“バルーンアート”といえば、膨らませた細長い風船をねじったりして動物など、さまざまな形を作りあげる作品をイメージするだろう。しかし中には、風船を膨らませないバルーンアートがあるという。
まずはその作品を見てほしい。
瓶の中に咲くのは、1輪の赤いバラ。まっすぐ上に伸びた茎に、2枚のつややかな葉を広げ、中心に咲くバラは何枚もの真っ赤な花弁を重ねている。
これはバルーンアーティストの谷川雄馬さんが作った作品。谷川さんは、風船を膨らませずに広げたり伸ばしたりして、ファンタジー世界に咲く花や生きる幻獣たちを作り上げているのだという。
きっかけは自身の結婚式ブーケ
一般的なイメージとは異なる風船の使い方でのバルーンアートだが、一体どのようにして作っているのだろうか? また、印象に残っている作品なども知りたい。
気になる点を谷川さんに聞いてみた。
ーー膨らませないバルーンアートを作り始めたきっかけは?
2019年5月の自分たちの結婚式で「昔作った感じのブーケを式のために作って欲しい」と妻に頼まれてから、本格的に制作し始めたきっかけです。昔からあるバルーンアートの技法の一つとして知っていて、以前ファッションショーの小道具として作った事があり、数年ぶりに自分達の結婚式で作ることになりました。
あまり認知されていない手法のため、担当してくれたプランナー様に「長年やっていますが、今まで見たことない」と言われ、その週にやっていたアジア最大級のアートイベントである「デザインフェスタ」に友達の手伝いに行った時、この技法の作品を誰もやっていなかったため、自分で作品を手掛けようと動き始めました。
ーーどうやって作っているの?制作工程を教えて。
風船の中にU字に曲げた針金を通し、根元で一緒に捻りこみ、保護用にフローラテープで捻った箇所を巻き、パーツを作ります。それを何枚か重ねて花にしたり、幻獣の身体等を制作しています。
谷川さんによると、この風船を膨らませない技法は「バルーンフラワー」というもので、バルーンアートの業界では割と知られている方法だという。ただ、手芸に近い手法ということで、風船をひねるのとは全く異なるため、あまり浸透していないのだそう。谷川さんはこの手法を独学で勉強したとのことだ。
ーー作品にはどれくらいの風船と時間がかかるの?
基本的に作品のイメージによって風船の数は左右されますが、一輪の花なら3~10枚程度。大きいサイズのブーケや幻獣の作品なら100枚程度です。ゴムの厚みや扱いやすさなどの品質の違いや、豊富なカラーバリエーションがあることから、問屋から仕入れたプロが利用する風船を使用しています。
制作時間としては一輪の花は15~20分程です。ブーケタイプの作品は2週間~3週間程度で、幻獣に関しては1~3カ月ほど時間がかかっています。
ーー制作において、こだわっている点や苦労している点は?
幻獣に関しては、生命感、そこに実際に存在しているかのように感じられる作品になるように制作に励んでいます。また、依頼品に関しては制作の際にご依頼主から出来るだけイメージや相手様の雰囲気や好きな物などの情報を頂戴して、出来る限りイメージに添うよう制作する部分にこだわっています。主にプレゼントギフトとしての依頼が多いため、依頼主の気持ちを代弁できるようなプレゼントにしたいからです。
両方に通ずる苦労する点は、最初のイメージが制作途中で切り替わる事があることです。その時は臨機応変にイメージにあるように制作をすすめます。
「人を導いてくれる幻獣」を作ってみたい
ーー印象に残っている作品を教えて。
印象に残っている作品は「神鹿–春雷–」です。「春の訪れを告げる森に住む豊穣の神」がテーマです。
本格的に幻獣をモチーフにした作品を作っていこうと決めた時に制作を始めた作品で、2021年に開催された現代アートのコンテストで入選したのも理由です。残念ながらそのコンテストの展示の際に破損してしまって、今では幻の作品になっています。
ーーでは、一番大変だったと思う作品は?
直近で制作した八咫烏(ヤタガラス)がモチーフの「八咫の影–安穏–」です。
制限なく思いのままに制作したので、大きくなるにつれ、重心を整える点が難しかったです。また3本足の神獣なので、イラストでは見たことがあっても、立体でかつ現実世界で3本足の生物はいないので、身体の構造と見た目を整えるのが一番苦労しました。
ちなみに、谷川さんはふとした時に思い浮かんだアイデアを後で見返せるように、可能な限りノートに書き記して残しているのだそう。しかし、これはあくまでもラフ画であり、ほとんどは頭の中で想像して作っていると話している。
ーー最後に、今後作っていきたいと考えているものはある?
龍、狼、霊狐、シーラカンスやマンタなどを制作していきたいです。元々神社が好きで、祀られている神様や眷属などに興味があるからです。また、昔からRPGやファンタジーなど、ゲームに出てくるような生き物が好きで、自分でも作ってみたいのもあります。
「人を導いてくれる幻獣」を作ってみたいのが最近のテーマのひとつで、見た人がいい方向に導かれれば嬉しいと思って、制作しています。
谷川さんはCaravanという名前で活動しており、膨らませない技法「バルーンフラワー」を含めた、さまざまなバルーンアートのギフトやオブジェ作成などの注文や依頼を受け付けている。また、オリジナルのギフト作品などもサイトから購入することができる。
気になる人は、のぞいてみてほしい。
(画像提供:谷川雄馬さん)