ウクライナへのロシアの軍事侵攻。 ロシアのプーチン大統領は、軍事侵攻の理由として、ウクライナの「非ナチ化」に言及している。 

いったいなぜ、ウクライナが「ナチス」と呼ばれるのか。 
そこには、第二次世界大戦の「独ソ戦」と深い関係があった。 
ウクライナ研究の第一人者、神戸学院大学の岡部芳彦教授の解説だ。

「ナチス」呼ばわりで侵攻を正当化か

(Q.プーチン大統領は、「ナチス」「ナチ」という言葉を頻繁に使っています。2月24日、演説で『NATOはウクライナの“ネオナチ”をあらゆる面で支援している、ウクライナの“非ナチ化”を目指さなければならないんだ』と言っています。まず、なぜウクライナがナチスと呼ばれるのでしょうか)
岡部教授:

第二次世界大戦以降、'ナチス‘という言葉はロシア人にとって、とても強いワードになっています。このワードがあれば、侵攻が正当化をされ、士気も高まるとみられます。
5月9日はロシアでは最大の休日でして、これは対独戦勝記念日、これはソ連時代から重要な休日だったんですね。軍事パレードなんかも行われます。赤の広場で。
そのナチスに勝ったという事実、ナチスを倒したという事実は、これはソ連の人、あるいはロシアの国民にとって非常に重要な意味を持ちます。やはり自分たちは正義だということを強調できる。
それで今回も、このウクライナがナチスだということによって、侵攻も正当化されてしまうし、士気も高まるし、ちょっと極端なことを言うと、ナチスを倒すためだったら、少々市民の犠牲が出ようが、子どもの犠牲が出ようが構わないというような、ちょっと危ない考えにもつながっていくということになります

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ウクライナによるジェノサイドは「全くない」

(Q.ウクライナによる、親ロシア派と言われている方たちへのジェノサイドを、ウクライナがナチスである理由の一つとしているんですが、事実関係はどうなんですか)
岡部教授:

一言でいうと、全くない。もちろん今回、8年間、戦争が2014年から続いてきた地域なので、当然戦闘が散発的に起こって、死者は、ロシア系武装勢力ですとか、ウクライナ軍にも出ている。
ただ、大量虐殺というようなことは全くありません。ただ、ナチスというと、どうしても虐殺っていうようなことと紐づけないといけないので、こういう主張をされてるという形になります

「独ソ戦」に翻弄されたウクライナ

(Q.ただ、もう一個深い歴史的な意味を持ってプーチン氏は、ウクライナがナチスだと表現をしているということですか)
岡部教授:

第二次世界大戦で、ナチスドイツはソ連に侵攻しました。その過程で、ソ連の一部を構成していたウクライナも関わってくるわけです。
主に東部・西部で対応が分かれて、西に近い方たちは、一部ウクライナ蜂起軍(UPA)という形で、一時的ではあるんですが、ナチス・ドイツに協力をしたことがあります。
ただ、これは最初だけ。当初の一時期ナチスに協力をした方が、確かにウクライナの中にいた。
一方で、実はソ連軍を構成する人の4分の1はウクライナ人だったという事実もあります。
戦後、ソ連側はウクライナ蜂起軍がナチスの協力者だっただろということで、ウクライナをナチス呼ばわりするようになった、と

岡部教授:
UPAは、前身はウクライナ民族主義者組織というものがありまして。これが統合されていくんですけども、最初は、ソ連からウクライナを独立させるために、ドイツに協力を求めるというか、協力してもらっていました。
ただ、第二次世界大戦が始まるとすぐ、はしごを外されまして、ドイツは独立を認めなかったんです。
ドイツに裏切られたので、ドイツとも戦う、もちろんソ連とも戦う形になりました。
一方で、ソ連軍にはもちろん、ナチスと戦うために多くのウクライナ人が兵士として参加をしまして、もう4分の1ぐらい、ソ連軍の4分の1ぐらいはウクライナ人だったのです

プーチン大統領の極端な歴史解釈

(Q.しかし、ソ連軍を構成していたウクライナ人たちのことは考慮せず、UPAだけを取り立てて、ウクライナはナチスだと)
岡部教授:

戦後も実は、UPAの人たちは、戦後もゲリラ化して、山にこもって、反ソ連活動を続けていたこともあって、ソ連の中ではナチス協力者だと言われてきました。
歴史の一部を切り取って、解釈が定まってしまった、という形です

(Q.最近になって、この一時期ナチスに協力をしたUPAの人たちと、ソ連に協力をした人たちが、手打ちをするというタイミングがあったんですね)
岡部教授:

2014年以降、ロシアがクリミアを占領した後から、歴史の見直し、あるいは歴史の和解というものが進んでいきました。両者ともこれはやはり、ウクライナのために戦った、ウクライナの独立を目指していたというような形で、元UPAの兵士と元ソ連軍の兵士、2人ともウクライナ人なのですが、握手を交わすというシーンもありました。このような歴史的和解がどんどん進められていったと。
しかしプーチン大統領の解釈は、もうソ連の公式見解のままの主張なのです。実は8年近くの間に、ウクライナでは大きな歴史的な和解がどんどん起こっているのに、そういうことは全く関係なく、逆に、握手をしたウクライナ人のソ連軍の軍人さんもUPAに寄ったと、ナチスに寄ったというような解釈をしてしまっている。
非常に極端な歴史的解釈、それを公式に大統領が発言をしている形になります

(関西テレビ「報道ランナー」2022年3月9日放送)

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