バイデン大統領就任から丁度1年を迎えた現地時間19日の記者会見は、日本時間20日朝6時から8時近くまで2時間近くも続く異例の長時間会見だった。

長時間に亘ったのは、ホワイトハウスでの公式記者会見が就任以来わずか2回目だったらしいこともあるが、記者団の矢継ぎ早の質問にバイデン大統領が延々と応じたからだ。

その心は、健康不安が付き纏う高齢のバイデン大統領が、こうした長時間会見に応じられる程のスタミナを持っていることを示す狙いもあったらしい。

記者団からは矢継ぎ早の質問が飛び会見は2時間近くに及んだ
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緊張高まるウクライナ問題

内容は主に新型コロナ問題とその他の内政問題、そして、緊張高まるウクライナ問題であった。

バイデン大統領に若干危うい発言もあり、直後にホワイトハウスの報道官が軌道修正の声明を出すという一幕もあったのだが、こと国際問題に関しては、ウクライナ問題とウクライナに対していつ軍事行動を起こしても不思議ではないロシアに関する話一辺倒だったと言っても過言ではない。

国際問題に関しては緊張高まるウクライナ問題とロシアの話に終始した

中国への言及こそ何度か(ホワイトハウス発表の記者会見全文で検索すると計8回)あったのだが、内容的には実に淡白なものに終始していたし、間もなく開幕する北京冬季五輪への言及は全くなかった。

北朝鮮への言及はゼロ

それ故、日本や北朝鮮への言及がゼロだったのも不思議ではなかったと考えることも出来るのだが、北朝鮮は最近またミサイル実験を繰り返しているし、会見とほぼ同じタイミングで、朝鮮中央通信が、凍結している核実験と大陸間弾道ミサイル開発再開の検討を示唆するなど挑発を強めている。これらと照らし合わせると、北朝鮮への言及がゼロだったことは筆者にはやはり腑に落ちなかった。

北朝鮮は2022年に入ってからすでに4回も弾道ミサイルを発射している

そこで、バイデン政権のアジア政策に詳しい専門家に訊いてみた。

「あの長い記者会見で記者団も含めて誰一人として北朝鮮に言及しなかったのは、北のミサイル実験は、言わば新常態、もはや普通の事と看做されている為か?事実上の戦略的忍耐の復活か?」と。

戦略的忍耐とは、バイデン大統領が副大統領を務めていたオバマ政権の対北朝鮮政策を指す用語で、一言で言えば、北朝鮮が核放棄に向け行動を起こさない限り交渉には応じないという基本姿勢を指す。

「何も代わり映えしないアクション」

専門家氏の回答は次のようなものであった。

「現時点で、北朝鮮の最近のミサイル実験はルーティーンの動きに過ぎず、目的は注目を集める為。新たな脅威を意味するものではないとワシントンでは見做されている。北朝鮮による、いつもの、何も代わり映えしないアクションだ。」

最近の北朝鮮のミサイル実験は超高速化を目指したり、変則軌道による飛行能力を高めることを狙ったものとされ、日本や韓国にとっては紛れもない脅威と思われるのだが、アメリカから見れば特に目新しいものではないということをこの専門家氏の発言は意味する。

それが、こうしたミサイルが開発途上で技術的に未完成だからなのか、それともアメリカ本土には届かないからなのか、もしくは、その両方だからなのか筆者は寡聞にして知らないが、期待したような注目を得られない北朝鮮は切歯扼腕するかもしれない。

「北朝鮮を無視する」

専門家氏は続ける。

「故に、アメリカはこれまでの制裁を維持するし、これまで通り非核化を求め続ける。」

そして、

「確かに、この方針のエッセンスは戦略的忍耐と同じだ。しかし、そう宣言することは無い。また、戦略的忍耐から何か成果が上がるだろうという甘い期待も無い。北朝鮮と交渉しても、また、圧力をこれ以上高めても状況が好転することは無いだろうとワシントンは見ている。」という。

アメリカ政府は冷静なのである。
しかし、ではどうするのか?

専門家氏曰く;
「また、この問題に関して中国はもはや頼りにならない。彼らの北朝鮮への影響力は弱まっている。」

つまり、かつて六者協議のようなマルチの非核化交渉を始めるつもりもないということだ。

アメリカ政府は北朝鮮に対して冷静なのだ

更に、専門家氏は言う:
「故に、我々は北朝鮮を(暴発等しないよう)抑止し、それ以外は無視する。」と。

つまり、どんな時になるのか現時点では不明だが、然るべき時が来るまで、北朝鮮とはこのまま冷戦状態を続け、その脅威を封じ込める方針ということになる。そして、バイデン政権は何年掛かろうともそうし続ける決意ということになる。

ただし、今朝の朝鮮中央通信の発表を知った上での発言と思われるが、専門家氏は最後にこう付け加えた。

「もしも、北朝鮮が核弾頭搭載可能な長距離の大陸間弾道ミサイルの実験に踏み切れば、この方針は変わる可能性がある」と。

北朝鮮が“計算違い”をする時・・・

アメリカ国防当局は2021年10月の報告書で、アメリカ本土を射程に収める大陸間弾道ミサイルを念頭に「22年に長距離ミサイルの発射実験を実施する可能性がある」と指摘し警戒を強めているが、そのような事態に至れば北朝鮮を巡る情勢は再びきな臭くなること必定である。

しかし、それに敢えてチャレンジし、アメリカの対応を試そうとするのも北朝鮮の常套手段だ。

北朝鮮が究極の瀬戸際戦術にまで踏み込むか否か、そして、そこに計算違いが起き、不測の事態を招いてしまうのか否か、、、

聞きかじりだが、2021年に死去したアメリカのパウエル元統合参謀本部議長・元国務長官は生前「アメリカに手を出せば翌朝には自分達が消滅することを北朝鮮ははっきり認識している」旨述べたことがあるそうだ。

2021年に死去したパウエル統合参謀本部議長(写真は1991年2月)

大袈裟かもしれないが、このパウエル氏の発言がいつまでも有効で、自分達の生存を最優先にするしたたかな北朝鮮が万が一にも計算違いをしないことを筆者は願うばかりである。

【執筆:フジテレビ 解説委員 二関吉郎】

二関吉郎
二関吉郎


フジテレビ報道局解説委員。1989年?ロンドン特派員としてベルリンの壁崩壊・湾岸戦争・ソビエト崩壊・中東和平合意等を取材。1999年?ワシントン支局長として911テロ、アフガン戦争・イラク戦争に遭遇し取材にあたった。その後、フジテレビ報道局外信部長・社会部長などを歴任。東日本大震災では、取材部門を指揮した。 ヨーロッパ統括担当局長を経て現職。

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