この“誤送金”をめぐる問題はこれまで何度も繰り返されてきました。事例を振り返ると、お金を返してもらうのが難しい実態が見えてきました。あなたの身にも突如降りかかるかもしれない誤送金。お金は回収できるのでしょうか?

「支払い督促申し立て」も返金されず…

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2020年、コロナ禍において、給付金が一律10万円ありました。行政は非常に忙しかったためか二重振り込みが起きていました。茨城・取手市、福島・天栄村、大阪・寝屋川市。茨城と福島は全額返金されているのですが、大阪に関しては、1049世帯2億2930万円のうち、まだ249万円お金が返ってきていません。これらについて市の担当者は、裁判所への支払い督促申し立てを済ませています。

この支払い督促申し立てに“強制力”はあるのでしょうか。

若狭勝弁護士:
申し立てをして、将来的に強制力が発生する場合は出てくるのですが、資力・資産・財産が裁判をする相手にあるかどうかにかかっています。それがなければ、ほとんどは取りっぱぐれるということになります。

「返す必要はない」自治体の誤送金が裁判に発展

大阪・摂津市です。2018年、住民税の還付金として1502万円多くお金を払ってしまいました。気づいたのは、1年半後の2019年。お金を返してくださいと言ったものの、振り込まれた人は「お金は使ってしまった。返す必要はない」ということで、市側は利息分を含めて提訴。

その結果、2021年、大阪地裁は1502万円と利息分の支払いを命じました。市側が勝ったのです。振り込まれた市民も控訴はしませんでした。しかし、5月17日時点で1円たりともまだお金が返ってきていないということなんです。現在は返済方法など返還に向けて協議中ということですが、なぜお金が返ってくるのが難しいのでしょうか。若狭弁護士曰く、「家や車、時計など換金できる資産がない可能性があるのでは。なので全額の返還は難しいのではないか」ということです。

では、働いて給料でお金を返せば?という案があると思いますが、実は、差し押さえにはハードルがあります。

思わぬ“盲点”「差し押さえにハードル」も

給料に関しては、差し押さえ可能金額が手取りの4分の1までと決まっています。これはその人の最低の生活を守るため、ここまでしかお金というのは押さえられないといいます。

自治体の誤送金だけではなく、身近なところにも誤送金が起きていました。

相手が“断固拒否”返金諦めたケースも

Aさんのケースです。2万円を見ず知らずのBさんに振り込んでしまったのです。お金を返してもらうためにAさんは、銀行に連絡をして返金のお願いをしました。銀行側から連絡がいったものの、Bさんはそれを拒否。Aさんはどうしたのかというと、「返してはほしい、でもやっぱりこの後裁判などで費用がかさむと全体的にマイナスになる。もともと自分が悪いので諦めた」といったケースもあったそうです。

相手が行方不明で返金困難 取り返すまでに長い道のり…

その他のケースを見てみると、Aさんが自宅をリフォームするためにインターネットバンキングで250万円を相手に送るはずが、これが誤送金でした。本来は銀行名があって、支店名があって、口座番号がありますが、Aさんは口座番号の1ケタだけを、本当は「1」と打たなければいけないところを「2」と打ってしまった。すると、名前が出てきてしまったのです。

この時にAさんはどう思ったのかというと、「お願いするリフォーム会社が個人営業なので個人名義でも疑問に思わなかった」そうです。なので、結果的にお金を振り込んでしまった。本当にお願いしている施工会社から送金ありませんよという連絡が。そこで初めて気づいたということです。

銀行側が相手側に連絡をしたものの、その時には時すでに遅し、すでに相手側とは音信不通になっていたといいます。ここからAさんの、この250万円を取り返す長い長い旅が始まります。

まずは、弁護士に依頼をします。相手の住所を突き止めようとしたところ、判明しました。実際その住所に行ってみると、すでに転居していました。登録されているところにいなかったのです。その後、なんとか振り込んだ方の居場所を突き止めました。しかしそこには、その人の妻と名乗る人がいて、「振り込まれた人というのは自分の夫。この夫は10年以上前にもう他界をしています」という説明を受けました。ただ、相続はその方でもあるので、弁護士はこの妻に返金をお願いしたのです。

ただ、この妻は、「これ振り込め詐欺なんじゃないですか」と。当然気持ちはそうです。怪しいなと思います。なぜならばこの妻も、亡くなった夫がこの口座を持っていたことを知らなかったそうです。

なんとか返金してもらうため裁判を起こしました。すると、この妻も理解をしてくれて250万円をそっくりそのまま返金してくれました。しかし、返ってきたのは170万円。なぜならば、弁護士費用と調査の費用というのが80万円もかかっていたので、1ケタ口座番号を間違えて、返ってきたものの高い手数料になってしまいました。

他にも企業間でも誤送金というのがありました。

相手に負債があると返金困難?「負債にあててしまわれる可能性」

Aという会社がBという会社に650万円お金を送ってしまいます。ところがBという会社は、700万円を銀行から借りて負債があった。事実をAは伝えて、Bも、わかりました誤送金なんですね返しますね、という話になっていたものの、お金を貸していた銀行サイドとするとお金に色もついてないし名前もないので、650万円は負債の返済に充ててください、と一時的にそういう状況なってしまっていたそうです。このあたりも、非常に難しい問題となります。

若狭勝弁護士:
銀行は自分が管理する口座にお金が入ってくると、あくまで民事的な話ですけれど、その口座に入ってきたお金っていうのは一応銀行との間では有効な扱いになるということなんで、自分の口座に入ってきたお金は、借金の負債の返済に充ててもらおうかというふうに考えること自体はあり得る話です。

誤送金された側も一苦労!?

今度は逆に、振り込まれた側だった場合でも見ていきます。

Aさんのもとに、見ず知らずのひとから50万円ほどお金が入ってきました。Aさんはこれなんだろうということで銀行に返しますと電話をしました。

ところが銀行は、電話では受付できません窓口で手続きを行ってください、ということで、当然15時までです。Aさんは手続きで合計1時間半程度かかってしまってアルバイトも急きょずらすことになり、時間も労力も、大変な思いをしたということです。

ということで、一番は誤送金をしないことなのですが、しないことのほかに大事なルールがあります。

誤送金をしてしまった側が気づいてから5年、または誤送金から気づいていなくても10年で実は時効を迎えます。

これを踏まえた上で「もし自分の口座に身に覚えのないお金が振り込まれていたらあなたはどうしますか?」と聞いたところ、61.4%が「自ら連絡する」と言っているんですが、他の人たちは「相手からの連絡があるまで待つ」など3割を超える人が何もしないわけです。自分から能動的に行動しないわけです。送ってしまった側も確認作業というのが必要です。

そんな中、アメリカの誤送金というのも見ていきます。

CNNによれば、2021年、アメリカのルイジアナ州。銀行が何かの手違いで破格の500億ドル、日本円にして約6兆円を1人の個人に誤送金をしてしまいました。これに対して振り込まれた男性は、持ち逃げをしてしまったのかそれとも返金をしたのかというと、「道徳的に正しいこと、法律的に正しいことには大きな違いがある。私が稼いだお金ではないから私が使うお金ではない」と、全額返金したそうです。

若狭勝弁護士:
私これまで人間を見ていて、人間の心って悪魔と天使が併存するんですよね。
なにかあると悪魔のささやきというのが聞こえてくると。悪魔がどんどんどんどんムクムクと大きくなると。そういう悪魔のささやきに負けないような形でアメリカの話のような形で正義とか道徳とかの正しい事っていうのは常に大事にしておかなければいけないというふうに思います。

(めざまし8「わかるまで解説」5月18日)