コロナの流行が始まった2020年のDV・家庭内暴力の全国の相談件数は、過去最多の約19万件。さらに2021年も4月から11月までの合計がすでにコロナ前の1年間の合計を大きく超え、多くの相談が寄せられている。
新型コロナの影響で家にいる時間が増え、DV=家庭内暴力の相談も増加しているという。
「DV被害を根本から無くしたい」東北で唯一の加害者更生に取り組む団体を立ち上げ、DVの加害者を減らそうと奮闘する女性を取材した。
「DVがなぜいけないのか」参加者同士が話し合う
パープルリボンまゆら 田仲昌子 代表:
いつかは加害者教育をやらないと被害者は無くならない。加害者がいるから被害者がいる
DV被害の撲滅に取り組んできた田仲昌子さん。宮城県内の中学校や高校でD V被害防止についての講演を行うなど、精力的に活動を続けている。
2014年に、“DV加害者を更生するプログラム”を行う団体、「パープルリボンまゆら」を仙台と青森を拠点に立ち上げた。
パープルリボンまゆら 田仲昌子 代表:
今までは被害者に、逃げなさい、隠れなさい、加害者は変わらないって私自身も思っていた。でもやっぱり加害者がいる、そこを何とかしなくてはと
2022年に、この団体に登録しているDV加害者たちは7人いる。週に一度、2時間のプログラムの中で「DVがなぜいけないのか」「対等な夫婦の在り方とは?」などをテーマに参加者同士が話し合う。コロナ禍のため、現在はオンラインでプログラムを実施している。
パープルリボンまゆら職員 松山さん:
皆さんがパートナーとの間に考える“対等”を具体的に?
参加者Aさん:
我々は加害者なので、対等にはならないと思う。今まで虐げられてきた女性側が「(この人)変わったな」「対等と思ってくれているな」と感じさせる事じゃないか
参加者Bさん:
「加害者性を克服することは一生かかる」と(テキストに)書かれている。「少しでも変わったな」と思ってもらえるよう、努力していくことが対等への一歩なのでは
田仲さんが大事にしていることは、「被害者の代弁者として加害者たちと向き合う」こと。
パープルリボンまゆら 田仲昌子 代表:
あくまでも私の立ち位置は被害者側。被害者の代弁者としてそこにいる。そこは揺らがないように、私が心掛けていること
参加者の1人、「まゆら」に通って6年になる男性は…
プログラム歴6年 Cさん:
(パープルリボンまゆらは)自分のしたことを思い出す場になっている。他の参加者の話を聞いて、自分の考え方の足りないところ、考え方の違い、ここに気づきがありました
「DV被害者が必ず幸せになる道はある」
田仲さんは、他の人のDV加害経験を聞くことで自分がしてしまったことを客観的にみて、「気づき」を得てほしいと話す。
この8年間で「まゆら」の門をたたいたのは約50組。その中で、DV被害者である妻たちが「卒業」と判断して巣立って行ったのは、わずか3組。
「卒業」した1人の女性はこのプログラムに救われたと話す一方、加害者が完全に変わることは難しいと話します。
5年前に卒業した加害者の妻:
(更生プログラムを)卒業して同居生活に戻って、一旦平和な家庭にはなった。でも数年経つと、うまくいかなかった。私を下に見る態度とか
それでも、確実に変わった部分もあると言う。
5年前に卒業した加害者の妻:
以前は家事を全くしない、育児もお前がやれよって感じ。ただ今は、まず子供をすごく溺愛してくれて、ハグしたり一緒に笑ったり、家事も育児もやってくれます。(プログラムで)変われたことは変われたと思う。DVというものが長期で見て、加害者も被害者も変わらなきゃいけない。まゆらで学んだことはすごく大きい
声をあげられず悩むDV被害者の方たちに必ず幸せになる道はあると、田仲さんは話す。
パープルリボンまゆら 田仲昌子 代表:
まゆらだけではなくて、相談を待っている機関はたくさんあるはず。諦めないでほしい。自分の人生を
「DVの加害者更生プログラム」は、国も動き始めている。内閣府では民間団体主導だった加害者プログラムを自治体の事業にして全国的に広めようと考えていて、2022年の3月までにガイドラインをまとめることにしている。
被害をなくすためには、「加害者教育も同時並行で行っていくこと」…この考え方がより広まってほしいと、田仲さんは訴えている。
DVに悩んでいる人は、「パープルリボンまゆら」のホームページまで問い合わせしてほしいとしている。
【編集後記】
DVを取材する際、「どうして被害者側が息をひそめ、逃げなくてはいけないのか。加害者がDVをしなければ被害者もいなくなるのに」と考えていた。
今回の加害者更生プログラム代表の田仲さんは同様のことを言っていて、「被害者をなくすためには“被害者支援”と“加害者教育”を両輪でやっていくことが何よりも大事」と繰り返した。
取材した「対等な夫婦の在り方」を話し合うプログラムで、過去を反省して相手を尊重するなど、自ら「気づき」を得て変化している加害者の姿を目の当たりにした。更生プログラムの重要性をひしひしと感じた。
しかし、これまで「DVすることが当たり前」だった加害者が「確実に」変わるのは容易ではない。過ちを犯した過去の自分の人生を「否定」して、新しい自分に生まれ変わるのだという「強い意志」を持ち続けた人なら変わっていけるが、裏返せば、そうできない人は変われない。
問題の根深さを改めて感じる。
パープルリボンまゆらが、加害者に「確実に変われる」きっかけを提供し、パートナーの皆さんがよりよい人生を送れるようになる。そんな場所であり続けてほしいと願う。
(仙台放送)