名古屋土産の「エビせんべい」で知られる菓子メーカー「坂角(ばんかく)総本舗」。エビせんべい「ゆかり」の大ヒットの裏で、製造過程で出る大量のエビ殻の処理に、長年苦心していた。
そしてついに、再利用を模索する中で出会ったベンチャー企業と、エビの殻の成分の抽出に成功。130年余りの歴史の中で、初めて食品以外の商品ができ上がった。その裏側を取材した。

マイナーチェンジで若者や外国人にアピール 挑戦続ける老舗「坂角総本舗」

この記事の画像(22枚)

愛知県東海市に本社を置く、エビのマークでおなじみの「坂角総本舗」。

主力商品のエビせんべい「ゆかり」は、名古屋を代表するお土産の一つだ。

その知名度を一気に全国区へと押し上げたのが、2007年に登場した名古屋でしか買えない“黄金缶”だ。今では、売上をけん引する大ヒット商品になっている。

2022年2月、発売以来初めて、その老舗のシンボルともいうべき黄金缶のデザインを変更した。これまでエビのマークの下に書かれていた「ゆかり」の文字を「NAGOYA」に変更。発売から15年にわたり親しまれてきたデザインを変えたのには、老舗ならではの理由があった。

坂角総本舗の担当者:
若い方により親しんで欲しい思いと、コロナが落ち着いた後に海外の方にもより名古屋を知っていただきたい

客の年齢層が、年を追うごとに上昇していることに大きな危機感をおぼえる中で、コロナの影響を受けた。年間1億枚を突破していたゆかりの生産数は、3割も減少した。「何としても若い世代を取り込みたい」「コロナ後を見据えて、海外からの旅行客にももっとアピールしたい」。
マイナーチェンジにはそんな思いが込められていた。

エビ殻粉末で カレーパンにプリン? ハンドクリームも

2021年5月、坂角総本舗は、名古屋市の中心部に直営店「BANKAKU KITCHEN」を期間限定でオープンした。そこには、若い世代にもっと自分たちのことを知ってほしいという願いの他に、“エビの殻”の再利用という目的があった。

店では、エビの殻を乾燥させ粉末にしたものをパン生地に加えたカレーパンに…。

エビの殻を食べさせた鶏の卵で作ったプリンなど、エビの殻を使うことにこだわった。

2022年2月に発売したハンドクリーム「EBIKARA MIRAI」(1本2970円)にも、エビの殻が使われている。このハンドクリームが実は、坂角総本舗の未来を握る商品の一つだ。

売れれば売れるほど…廃棄されてきたエビの殻 再利用は「永年の課題」

それにしても、なぜエビの殻にそこまでこだわっているのか?

坂角総本舗の坂泰助社長:
エビの殻は長年廃棄物として処理してきたから、何とかしたいのは永年の課題。どう加工すれば価値を生むのか、ずっと葛藤してきた

坂角総本舗は、1889年に愛知県東海市で創業。家に持ち帰って焼いて食べるエビの「生せんべい」の販売からスタートした。1966年には、人と人とを結ぶ贈り物になってほしいと名付けられた「ゆかり」が誕生。高度経済成長期の勢いに乗り、風味豊かなエビせんべいは、開通していた新幹線で全国各地へと広まった。

その「ゆかり」の人気を支えていたのは、エビの身だけをすりつぶして生地に入れ焼き上げたその味。ゆかり1枚を作るのに天然のエビ7匹を使用することが、老舗のこだわりだった。

一方で頭を痛めていたのが、製造過程で出る大量のエビの殻だった。ゴミとして処理するのはもったいないと長年利用法を探っていた。

坂泰助社長:
当時エビの研究をして、エビの殻には良い成分があることまではわかっていた

再利用めざし食品開発 パッケージに混ぜ込むも生臭く… 続く試行錯誤

エビの殻には良い成分がある、と信じて没頭した再利用の研究。狙いは、せんべい以外の主力商品を作ることだ。「ゆかり」で稼いだお金をもとに、老舗のプライドをかけ完成したのは、エビの殻から抽出した「キチン」という成分を使った健康食品だった。しかし…。

坂泰助社長:
生産方法やお金のかけ方、かなり生産コストがかかったものですから、あえなく撃沈してしまった

残念ながら商品は売れなかった。その後、研究事業は大幅に縮小され、エビの殻のことは話題にものぼらなくなった。

黄金缶のヒットで「ゆかり」の増産が続くにつれて捨てられるエビの殻も増加。そして、2012年頃には遂に一日10トンを超えてしまった。

さらに、環境保護への関心が高まり始めていたこともあり、エビの殻を再利用するための研究事業が再び立ち上げられた。

坂角総本舗の担当者:
当時はSDGsのような言葉はまだなかったが、捨てること自体がもったいないのと、処分コストもかなりかかっていました。あとは、天然のエビ殻なので価値としては十分にあるのではないかと

エビの殻そのものを使った製品の開発を続けた。その中で、試作品にまでたどり着いたのが“ゆかりを入れる紙の箱”。エビの殻を箱の紙の原料に混ぜたのだ。しかし…。

坂角総本舗の別の担当者:
エビの殻の繊維質を再利用して紙に添加することで、より強度が高くなるんじゃないかと試したが、結局生臭くなって…

実験はあえなく失敗に終わり、実用化には至らなかった。

ベンチャー企業と出会い開発 エビの殻の成分抽出したハンドクリーム

そこで再び浮上したのが、過去の研究データが残っていたエビの殻の成分「キチン」だった。エビやカニの甲羅、昆虫やキノコにも含まれているキチンは、抗菌性や保湿性などに優れた素材として、医療や食品など幅広い分野での利用が期待されている。

ただ、成分をうまく取り出すことが難しく、坂角総本舗にはその技術がない。そのときに出会ったのが、ある展示会で目にした、カニの殻から採ったキチンを使った「カニダノミ ハンドケア ハンドクリーム」(3080円)だった。

商品化に成功していたのは、最先端のベンチャー企業「マリンナノファイバー」だ。鳥取大学工学部で、環境に負荷をかけない素材の研究を続ける伊福伸介教授が率いていた。

伊福伸介教授:
未利用資源を有効活用したいという点では共通していますので、ぜひ協力したいと

アレルギーの原因物質もほぼ除去…「新時代の生存戦略 第1弾」

強力なパートナーを得た坂角総本舗は、エビの殻から無事にキチンを取り出し、気になる甲殻アレルギーの原因物質もほとんど除去することに成功した。
開発から2年がかりで、ハンドクリーム「EBIKARA MIRAI」が完成。坂角総本舗の130年余りの歴史の中で、初めて食品以外の商品ができあがった。

伊福伸介教授:
エビの殻由来のキチンナノファイバーの有効活用が進むことによって、(エビの産地の)東南アジア地域に新産業ができて貧困問題が解決するとか、SDGsに関わる目標の達成に貢献していければ

坂角総本舗の坂社長:
これからは環境に配慮しない企業は支持されなくなる。新しい時代の生存戦略という意味では、しっかり取り組んでいかないと。記念すべき第1弾ですから、すぐに第2弾、第3弾とすでに着手しています

名古屋土産の老舗の生き残りをかけた挑戦は、まだ始まったばかりだ。

(東海テレビ)

東海テレビ
東海テレビ

岐阜・愛知・三重の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。