来月10月 発泡酒・ワイン増税へ

来年10月、一部の酒が2割以上値上げされるのをご存じだろうか。現在、「酒税改正」のまっただ中で、2020年10月から段階的に税率が変更されていく。「ビール系飲料」「清酒・果実酒」「チューハイ等」でそれぞれ税率が一本化され、ビールや清酒は減税となるが、発泡酒やワインは増税となる。

その増税幅は、ワインの場合、増税前(2020年9月まで)と比べると、来年は25%アップとなり、実質的な物価上昇といえる。

課税を行うのが国税庁の仕事。時に、税金の滞納や脱税を取り締まる、税金Gメンの顔も持つ。一方で、国税は「産業振興」の使命を担っているのだ。酒税を監督しながら、業界を盛り上げる。「課税」と「産業振興」。両極端な役割を任された国税庁の取り組みを覗いた。

情報交換会に、ブランディング化。国税庁の狙いとは?

4月中旬、関東信越国税局(さいたま市)に、長野県、茨城県、栃木県などのワイン醸造家たちが集まった。「ワイン醸造研究会」と題した会で、今回で第7回目を迎えた。会には約50人の醸造家たちが参加し、品質向上を目的とした技術的な情報交換やそれぞれのワインや、シードルと呼ばれるリンゴ酒をテイスティングしていた。

「こんなにたくさんの種類のワインやシードルを一度にテイスティング出来る機会はない」と茨城から参加した生産者は熱心に香りや味の比較をする。

第7回目の今回からは「QDA」とよばれる味の評価基準が導入された。渋みの強さや香りの特徴などが五角形で表示されていて、客観的に自分のワインを知ることに役立っている。こうした技術交換会はビールなどでも開催されていて、毎回多くの生産者の意見交換の場になっている。

「産業振興」にはある思惑が・・・

このほかに、「酒のブランディング」も推進。「GI(地理的表示)」といい、国税庁が認定したワイン、ウィスキー、日本酒などはその地域の「産地のお酒」としてブランド化する取り組みだ。シャンパンがフランス・シャンパーニュ地方特産のスパークリングワインを指すように、その産地で作られたブドウや水を使うなど条件をクリアした酒にのみに産地ワインとして名乗る権利が与えるものだ。

こうした研究会やGI認証の取り組みなどの効果もあってか、日本の酒が海外で評価されはじめた。ジャパニーズウイスキーはじめ、日本の酒が国際的なコンクールで賞を獲得し、1本あたりの単価が高くても売れるようになったのだ。輸出額が2021年に約1146億円と、10年連続で過去最高を更新。海外で人気が出ることで、日本国内での需要も高まることもあり、生産者の経営安定にも繋がるというわけだ。

海外に輸出されるワインは免税となり酒税は増えないが、輸出によって会社の売り上げが上がれば法人税が増加するという。「産業振興」で業界を盛り上げることで、「税収」アップにもなるのだ。日本のワインのブランド化推進の一方で、国税庁のしたたかな思惑も垣間見える実情だ。

ただ依然、総じて酒業界は厳しい状況にある。逆風のなかでどのように知恵を絞り酒の販路を増やすのか。国税庁と生産者の挑戦はつづく。(画像は、「ワイン醸造研究会」の様子)

(フジテレビ社会部・国税担当 長谷川菜奈)

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