今月国会に事前申請を行わずにウクライナに入国した立憲民主党の小熊慎司衆議院議員。
党から役職停止1か月、国会から厳重注意の処分を受けた小熊氏が「軽率だという意見は真摯に受け止める」としたうえで、「ウクライナ国内で見てきたものを皆さんに共有したい」とインタビューに応じた。
外務省はウクライナ全土を危険レベル4(退避してください。渡航はやめてください)としている。

ウクライナに帰国する車が長蛇の列に
――今回の視察日程について教えてください?
小熊慎司衆議院議員:
私は4月29日に日本を発ち、トルコ経由で30日ポーランドのクラクフに着きました。クラクフはウクライナのリビウから直線距離で150キロぐらいの街です。今回はポーランド、スロバキア、ルーマニア、モルドバ4か国のウクライナ国境を視察して回る予定で、日本から通訳が同行し、移動はオートバイと電車でした
――そしてウクライナ国境に向かったと?
小熊慎司衆議院議員:
国境近くにある鉄道の拠点プシェミシル駅では、ウクライナから避難してきた人々がいました。ぬいぐるみを大事に握りしめている子どももいました

小熊慎司衆議院議員:
国境のメディカ検問所に行くと、食事や医療を提供する難民支援センターがありました。ヨーロッパ、アメリカ、カナダなど世界各地からボランティアが集まり、ウクライナの大学生も活動していました

小熊慎司衆議院議員:
検問所近くでは、ウクライナに帰国する人たちの車が10キロ以上渋滞している一方で、ウクライナからくる車線はガラガラでした

「長期化しても避難民をずっと引き受けていく」
――避難してくる人よりウクライナに戻る人のほうが多いと?
小熊慎司衆議院議員:
はい。いま国外に避難している方は約600万人ですが、ウクライナ国内で避難生活を続ける人々は800万人います。もちろん国外に避難されている方への支援も大事ですが、国内で避難している人の支えをどうすればいいのかも考えなければいけません。国境沿いでは人身売買や臓器売買を行う犯罪集団がいるという噂も聞きました
――その後小熊さんはスロバキアに移動したのですね?
小熊慎司衆議院議員:
スロバキアではコシツェの避難民支援センターに行きました。スロバキア国内では避難民のうち8割は個人宅で受け入れていて、就労もしていると聞きました。そこで現地のスタッフに「長期化したらどうするのか」と聞いたところ、「何を聞くんだ。長期化しても僕はずっと引き受けていく」と怒られましたね。仮設住宅がありましたが、コンテナを改造したような、工事現場のプレハブのようなものでした。日本は仮設住宅について東日本大震災など様々な災害の中で経験と知見がありますから、ウクライナ支援に活かせると思いました

「これが戦時下かと一瞬目を疑いました」
――そしてポーランドに戻り、その後ウクライナに入国したんですね?
小熊慎司衆議院議員:
ポーランドで情報収集し、リビウなら安全が確保されるとウクライナ行きを決めて5日朝、電車で向かいました。ポーランドとウクライナは時差が1時間あって、リビウに昼頃に着くとまずホテルにチェックインして、周辺を散策してみました。このホテルは臨時的に在ウクライナ日本大使館が置かれていた場所ですが、いま大使館はポーランドのジェシュフに退避しています。G7でウクライナ国内に大使館を戻していないのは日本だけです

――リビウの街の状況はいかがでしたか?
小熊慎司衆議院議員:
ホテルのそばにイワン・フランコ記念公園があり、遊具がある広場では多くの子ども連れの家族たちが遊んでいて、一瞬これが戦時下かと目を疑いました。世界文化遺産でヨーロッパの「隠れた宝石」と言われているリビウの歴史地区近くにはオペラバレエ劇場があり、プログラムも行われていました。劇場には多くの人々が集っていて、噴水のある所では子どもや若者たちが水と戯れていました

