3700人を超える乗客・乗員の間で712人に新型コロナウイルスの「感染爆発」が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」(以下DP号)。日本と世界にウイルスの脅威を知らしめたこの舞台裏についてFNNでは4月19日午後8時からの番組「日曜 THE リアル シンジジツ」で改めて検証する。この記事では、番組内で検証要素の1つとなる日本政府の対応に絞ってより詳しく振り返るが、最終回となる本稿は、政府の対応を総括しつつ、船内感染拡大を防げたのか否かについて詳しく検証する。

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発生から1か月で乗客・乗員の下船が完了 3月1日(日)

2月下旬、乗客に続いて乗員のDP号からの下船が行われた。そして3月1日、乗船者全員の下船が完了した。加藤厚労相は記者会見で次のように語った。

「クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号につきましては、本日、最後まで船に残っておられた船長以下すべての乗員の方々の下船が完了いたしました。これによって、すべての乗客、乗員の下船が完了したことになります。この間、クルーズ船の乗客であられた7人の方がお亡くなりになりましたことは大変遺憾であり、改めてお亡くなりになった方のご冥福と、また、ご遺族の方にお悔やみを申し上げたいと思います」

そして加藤厚労相は今回の空前ともいえる困難なオペレーションについて振り返った。

「巨大なこのクルーズ船の中での検疫作業、そしてこれだけの感染が発生をしていたわけでありますが、これまでにない大変困難な作業であったと思います。それぞれの関係者の皆さんがその状況に対して適切な対応を考え抜き、一つ一つの問題を解決しながら、本当にそうした皆さんの努力でここまでの状況に至ることができたと考えております。厚生労働省を代表して、改めて全てのこうした取り組みに関わった方々に厚く御礼を申し上げたいと思います」

乗客撮影

この会見が行われた3月1日は、未曾有の事態の始まりとなった香港で下船した男性の陽性確認から、ちょうど1か月の節目の日だった。それから3週間あまり経った3月25日、DP号は船内の消毒作業などを終えて検疫所から検疫済証の発行を受け、長く停泊した横浜港を離岸した。

政府の対応に問題は? 船内隔離の理由は「大人数の受け入れ施設がなかった

厚生労働省の発表によると、DP号では乗客・乗員3711人中、実に712人の感染が確認されている(331人は無症状)。そしてそのうち、豪政府発表の1人を含め14人が亡くなった。(4月18日時点)

乗客・乗員のおよそ5人に1人が感染し、陰性とされた患者がその後陽性と判断される例も相次いだ。今回の政府の一連の対応に問題はなかったのか。

まずDP号のオペレーションへの批判として大きかったのが、乗客たちを船内にとどめたことが、感染者増加につながったのではないかとの指摘だ。

しかし、複数の政府関係者が口を揃えて指摘するのは3700人を超える乗客乗員を収容する施設がなかったということだ。「下船させると言ってもどこに下船させるのか」「今回は民間で受け入れてくれる所がなかった」などと証言している。

さらにある政府関係者は、「最初は別の船を借りて移ってもらおうかと思ったが、その船をどこから借りてくるのか。3700人を収容できる船は豪華客船しかなく、大変なお金がかかる」と述べた。別の船への移動も当初検討したが断念したのだという。結果、大人数を「個室」で待機させるにはDP号内で「船内隔離」する以外の選択肢が見つからなかったのだ。

また多くの外国人客が乗船していたため、外国客へ対応する環境が整っているDP号はまさに「ホテルシップ」だったことも判断に影響した。外国語でのコミュニケーションという点でも、DP号のスタッフは優れていたし、政府の施設などでの対応は困難だったという。DP号の外国人乗客を受け入れたある医療施設は、音声翻訳機「ポケトーク」を使って患者とコミュニケーションをとったという。

政権幹部は「DP号の乗員・乗客に関しては最初から下船させる選択肢はなかった」と語り、政府の対応には問題なかったとした上で「これ以外の方法はない」と今も説明する。

「感染拡大」はいつだった?横浜港入港後には拡大していない?

感染がなぜ拡大したのかについては政府内でも様々な見方がある。船内隔離中の感染に関して当初から指摘されていたのは乗員を介しての感染である。19日に国立感染症研究所が公表した分析結果では、船内で乗客の客室待機が始まった5日以降、乗員の感染が増加していて、また「乗員は船の機能やサービスを提供する必要があり、乗客ほど完全に隔離されなかった」と指摘している。また政権幹部も「陽性反応が出た人の半分が無症状で、しかも乗員の感染者が増えたのは想定外だった」と話している。

一方で、ある政府関係者は乗員の感染について「当初はクルーに大量の感染者が出ていると考え、施設の準備など対応を進めた。しかし、クルーの感染は結果1割程度しかいなかった」として乗員を介しての感染拡大については否定的な見方を示している。船内での乗員の行動については不透明な部分もあるので、今後解明の必要がある。

ただ政府内では、感染拡大の多くは、船内隔離の前に起きていたとの見方が強い。DP号内での感染を確認した1日から横浜港に到着する3日までの間、船内では乗客がビュッフェ会場などを自由に移動できたため、この期間に感染が拡大したということだ。横浜港到着前に行われた船内パーティーなどが、感染が広がった原因ではないかという意見も多い。

