障壁のない社会を目指す上で、 今、「近付きやすい」などの意味を持つ「アクセシビリティ」という考え方が注目を集めている。国の内外で広がる最新の取り組みを取材した。

求められる“アクセシビリティ” 国際会議で意見交換も

2022年2月、オーストリアにある国連のウィーン事務所で、ある曲が披露された。

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世界各国の人々が、曲にのせた手話で訴えるのは、「ゼロバリア」=障壁のない社会。

曲が披露されたのは、国連障害者権利条約の理念に基づき、オーストリアのエッスル財団が世界のバリアフリー活動を称えようと2008年に立ち上げた、ゼロ・プロジェクトの表彰式だ。
2022年は世界35カ国・76の取り組みが表彰され、日本からは手話放送を約30年継続するOHK岡山放送も、日本の放送局として初めて受賞した。聴覚障害者らと手話放送の委員会を立ち上げ、番組制作を持続可能にしていることや、手話放送普及に向け協力企業を募るビジネスモデルを構築したことなどが評価された。

表彰を受ける岡山放送・中静社長
表彰を受ける岡山放送・中静社長

障壁のない社会のために掲げられた今回のテーマは「アクセシビリティ」。「近付きやすさ」などと訳される英単語で、障害者が健常者と格差なく社会参加できたり、情報を取得できたりする環境を目指している。

篠田吉央キャスター:
国連のウィーン事務所です。こちらでは3日間にわたってゼロ・プロジェクトの国際会議が開かれています

会場では、世界で行われている先進的な「ゼロバリア」の取り組みが紹介された。体の不自由な人がハイキングなどを楽しむため、支援者の育成などを行うチリのプログラムや、目が見えない人に紙幣の種類などを教えるチェコのアプリなどもあった。

紹介だけでなく、参加者同士が各取り組みについて意見交換し、新たなアイデアを構築するのもこの会議の特徴だ。

「相手を知ることが理解に繋がる」各国の取り組みを日本でも

そんな、ゼロ・プロジェクトを通じて出会った、世界の先進的な取り組み。これらを日本国内に伝えるため、岡山放送では、オンライン説明会を行うほか、各国の取り組み動画を日本語で紹介するサイトを立ち上げることになった。

動画を翻訳したのは、岡山市のノートルダム清心女子大学の学生だ。世界の取り組みの翻訳を通じて、アクセシビリティについて意識が高まったという。

翻訳を担当した学生:
背景知識を得ることで、自分が知らなかったものを知ることができて、翻訳にも影響していくことが勉強になった。(バリアフリー活動に)あまりなじみがなかったので、最初は理解に苦しんだ部分もあった。相手を理解するのも大事だと思うが、まずは相手のことを知ることが理解につながると思う

翻訳を担当したノートルダム清心女子大学の学生
翻訳を担当したノートルダム清心女子大学の学生

手話で説明付ける「岡山モデル」考案…“世界が広がる”一助に

こうした中、5月に国会で「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」が成立・施行された。情報取得や意思疎通に関して、健常者と障害者の格差をなくして「障壁のない社会」を目指す法律だ。

篠田吉央キャスター:
この法律を受け私たちOHK岡山放送では、日常の様々なものに手話で説明を付ける、新しい岡山モデルを考えました

例えば、タオルの脇にあるQRコードを読み取ると、商品の説明が手話と字幕で表示される。また、絵画を鑑賞する際に聴覚障害者は音声ガイドを使えないが、QRコードから絵画を説明する手話動画を見ることで、文化・芸術分野での情報アクセシビリティ向上も期待できる。

大原美術館・柳沢秀行 学芸統括:
たくさんの情報の中から何を言語としてお伝えするか、そして言語としてお伝えする時もどういった手話がいいのか、それぞれの相手に何が一番適した伝え方なのかということを常に気を付けないといけないと思っています

QR作成に協力した佐藤美恵子さん:
どこに行っても情報がわかり表示されるものがあれば、聞こえない人もうれしいし情報も得ることができる。生活が豊かになり世界が広がる

QR作成に協力した佐藤美恵子さん
QR作成に協力した佐藤美恵子さん

国の内外で注目を集めるアクセシビリティ。障壁のない社会を目指す様々な取り組みが広がり始めている。情報から誰一人、取り残されないこと願っている。

(岡山放送)

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