飲食店や商店、お土産屋が開かれ路上ライブも
――日常が戻りつつあると?
小熊慎司衆議院議員:
リビウの歴史地区は様々な飲食店や商店、お土産物屋も開かれていて、賑わっていました。路上ライブもあちこちで演っていました。散策しながら夕食場所を探していたら、(現地時間)午後8時過ぎに突然空襲警報が鳴りました。しかし警報が鳴っても慌てる人は皆無で、レストランの中の客はそのままいました。後で確認したところ、爆撃は無かったそうです

――リビウでの国内からの避難民支援の状況は?
小熊慎司衆議院議員:
6日早朝、ホテルから歩いてリビウ駅前の避難民支援センターに行きました。ウクライナ国内外からボランティアが集まっていましたが、残念ながら日本の支援団体の姿はありませんでした。ウクライナでは多くの方々から日本の支援への感謝の言葉を頂きましたが、ウクライナ国内で日本の支援活動がされていないことには、無言で苦笑いされる反応が多かったです

「日常を続けることが我々の戦いだ」
――リビウの市民とはどんな話をしましたか?
小熊慎司衆議院議員:
ホテルの近くには聖ユーラ大聖堂がありました。ちょうどイースターの時期だったので、多くの人々が祝いに集まっていました。卵のオブジェはウクライナ国内各地から送られたもので、戦争がなければもっと多くの卵が集まるそうです。集まっていた方々と話をしましたが、皆が「私たちはソ連時代も抵抗してきた。絶対ロシアには負けない」と。あるご婦人からは「日本人も頑張って北方領土取り返しなさい」と言われました。北方領土のことをヨーロッパの人が知っていることに驚きました

――対ロシアへの意識は高いですね?
小熊慎司衆議院議員:
また人々から「こうして日常を続けることが我々の戦いだ。戦時下だけど普通の生活、経済活動を続ける。特別なことをしたのでは、プーチンに屈したことになる」と何度も言われました。リビウ在住の日本人からの紹介で、リビウ国立工科大学のウクライナ日本センター長のイゴル・ゾリーさんに話を伺いました。彼は日本語教師でもあり、静岡に10年滞在していたので日本語はかなり上手でした。彼も「ロシアには絶対妥協しない。日常は止めないし、大学では学びを止めない。戦時下でも文化の維持発展をすることが重要です」と語っていました

「日本人はもっとウクライナに来てほしい」
――リビウの市民から日本に対して何か言われましたか?
小熊慎司衆議院議員:
私に対しては「日本からたくさんの支援をありがとう」と言っていましたが、「もっとウクライナに来てほしい」とも言われました。確かにウクライナでは日本人の姿を見なかったです。NGOも渡航を止められているし、大使館もない。やはり日本の顔がウクライナ国内で見えていないのですね。戦況は刻々と変化はしていますが、初期の混乱期から新たなフェーズに入っていると感じましたが、残念ながら日本はその対応がほとんどできていません

――具体的にどのような支援が今後必要だと感じましたか?
小熊慎司衆議院議員:
ウクライナの日常を支えることが真のウクライナ支援の一つであり、ウクライナの尊厳と誇りに沿った支援となります。そのためにも戦況を踏まえつつ、地域ごとに渡航制限を見直し、早急に日本大使館をウクライナ国内に戻すこと。そして日本のNGOの活動をウクライナ国内で展開させること。さらに日本とウクライナ間の経済活動において税制優遇や支援策を講じてウクライナの国内経済を支えることが必要です
東日本大震災の経験も踏まえた支援策を
――災害大国日本としての知見や経験も活かせそうですね?
小熊慎司衆議院議員:
日本の災害経験、とりわけ東日本大震災の経験を踏まえ、ウクライナ国内の自治体や各種団体、企業などが日常活動を維持していけるような支援策を講じることですね。不発弾や地雷撤去などの技術、人材支援、ウクライナ国内外での仮設住宅支援もあると思います
――ありがとうございました
【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】