし、その他にも人は色んな健康課題を持って働いているんだなというところはすごく大きな気付きで、これをぜひ地域であるとかもっと社会に広く取り組みの重要性みたいなところを広めていきたい。

セルフケアだけでなく医療や薬の活用も

三田友梨佳キャスター:
産婦人科専門医の稲葉可奈子先生に聞きます。臨床の現場で健康と向き合う稲葉先生の目に「ヘンズツウ部」はどのように映りましたか?

産婦人科専門医・稲葉可奈子先生:
ケガなどは周りから見てもツラいのが分かりますが、頭痛や生理痛、あるいは更年期などはしんどさが他人には分かりづらいですよね。 しんどい人もいれば、しんどくない人もいて、人それぞれであるということを多くの人が理解することは大切です。

そういう意味で、このヘンズツウ部に症状がない人も参加しているというのはとても意義があると思います。

三田キャスター:
片頭痛のような他の方から見えにくい症状を我慢して働いている人も決して少なくないと思いますが、そんな時はどんなことが大切なのでしょうか?

産婦人科専門医・稲葉可奈子先生:
本当に求められているのは、休みやすい制度よりも休まなくてよい体調です。
もちろん、つらい時に頑張りすぎずに休める体制というのも大事ですが、こういう話の時に休みやすい制度づくりに焦点があたりがちです。しかしみなさんは休みたいわけではなく、本来は良いパフォーマンスでいつも普段通りに働きたいはずです。

対策が「休む」ことしかないわけではなく、いかなる体調不良も適切な治療により軽減できるということをもっと知って頂きたいなと思います。 頭痛の患者さんも生理痛の患者さんも、治療によってつらくなく毎日普通に仕事できるようになったことをみなさんとても喜んでいます。

三田キャスター:
適切な治療で軽減できるというお話ですが、片頭痛とうまく付き合っていく際のポイントは何でしょうか?

産婦人科専門医・稲葉可奈子先生:
「セルフケア」にとらわれすぎないことです。 皆さん食事や睡眠など生活習慣の改善でなんとかしようという風潮が強く、セルフケアというワードの呪縛を感じます。

ある調査では頭痛があるおよそ8割の人が、なるべく鎮痛剤を使用しないと回答していて、 日本人は痛みを我慢する国民性があるようです。医療や薬をうまく活用することは決して体に悪いことではありませんし、鎮痛剤以外にも治療法はあります。

体のつらさに対して何かに頼るのは甘えではありません。もっと気軽に医療も頼ってだれもが快適に毎日を過ごして頂きたいと思います。

三田キャスター:
悩んでいるのは自分ひとりじゃないと共有できることで、気持ちが楽になることもあると思います。 それぞれ適切な治療が見つかること、そして周囲の理解が広がることを期待したいと思います。

(「Live News α」6月13日放送分)