業界最大手の回転寿司チェーン「スシロー」。2021年、スシローが行った3つのキャンペーンで、広告の目玉となっていたウニやカニが実は98%以上の店で販売されていなかったことが明らかになりました。

消費者庁は6月9日、これらが“おとり広告”にあたるとして、再発防止を求める措置命令をスシローに出しました。なぜこんな事になってしまったのでしょうか。めざまし8はスシローの元社員を独自取材しました。

販売できない商品を告知せず ”おとり広告”で措置命令

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美味しそうなウニや本マグロを使った寿司の映像。新鮮な魚介がプルプルと揺れて、食欲をそそる演出が施されています。

これは、業界最大手の人気回転寿司チェーン「スシロー」のキャンペーンCMです。ところが今、こうしたキャンペーンに対し厳しい声が上がっているのです。6月9日、公正取引委員会が記者会見で明らかにしたのは…。

公正取引委員会:
景品表示法の規定に基づきまして「措置命令」という行政処分を行いました。一般消費者を誤認させる恐れがあったもので、“おとり広告”に該当するとされました。

スシローは国内約600の店舗のほとんどで、キャンペーン商品を販売できない期間があったにもかかわらず、広告を続けていたことが分かったのです。

スシロー公式HP:
ホームページや店頭での表示について、停止するなどの措置をとらないまま、料理の提供を中止し、お客さまへの告知として不十分なものとなってしまいました。

「おとり広告」と認定されたのは、ウニやカニなど高級食材を使った期間限定メニューを前面に打ち出した3つのキャンペーンです。

元従業員「おとり広告は考えられない」

めざまし8はスシローの元社員を取材。すると、こんな証言が…。

スシロー元社員:
店舗が600店舗以上ありますので、それなりの仕入れといいますか、在庫は確保した上で広告を打っているはずなので。「おとり広告」としてやるということは、ちょっと考えにくいかなと思います。    

以前は、キャンペーンが「おとり広告」と判断されてしまうような状況になることは考えられなかったといいます。原因についてスシロー側は。

スシロー公式HP:
お客様より、かかる予想をはるかに上回るご愛顧をいただき、早期に在庫が不足することが予見される事態となってしまいました。

看板メニューが予想を上回る人気となり、食材の在庫がキャンペーン期間の途中でなくなる可能性が出たため、数日間提供を停止していたと説明しました。

回転寿司業界に詳しい米川伸生氏は、2021年に北海道などで起きたウニの不漁が関係している可能性を指摘しつつも、疑問を呈しました。

「早く終わるのは考えられない」一度も提供していない店舗も

回転寿司評論家 米川伸生氏:
ウニに関しては、(スシローの)グランドメニューにないので、ウニだけバカ売れするのは確かなんですよ。普段食べられないので、ああいった(期間限定で)出たときだけ殺到するのは確かです。それでも必ず計画販売するはずなので、期間中に早く終わっちゃうというのはちょっと僕には考えられないです。

通常であれば、キャンペーン期間中は十分メニューを提供し、完売に至るはずだというのです。

しかし、「豪華かにづくし」と銘打ったキャンペーンでは、さらに不自然な事態が生じていました。なんと、このキャンペーンでは初日からメニューを提供していなかった店舗があったというのです。消費者庁の資料によると、キャンペーン中、一度も限定メニューを提供していない店舗さえあったといいます。

キャンペーン初日から提供停止という事態。これは「予想を上回る売れ行きだった」というスシローの説明と整合性がとれません。

公正取引委員会は、店舗で販売しないネタを宣伝するのは、景品表示法違反の「おとり広告」に当たると判断。大阪に本社がある「あきんどスシロー」に対し、再発防止を求める措置命令を出しました。

今回の事態を受け、スシロー側はホームページで「今回の措置命令を真摯に受け止め、再発防止に努めてまいります」と謝罪しました。

業界最大手の回転寿司チェーンに出された措置命令。この背景には何があったのでしょうか。専門家は、以前にもこうした広告の打ち方について“注意”を受けていた可能性があったのでは、と推察しています。

業界最大手スシローがなぜ…おとり広告とは?

