摘発が続く、持続化給付金詐欺事件。不正受給をした人が今、「返金」を申し出るケースも相次いでいるといいます。

なぜここまで不正受給が拡大してしまったのか、不正が起きない給付金のあり方とは何か、解説します。

給付金詐欺の報道で不安に…自主返還の相談相次ぐ

今、弁護士のもとに相次いでいる相談。それは…

鈴木淳也総合法律事務所・鈴木淳也 弁護士:
2021年の夏に急に増え始めて、少し落ち着いて、また相談が増え始めている

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新型コロナをめぐる持続化給付金の不正受給の“自主返還”です。

6月3日、萩生田光一経産相も「軽い気持ちで話に乗って、自ら後ろめたい思いが分かってらっしゃる方がいたら、直ちに返還してもらいたい」と呼びかけていました。

経済産業省はコールセンターなどで不正受給の自主返還の相談を受け付け、6月2日時点で約166億円が返金されたと発表しています。

鈴木弁護士の元にも、これまでに数十件の相談があったといいます。

鈴木淳也総合法律事務所・鈴木淳也 弁護士:
報道が出始めてから、自分も逮捕されるんじゃないか、と不安に駆られて相談される方が増えてくるのではないかと思います

持続化給付金を巡っては、2020年4月、当時自民党の政調会長だった岸田総理が…

「制度の悪用に対する懸念ということが指摘をされます。性善説に立った迅速な支給、こういったことが大事なのではないかと思います」と発言していました。

懸念が現実となり、摘発が相次ぐ持続化給付金詐欺。

なぜ、ここまで不正受給は拡大してしまったのでしょうか?そして、不正の起きない給付金のあり方とはなんなのでしょうか?

相次ぐ自主返還…窓口を設置し原則”刑事告訴”は行わず

これまで給付されたのは、総額5.5兆円。その中で自主返還されたのが、約166億円です。

中小企業庁は返還窓口を設置し「不正受給は犯罪です!」としてコールセンターを設けています。さらに、自主返還については「調査開始前に自主返還完了の場合は、原則として延滞金・加算金を課さず刑事告訴などは行わない」としています。

なぜ詐欺が拡大?スピード重視で不審な申請書類も通していた可能性

なぜ持続化給付金の詐欺がなぜここまで拡大したのか?

偽って申請していたケースについて、どのような流れだったのか、税理士でファイナンシャルプランナーの清水明夫さんに聞きました。

例えば、元々は会社員のAさんがバーの経営者だと嘘をついて申請をします。必要書類は「本人確認書類」「通帳」「売り上げ台帳」「確定申告書」。

しかし「確定申告」はお店本体がなくても、自宅の住所を書けばまかり通ってしまうといいます。飲食店の場合は売り上げと経費を記入すれば基本OKの上、清水さんいわく、売り上げ台帳は実は大学ノートなどに手書きでも良かったということです。

つまり、1カ月分、前の年の同月比でお金が減っているということだけ示せていれば、資料としては十分成り立っていたというのです。

書類を準備したら、税務署に持っていって受付印をもらう必要がありますが、チェックは内容というよりも、書類に不備がないか、必要なものの有無が確認され、時間も相当スピーディーに行っていたということです。

ちなみに書類は代理人が提出しても、郵送でもOKでした。書類提出後にオンラインで申請したら約2週間後にお金が振り込まれることになります。

この場合、事務局は不審に思わないのか、中央大学法科大学院教授の酒井克彦さんに話を聞いたところ、「どんな書類でも、売上減さえ確認できれば通していた傾向があったのではないか。当然不審に思っていた人もいたはず。」と指摘しています。

中央大学法科大学院・酒井克彦 教授:
当時は、社会的要請でスピード感というのは求められていました。実際に下請け業者の人が怪しいと思っても、果たしてどこまで申請を止められたのか、受給を止められたのかという点はあると思います。申請というのが、税理士などの専門家に委ねられているものではなかったんです。そういう意味では、そもそも不審にさえ思っていなかったケースが多かったのではないかと思います

不正受給に手を染めても気付かず…?制度の理解不足も拡大要因

一方で、自分が不正受給に手を染めてしまっていると気づかない人も中にはいます。

鈴木弁護士は「『みんなやっているから大丈夫』『必要書類は全部用意する』と言われるがまま不正に手を染める人が多い。悪い事をしているとの認識も少ない」と指摘。制度を理解していないが故にこうなってしまったといいます。

”払いすぎた”?実はコロナ前よりコロナ禍の方が少ない倒産件数

また、興味深いデータがあります。東京商工リサーチの全国企業の倒産件数です。

コロナ前の数字とコロナ禍の数字を見てみると、実はコロナ禍の方が倒産している企業が少ないのです。

この理由について東京商工リサーチは、「給付金などの影響もあり倒産の件数が抑制。本来倒産していた企業が救済された可能性がある」と指摘しています。

そもそも、持続化給付金を申請できる人(企業)の数はどのくらいなのか?

主な対象はフリーランスを含めて約800万人で、実際支払われたのは、約424万件。給付条件として、売り上げが前年同月比50%以上減の場合のみにしか支払われないはずでした。

この数字を見て酒井教授は「この数の事業者の売り上げが本当に半減していたら、国の税収はもっと減っているはず」と指摘。この結果から、不正がかなりあったのではとみています。

では「収益減」の申請が不正だった場合、摘発されることもあるのでしょうか?

中央大学法科大学院・酒井克彦 教授:
申告が正しくされていることを前提とした仕組みですから、これが誤ったものであれば当然不正受給と思われて摘発されると思います

確認作業を徹底 不正を防ぐ「事業復活支援金」

持続化給付金は2021年2月で終わっていますが、現在は「事業復活支援金」というものがあります。大きな特徴としては、これまでの持続化給付金は売上高減少率が50%以上でなければ対象ではなかったものが、30%から50%未満、過去3年の一定期間と比べて売り上げが減っている人たちが給付の対象に。申請期間も2022年6月17日まで延長されています。

これに加えて事業復活支援金は、書類作成から申請の段階で、指定機関での確認作業があります。これがなければ申請できないということで、今のところ不正受給はない状況だといいます。

確認の迅速化や、スピード給付と審査のバランスが求められています。

(めざまし8「わかるまで解説」6月7日放送)