ユネスコの世界文化遺産の国内候補である「佐渡島の金山」について、政府・自民党内での対立が表明化している。政府はユネスコへの今年度の推薦を見送る方向で調整しているが、党内保守派の代表である安倍元首相は政府が「論戦を避けて登録を申請しないのは間違っている」と指摘するなど、反発が広がっている。
「佐渡島の金山」は去年12月、文化庁の文化審議会から、今年度のユネスコの世界文化遺産の国内推薦候補に選ばれていたが、韓国政府が戦時中に朝鮮半島出身者が過酷な労働を強いられたなどと反発。「登録実現の目処が立っていることが重要」(政府関係者)だとして、政府は今年度の推薦を見送る方向で調整している。
背景には、中国が「南京大虐殺の文書」を世界記憶遺産に申請した際、日本政府が反発した経緯から、ユネスコは去年、関係国の異議申し立てを可能にする制度を導入したことがある。
しかし、推薦見送りの方向に対し、自民党内では保守派を中心に反発が広がっている。
安倍元首相は20日、自身の派閥の会合の中で、「最終的には岸田首相をはじめ政府が決定をすること」と前置きした上で、「論戦を避けて、登録を申請しないというのは間違っている」と指摘。これに安倍派の議員からは「そうだ!」との声があがった。

安倍氏はさらに「安倍政権時代に明治日本の産業革命遺産の登録を行ったが、当時も反対運動が国際的に展開された。その中で我々はしっかりと反論しながら最終的にはある種の合意を得た」と強調。首相在任中、「明治日本の産業革命遺産」について、韓国側が強制労働があったと猛反発する中、国際社会への働きかけを続け、世界文化遺産の登録にこぎつけた当時を振り返った。さらに、今回も反発を強める韓国を念頭に「しっかりとファクトベースで反論していくことが大切だ」と強調した。
自民党内では、政府の慎重姿勢を受け、保守派が反発している。18日には、安倍氏が顧問を務める有志グループ「保守団結の会」は、国会内で開いた会合で、「歴史戦の様相を示しつつある」として、国内外に情報を発信すべきなどした「ユネスコへの推薦を求める決議」をまとめた。さらに19日には高市政調会長が「日本の名誉に関わる問題」と述べ、政府に推薦するよう強く求めた。
党内の保守系議員は「『佐渡島の金山』を国内の候補に選んだ以上はユネスコに推薦するのは政府の義務だ」と主張する。

自民党内で推薦見送りへの反発が広がる中、政府が推薦期限である2月1日までにどのような説明をするのか、注目が集まる。