今回、措置命令が出されたキャンペーンのポスターがこちらです。

例えば「濃厚うに包み」は税込み110円。確かにお値打ち感があります。よく見ると、広告には「ご好評につき店舗により完売している場合がございます」という注意書きがあります。

さらに一番下にはキャンペーンの期間が書かれておりり、その横には「売切御免」という表示があります。今回指摘を受けた3つのキャンペーン広告には、すべてこうした「ただし書き」がされていました。

スシローの店舗数は2022年6月現在で647店舗。売り上げ収益が、2021年9月期の発表で年間2408億円。言わずと知れた回転寿司チェーンの業界最大手です。

スシローに措置命令が出された理由としては「国内ほとんどの店舗で3つの商品が販売できない期間があったにもかかわらず、広告の記載を続けていた」ということです。

公正取引委員会で勤務経験がある弁護士の平山賢太郎氏によると「おとり広告とは、実際には販売する準備がないのにセール商品などを広告に載せ、不当に消費者を誘うこと」を指すのだそうです。「濃厚うに包み」の場合、当時594店舗のうち583店舗、98.1%の店舗で販売していない日があった、と消費者庁は説明しています。

平山弁護士の目には、今回のケースはどのように映るのでしょうか。

平山賢太郎弁護士:
この件は全国の消費者に影響をもたらした大変大規模な案件だったと思います。消費者庁は証拠集めなどを公正取引委員会に頼むことができ、実際そのようにされていますけれども、公正取引委員会は75年の経験を持つ事件調査のプロです。今回、そのプロに調査を依頼するということで消費者庁の意気込みを感じました。

消費者庁はスシローに対して、違反を周知し、再発防止を求める措置命令を出しました。今回の処分に罰金や営業停止などの罰則はありません。しかし、平山弁護士は「消費者に与えた影響は大きく、企業のイメージも大幅に下がってしまうのではないか」と指摘しています。

今回、消費者庁はなぜ措置命令に踏み切ったのでしょうか。

「売切御免」が決定的な違反の根拠に? 別件で注意していた可能性も

平山弁護士は「悪質という判断があったのではないか。1回目の違反で措置命令は出にくい。今回とは別件で以前に”注意”を受けていた可能性もあるのではないか」と指摘します。

平山弁護士が注目したのは「売切御免」という文言。スシローはキャンペーン途中で販売を中止し、後日再開しています。本来ならば、販売を中止した時点で「売り切れ」と判断し、キャンペーンをやめるという選択肢もあったはずです。

ところが、スシローは後日、メニューの提供を再開しています。このことから、消費者庁が広告にある売切御免という表示は嘘であると判断し、これを決定的な違反の根拠と受け止め、悪質性を認めたのではないか、と平山弁護士は推察します。

では、どんな表示をすれば違反とはならなかったのでしょうか?

「売切御免」ではなく「1日●●皿限定」というわかりやすい表示にすれば、今回のようなことにはならなかった可能性があるといいます。なぜスシローは「限定●●皿」という対応をしなかったのでしょうか。

平山賢太郎弁護士:
キャンペーンの企画担当の方はとにかく売り上げアップを目指すものです。そうすると、仕入担当が「商品が足りない」と判断しても、なかなか会社の中でそれを言い出せない、という状況の中でキャンペーンが始まってしまう。そして、そのまま続いてしまうということだったのではないかと思います。残念ながら、このようなことは他の業界でも時折見られることです。

業界全体の広告表示の見直しのきっかけに

スシローは今後の取り組みについて、こう発表しています。

「今回の措置命令を真摯に受け止め、消費者庁と調整のもと、広告表現の見直しや景品表示法に関する研修などを実施し、再発防止に努めてまいります」

平山弁護士は、今回、業界最大手のスシローに措置命令が出されたことの影響について「業界全体で広告の内容やキャンペーン方法の見直しが進むきっかけになるのではないか」としています。

(「めざまし8」 6月10日放送)