大阪府と兵庫県にまたがる「伊丹空港」(大阪国際空港)で、特定外来生物の「アルゼンチンアリ」が繁殖していることが分かった。在来種が脅かされる恐れもあり、注意が必要な状況だ。
伊丹空港を運営する「関西エアポート」の担当者によると、アルゼンチンアリは2021年12月、空港近くの「伊丹市昆虫館」(兵庫県伊丹市)で発見。調査で2022年3月、空港内での繁殖が確認された。繁殖場所は一般人が立ち入ることができないエリアで、発生源は不明だという。

そしてこのアリ、やっかいな生物のようだ。環境省の担当者によると、原産地は南米で、体長は約2.5~3ミリ。国内では1993年に広島県で最初に確認され、現在は12都府県(東京、神奈川、愛知、岐阜、京都、奈良、大阪、兵庫、岡山、広島、山口、徳島)で定着が確認されている。

「ヒアリ」のような毒はないが、移動能力や繁殖力が非常に高く、不快な害虫になるという。在来の生態系が破壊される可能性もあるとし、担当者も「国内のアリを駆逐してしまう」と懸念している。
アルゼンチンアリはタフ。巣はスーパー大家族
迷惑な存在に思えるが、私たちの生活にはどのように影響するのだろうか。アリの生態に詳しい、国立環境研究所の生態リスク評価・対策研究室の五箇公一室長にお話を伺った。
――アルゼンチンアリはどんなアリ?
原産地は南米で、河川敷の荒地などに生息して川辺の有機物を餌に生きています。河川氾濫から逃げなければならないので、定着よりはいつでも移動できるタイプ。活動できる温度域も5~30℃くらいと広くて活動時間も長い。タフです。
日本の一般的なアリは女王アリが1匹で、一つの家族として活動しますが、アルゼンチンアリは一つの巣に女王アリが何匹もいて労働や餌をシェアしながらスーパーコロニーという大家族を形成します。繁殖力も非常に高く、女王アリ1匹ごとに1日60個の卵を産み続けます。日本のアリの倍以上です。こうした習性が侵略性につながっています。

――空港で繁殖が確認されたことをどう受け止めた?
アルゼンチンアリは巣ごと移動する習性があり、建物などの温かい場所には好んで入ります。海外では自動車に入り込んで異常を起こしたり、家庭の電気ケーブルに群がる事態も報告されています。航空関連の機器に巣を作るようなことがあれば危険も伴うため、排除は徹底しなければならないでしょう。空港は物や人の動きもあります。荷物や飛行機などを通じて、他の場所に飛び火することも防ぐ必要があります。
――アルゼンチンアリはどんな環境を好む?
あまりに極端な寒さには強くないと思われ、日本国内でも関東から西南にかけて分布が広がっています。また自然の森よりも宅地や畑、コンクリートの隙間など、人間の手が加わったところを好みます。そうしたところだと、競争相手も少ないので、増えやすく、住宅も格好の住み家となるでしょう。3階くらいの高さまでは平気で登りますし、甘いものが好きなのでお菓子などにも群がります。人間が食べ残した肉や魚なども好んで食べます。

毒はないが不快害虫…一般的なアリと見分けるポイントは?
――身近に出没したら、生活には影響が出る?
ヒアリのような毒はないので危険性は低いのですが、家の中に大量に入り込むので非常にうっとうしい。繁殖が進んだ地域では、布団に入り込んできたり、目を離した隙にテーブルのケーキが真っ黒になるほど群がったという話もあります。精神的に参ってしまうような「不快害虫」ですよね。人間に直接危害を与えるようなことはありませんが、場合によっては衛生的なリスクも懸念されるかもしれません。
――在来種のアリと見分けるポイントは?
難しいです。外見が地味で大きさも小さいので、1匹2匹が歩いているだけだと我々も区別がつきません。ただ、集団で密になって移動する習性があるので、すごい数で行列を作ります。そして動きが速い。日本のアリとは全然速度が違っていて、早送りのように見えます。

――アルゼンチンアリを見つけたらどうすればいい?
特定外来生物のため駆除が必要となるので、まず、疑わしいアリを見つけたら動画などを撮影して、近隣自治体の環境関連の部署や私たちの研究所にお知らせください。アルゼンチンアリであると判明したら、駆除について自治体と話し合いをしてください。主な駆除方法はベイト剤による巣レベルの防除(有効成分の入った餌を巣穴に持ち帰らせる方法)となります。
――市販されているアリの駆除剤は有効なの?
これまでの防除事業で「フィプロニル」という殺虫成分が本種に対して極めて高い効果を示すことが明らかとなっています。実際に本剤による防除によって、関東地方において複数の定着個体群の根絶に成功しています。有効成分は製品に記載されていて、この駆除剤もスーパーや通販で購入できます。詳しくは、環境省のホームぺージに掲載されている駆除マニュアルを参照ください。

――最後に、このほかに伝えたいことを教えて。
アルゼンチンアリは貿易と共に日本に侵入してきた外来種です。このほかにも様々な外来種が海外からの荷物に紛れて侵入を続けています。こうしたニュースをきっかけに自分たちの足元の自然にも目を配ってもらえればと思います。身近な虫や草花にも外来性が混じっているかもしれない。無関心を関心に変える機会としてほしいです。
空港では自治体などと連携してアルゼンチンアリの駆除を進めるという。不快害虫ということで、繁殖が広がるのは避けたい。やけに動きの速い、密集したアリを見つけたら、アルゼンチンアリではないかと疑った方がよさそうだ。