トンガ沖の海底火山で起こった大規模噴火では、8000km離れた日本でも津波や潮位の変化によって被害が出た。当初、気象庁は津波による被害の心配はないとしていたが、なぜ読み違えたのか。日本周辺で大規模な噴火が起こればどんな被害が出るのか。
BSフジLIVE「プライムニュース」では、噴火のリスクや津波発生のメカニズムを徹底検証し、日本が抱える課題と今後の防災について議論した。
親日国トンガへ プッシュ型での緊急支援進む
この記事の画像(13枚)新美有加キャスター:
1月15日の日本時間午後1時頃に、トンガの首都がある島から約65km離れた海底火山が噴火しました。NASA(アメリカ航空宇宙局)の分析では噴煙は高度40kmに達し、半径260kmに広がったとされています。トンガ政府は国民の84%の約9万人が被害にあったと発表。中川さんは日本とトンガの友好議連の会長を務めていらっしゃいますが。
中川正春 元防災担当相 日本・トンガ友好議員連盟会長:
私たちの議員連盟と周辺の国々を合わせた議員連盟で、政府に緊急支援の要望を出しました。日本の災害時に議論となったようにプッシュ型で行うようにと。復興のフェーズになれば、先方と相談しながら進めたい。
反町理キャスター:
非常に親日的な国という印象がある。東日本大震災では、トンガの子どもたちが義援金を集めて送ってくれたという話も。
中川正春 元防災担当相 日本・トンガ友好議員連盟会長:
子どもたちだけでなく大人も。非常に親日的です。ラグビー選手も日本に多く来ている。周辺島しょ国も含め、3年に1度のサミットで友好関係を作っています。
反町理キャスター:
日本はちゃんと対応しなければ、という気持ちが皆さんの中にあると。
中川正春 元防災担当相 日本・トンガ友好議員連盟会長:
そうです。
トンガと同様の噴火は日本でも起こりうる
反町理キャスター:
今回の噴火の規模について。
山元孝広 産業技術総合研究所 副研究部門長:
経験則では、「火山爆発指数」は5〜6。富士山の宝永噴火(1707年)に匹敵する。ただ今回、マグマそのものが大量に出るのとはタイプが異なり、非常に爆発的な噴火をしていると思っています。噴火したのは直径5kmのカルデラがある火山。日本でいうと直径3~4kmのカルデラを持つ三原山や、2000年にカルデラ陥没を起こした三宅島と同じタイプの火山です。
反町理キャスター:
今回と同様のことは三原山や三宅島でも起こりうる?
山元孝広 産業技術総合研究所 副研究部門長:
そうです。大事なのは15日の噴火のあと、伊豆大島でいえば三原山に相当する部分がすっぽり消えてなくなってしまったこと。噴出物が積もって島ができてもいないから、中心のカルデラ部分がさらに内側に落ち込んだのだと思う。実際、2021年12月から1月13日までにカルデラの縁で噴火が起きていた。大量のマグマが出て、1月15日にカルデラがさらに陥没した。そして海水などがマグマ溜まりに大量に流れ込み、一気に気化して爆発したのではないかと思っています。
噴火による津波が甚大な被害を及ぼした国内例「島原大変肥後迷惑」
反町理キャスター:
今回の噴火・カルデラ陥没に伴う津波の規模や影響について。東日本大震災のようなプレートを原因とする場合に比べれば規模は限定的?
日比谷紀之 東京大学大学院理学系研究科教授:
火山が爆発すれば噴出物が巻き上げられて海面を叩く。また、地滑り的に山体が崩壊して海面に突入することで巨大な津波が発生することは、過去の事例にも多くあります。
反町理キャスター:
火山の爆発から大きな津波が起きるという可能性はあるわけですか。
日比谷紀之 東京大学大学院理学系研究科教授:
日本でも1792年に「島原大変肥後迷惑」という災害があった。島原半島の普賢岳の火山活動が活発になり、伴う地震活動が活発になって、普賢岳東方の眉山という山が崩壊した。山体が有明海に流れ込んで数十メートル規模の津波が起き、有明海を渡って肥後(熊本)を飲み込む大災害を起こした。合計約1万5000人の方が亡くなりました。
「空振」による「気象津波」が気象庁の津波到達予測を誤らせた
新美有加キャスター:
今回、日本で観測された津波について。噴火から約6時間後の午後7時、気象庁は「日本では若干の海面変動の可能性はあるものの、被害の心配はない」と発表。津波の到達時刻は午後10時半から午後11時頃と想定されていました。しかし、1時間後の午後8時頃、全国の太平洋沿岸で潮位の変化を確認。午後11時55分頃に鹿児島県奄美市で1.2メートルの津波を観測。翌日の午前0時15分に気象庁が奄美群島・トカラ列島に津波警報、全国の太平洋沿岸に注意報を出しました。予想時刻より2時間半ほど早く到達しています。
反町理キャスター:
リアルタイムでニュースをお聞きになり、原因をどう想像されました?
