極めて少ない病気に苦しむ患者を救いたいと医師と企業による産学連携が立ち上がった。

1ヶ月以内に適切な診断を

通常時と比べ、倍以上に腫れた上唇や片方だけが大きく膨れ上がった右手。これは、HAE(遺伝性血管性浮腫)という希少疾患の症状だ。

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激しい腹痛を繰り返し、最悪の場合は命を落とすこともあるという"希少疾患"に苦しむ患者を救う新たな取り組みが始まっている。

HAE患者会 NPO法人「HAEJ」・山本ベバリーアン理事長:
足に浮腫が出て自分の靴が履けなくなる。その状態が続き重症になると歩けなくなる。痛みが強く(正しい診断が出るまでは)家で苦しみ、大丈夫になったら生活を続ける状況。12歳で発症して52歳に正しい診断が出た。すごく長かった。

HAEにかかるのは日本人のおよそ5万人に1人。その希少性ゆえに医師の認知率も低く、診断が確定するまでに膨大な時間を費やしてしまうことも大きな問題となっている。

こうした患者を早く救いたい。そんな思いが結集し新たなコンソーシアムが誕生した。

医療従事者やIT企業、製薬会社などが業界を横断してタッグ。医療従事者は医学的知見や現場の声、IT企業はAIや遠隔相談をはじめとするITノウハウなど、それぞれの情報を共有し一丸となって診断率の向上を図る。

国立病院機構災害医療センター 消化器内科・佐々木善浩 医師:
今までHAEの患者が診断されるまで約15年かかっていた。内科の先生にはまだこの疾患の認知度が低い現状がある。

コンソーシアムでは、HAEを知らない内科医が専門医から気軽に診療アドバイスを受けられる遠隔相談システムを構築。 来月から実証実験を開始する。

また、医師が電子カルテや健診データなどを入力するだけで、AIが過去のHAE患者データと照らし合わせてHAEの疑いのある患者を見つける「AI診断」の実装も進めている。

国立病院機構災害医療センター 消化器内科・佐々木善浩 医師:
私たちのコンソーシアムに照会してもらえれば1ヶ月以内に適切に診断する事が可能になります。他の希少疾患でも同様に取り組みが推進されることが期待され、希少疾患と闘っている患者さんに関して、より今後の闘う一助になればと考えている。

アメリカでは新治療法の開発に成功

三田友梨佳キャスター:
デロイト トーマツ グループの松江英夫さんに聞きます。デロイト トーマツ グループは、この希少疾患と向き合うコンソーシアムの設立と運営などの支援を行っているとのことですが、こうした試みが患者さんの救いに繋がって欲しいですね。

デロイト トーマツ グループCSO・松江英夫さん:
こうした希少疾患は世界で7,000近くあると言われていますが、早期の診断が最大のボトルネックなんです。その課題を解決するために立場を超えて、業界をまたいでいろいろな方が集ってコンソーシアムを組む。これは画期的な取り組みだと思います。

コンソーシアムは患者さんにとってメリットがあるだけではなくて、医師にとっても専門知見を共有することで正確な診断ができますし、製薬会社にとっても、こうした診断が確立すると現在の薬が使えるようになる。それによって投資回収の目処が立つなど様々なメリットが見込めるんです。

実際アメリカでは10年近く前に希少疾患に対するコンソーシアム、産官学が連携して立ち上がり、早くも新治療法の開発に成功するなど具体的な成果をあげています。

三田キャスター:
日本でもコンソーシアムを加速させるためには何がカギになりますか?

デロイト トーマツ グループCSO・松江英夫さん:
まずは希少疾患の認知と診断の実績を積み重ねることが大事だと思います。
コンソーシアムのネットワークを通じて照会が増え、それによって早期診断の確率が上がり、症例の蓄積が増えることはそれぞれにメリットをもたらす好循環に繋がります。

これを持続的な取り組みにしていくには、行政の理解と後押しが不可欠です。

三田キャスター:
行政の理解と後押しとは具体的にどういうことですか?

デロイト トーマツ グループCSO・松江英夫さん:
まずは診療報酬体系の見直しです。遠隔診療においては、患者と医師が立ち会う場面は議論が開始されたところですが、今回のケースにある、遠隔による医師同士のコミュニケーションは対象外になっています。

これからこういった取り組みが広がっていく上では、専門知見を提供する医師の報酬手当が不可欠になります。さらには、AIの診断システムを普及させていくには、医療機関にとっても受け入れやすくなる規制緩和といった手立ても必要になってくると思います。

今回のコンソーシアムをきっかけに官民が一層連携しながら他の希少疾患にも転用できるような環境とルール作りの動きが加速することを期待したいと思います。

三田キャスター:
5月16日は、HAEの患者さんを支援して病気について知ってもらう「HAE DAY」が10周年を迎えた節目の日でもあります。

HAEは患者さんの数も多くないため、病気について知っている人も少ないのが現状です。1人で抱え込んで苦しんでる方も沢山いらっしゃるのだと思います。
今回の取り組みで少しでも多くの方が適切な診断、治療が受けられることを期待したいですし、 私たちもこうした病気があるという理解を深めていきたいと思います。 

(「Live News α」5月16日放送分)