この見解を後押しするように、2月26日に国立感染症研究所が公表した分析結果では、「2月3日にクルーズ船が横浜港に入港する前にCOVID-19の実質的な伝播が起こっていることが分かる」と暫定的に結論づけている。そのため、仮に横浜港に到着後ただちに乗客を下船させ別の施設に移しても、感染者数に大きな差はなかったのではという指摘は政府内に多い。

横浜港到着前の「感染拡大」は防げなかったのか

それでは、2月3日の横浜入港前の感染拡大は防げなかったのか。ここで問題となるのが船特有の「旗国主義」による責任の所在だ。私たちに国籍があるように船には船籍というものがあり、船が所属する国の国旗を掲げることとなっている。そして公海上では、船の管轄権は船籍を持つ国にあるとするのが「旗国主義」の考え方だ。

政府関係者は、DP号の船籍国はイギリスだったため、1日の陽性発覚直後に公海上にいるDP号に対し客室待機などの措置をとることは「権限もないし、命令できなかった」と説明する。また別の政府関係者は次のように振り返っている。

「本来であれば、こっちに来させない(入港させない)という判断もあった。ただ、あの船には日本人がたくさんいましたから、拒否するのはちょっとね。入港拒否できないのなら、船会社が気づかなければ、こちら側からダンスや食事など濃厚接触をしないでくださいとか言えばよかったけど。あの時点ではたった1人が陽性であると分かって、その人ももう下船をした。それであの船の中にいる大多数は日本人だということを考えると、たった1人の陽性だけで、『入港禁止』の判断を下せたか…」

むしろ政府内には船籍国であるイギリスへの不満が強い。DP号のオペレーションに関わった政府関係者は「クルーズ船が日本に到着して感染者が続発して、日本の責任だと言われても、じゃあ船会社や船籍国は何もしなかったじゃないかと言いたい。BBC(イギリスの公共放送)の記者だって日本政府の対応を批判しているが自分たちの国は何もしなかったじゃないかと言いたい」と批判する。ほかにも、「イギリスはジョンソン首相になって、おかしな国になってしまった」という恨みの声も聞かれた。

DP号が残した今後への課題と教訓「いろいろ学んだ…反省して次に」

安倍首相は3月14日の記者会見で「総員3700人を超える船の中で、見えないウイルスと戦うという前例のない本当に困難を極めたミッションだった」と語った。また橋本厚労副大臣は、対応全体の評価は別として「国内によくわからない感染者がいっぱい出たみたいな話をダイヤモンド・プリンセスは起こさなかったとは言える」と、最大の目的であるDP号から日本国内への感染拡大を防げたことは成果だとの認識を示している。

DP号での感染拡大については未だ不透明な部分も多く、何が適切で何が過ちだったのか、今後の検証作業が待たれる。その中で、ある政府関係者は「今回は相手が見えないから難しい。初動の段階で、どのくらい体制を動かすかというのは本当に難しい。医学的な見地を尊重しないといけないが、お医者さんたちも初めてのことだから断定しにくかった」と対応を振り返り、危機管理の難しさを滲ませた。

政府にとって最大の誤算は、新型コロナウイルスについて、感染力や潜伏期間などの点で想定を超えた「未知」の部分が多かったことだろう。初期の段階では、船内でこれほど大規模に感染が拡大しているとは予測していなかったために、想定外の対応に追われた。

また下船の際には、厚労省は科学的な見地に基づいて、陰性と判断され下船した乗客について日常の生活に戻す判断をした。しかし、その後下船者が陽性と判断されるケースが発生するなど、新型コロナウイルスに関しては専門家らの「科学的な見地」を超えた問題が生じた。一方で専門家の見解に甘い面があり、政府もそれに依拠しすぎたのではという指摘があることも否定はできないが。

問題となった「旗国主義」に関するルール作りも必要だと指摘されている。ある政府関係者は、今後クルーズ船で同様の事態が頻発した際に「日本はどれだけ対応してどれだけカネをかければいいんだ」と懸念する。

新型コロナウイルスとの戦いはまだまだ途上であるが、官邸関係者は次のように、DP号をめぐる今回の反省を今後に生かすと強調している。

「国内外のメディアから批判されたし、反省すべきところは十分反省して次に活かさなければならないが、それでも前例のない事態に世界で初めて対応した日本の果たした役割は大きいと思っている。今回のことで色々と学びましたから。2回目が起きたら動きはよくなると思いますよ」

まさにこの言葉の通り、今回のDP号の事例について、現在の日本の新型コロナウイルスをめぐる厳しい状況の中で、その教訓を生かさねばならない。そして中期的には、今後世界が活かせるような検証を行い、人類にとっての貴重な前例・教訓としていくのが政府の今後の責務だろう。

(フジテレビ政治部 ダイヤモンド・プリンセス号検証チーム)

※「日曜 THE リアル シンジジツ 豪華客船新型コロナ感染拡大の舞台裏」 フジテレビ系列にて4月19日午後8時~9時54分放送

番組では、政府の対応に限らず、ダイヤモンド・プリンセスの中で何が起きていたのかに関する壮大な検証を行う。