日比谷紀之 東京大学大学院理学系研究科教授:
不思議だなと。原因としては、津波の到来と同時に日本各地で気圧の変動がかかったと。後でその話を聞いたときに「気象津波」の可能性を連想しました。つまり大気による津波です。
反町理キャスター:
気圧の変化と潮位の関係のメカニズムは。
日比谷紀之 東京大学大学院理学系研究科教授:
例えば、高気圧であれ低気圧であれ、2ヘクトパスカルのものがずっと海面の上にいれば2センチの海面変動が起こります。ですが、今回は2ヘクトパスカルで1メートルの変化が起こった。すると理由として、強い噴火が起こったときの空気のショックである「空振」が考えられます。
新美有加キャスター:
上空からの映像を見ると、噴火と同時に円が広がるような。
日比谷紀之 東京大学大学院理学系研究科教授:
それが空振だと思われています。これは音波で、時速約1100キロ。これが走ったのではないかと。一方、津波の速さは水深によるのですが、トンガ近海はかなり浅いため速くない。
反町理キャスター:
空振の方が速いと。
日比谷紀之 東京大学大学院理学系研究科教授:
ですが、日本に近づくとだんだん水深が深くなっていき、海洋の波も速くなります。大気の波と海洋の波のスピードが合えば、エネルギーのやりとりをするようになる。この共鳴の時間が多くなるほど津波が大きくなったという解釈が成り立ちます。午後8時から午後10時半の間に来た波は、大気の影響を受けた「気象津波」と言えると思います。
反町理キャスター:
空振による津波は、やはり予見できないものですか。
日比谷紀之 東京大学大学院理学系研究科教授:
火山の噴火に伴う空振による津波は1883年にありました。インドネシアのクラカタウ火山爆発で、空振が地球を何周もした。今回はおそらく近代で観測が始まってから初めての例で、注意報や警報が少し遅れてしまったのだと思います。気圧変動の伝播を測れば防災に役立てることができる、ということが今回の教訓だろうと思います。
東京は脆弱。千年、一万年に一度でも「必ず起こる」と備えを
新美有加キャスター:
日本で大規模な火山の噴火が起きた場合の被害想定について。トンガの噴火ではどの程度の火山灰が降ったと考えられますか。
山元孝広 産業技術総合研究所 副研究部門長:
報道では首都のある島で2~3センチ。車も走っていることを考えると、それほど深刻には降っていないんだろうと思います。
反町理キャスター:
「平成の米騒動」を起こしたピナツボの噴火とは異なると。
新美有加キャスター:
一方、富士山で火山爆発指数5の噴火が起きた場合のシミュレーションがあります。東京・神奈川・千葉の広範囲が、火山灰が2センチ積もるエリアに入っていますが、生活への影響は。
山元孝広 産業技術総合研究所 副研究部門長:
数ミリ積もれば鉄道は止まります。また、私が一番深刻だと思うのは発電。今、東京電力の発電は基本的に、東京湾の中にある火力発電所にほぼ依存しています。これは原発を全部止めているから。しかも、日本の火力発電所は発電効率を上げ二酸化炭素を減らすために、外の空気を吸い込んでそれで燃やすガスタービンを使っている。大気中に火山灰が多くあれば壊れる。それを防ぐためのエアフィルターシステムがあるが、噴火中に本当に運用できるか。
反町理キャスター:
なるほど。
山元孝広 産業技術総合研究所 副研究部門長:
また火山灰の掃除は相当大変なこと。下水に流すと詰まってしまう。噴火後の後始末も含めて相当考えるべきことがある。
新美有加キャスター:
中川さんはどのようにお聞きになりましたか。
中川正春 元防災担当相 日本・トンガ友好議員連盟会長:
いい論点を出してもらった。社会構築の中で、絶えず防災を政策に入れ込んで制度設計をしていくことをメインストリームにするのが目標だが、なかなかそうならない。リスクを分散させることは必要。
反町理キャスター:
山元さん、自然災害を考えると原発に対する依存が一定程度必要だと、はっきり思っていらっしゃるんですか。
山元孝広 産業技術総合研究所 副研究部門長:
あるものは使っていかないとダメ。東京の電力システムや他のライフラインも危機的だと私は思っています。千年に一回、一万年に一回でも必ず起きると思って考えなければ、国が成り立たなくなると思います。
中川正春 元防災担当相 日本・トンガ友好議員連盟会長:
まだまだ東京に一極集中している。富士山の噴火や首都直下地震が起これば、おそらく日本全体が麻痺する。政治の責任であり、国民の中の危機感を国土計画へ持っていく努力をしなければ。
BSフジLIVE「プライムニュース」1月25日放送