世界遺産の島で、70年ぶりの修復工事に携わる1人の女性職人の姿を追った。

現代の技術を駆使した修復作業

口に含んだ竹の釘を取り出し素早く、そして熟練の技で打ちつける宮大工。
こちらは、太い木の柱を丹念に塗っていく塗装のプロ。職人たちが手掛けているのは、70年ぶりに大規模な修復が行われている世界文化遺産・厳島神社の大鳥居。

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全国から、神社仏閣の修復を専門とする、のべ4,000人の職人が集結している。
観光地・宮島は、国内だけでなく海外からも多くの観光客が訪れ、2019年には過去最多を更新した。その観光客たちを魅了してきたのが、宮島のシンボル、海の上に立つ大鳥居。

しかし、平安時代から数えて9代目となる今の大鳥居も完成から140年以上が経ち、シロアリの被害などで深刻な状態に…。そのため、2019年から修復工事が始まっている。

新たに作るのではなく、元の姿を生かし、現代の建築技術を取り入れた挑戦。

大鳥居修復工事の設計管理を担当・原島誠技師(64):
長年の経過ですね。人間でいえば若い人が全部よいかというとそういうわけではなくて、おじいさん・おばあさんが生まれて苦労してきたその経過…しみとか、しわとか、そういうものが建物にもあると思うんです

大鳥居修復工事の設計管理を担当・原島誠技師(64):
それも1つの重要なファクターであると思うので、できるだけ価値観を損なわずに後世に残すような仕事をしたいと思っています

鳥居のために…釘1つ1つに丁寧な処理を

この日、宮島に向かう1人の女性、一宮祐衣さん(25)。

漆塗り職人・一宮祐衣さん:
厳島神社でさせていただいている仕事が佳境を迎えてくるので、やりがいと責任も重大ですけど、めったに触れられることのない文化財に触れさせてもらっているので、そういうところは本当におもしろいです

北海道で生まれ育った一宮さん。高校を卒業後、京都の伝統工芸を学べる専門学校に進学し、広島の会社で職人の道に進んだ。

漆塗り職人・一宮祐衣さん:
人間一人の人生では到底さかのぼれない、昔のものが今に残っていることがすばらしいですけど、それをさらに先へ先へ残していく、その1つの力になれればなと思っています

約2年半続く工事で、現在までに屋根の葺き替えなどが終わっているが、一宮さんが任されているのは鳥居の見た目に大きく関わる分野。朱色に染める塗装。

歴史的な木造の文化財だけに、色を塗るまでに大切な工程がいくつもあるという。その1つが釘に施す作業。

漆塗り職人・一宮祐衣さん:
こっち側がさびている方で、こっち側が磨いた方なんですけど、金属光沢が戻ったのがわかると思うんですけど、これくらいまでもっていきます

釘のサビを落とす作業を行い、金属光沢が出てきた釘
釘のサビを落とす作業を行い、金属光沢が出てきた釘

さびを落としたあとは表面を平らにするために、釘穴を埋めていく。

漆塗り職人・一宮祐衣さん:
ちょっとずつ押さえ込んで、空気を追い出しながら埋めます。(釘が)1,000本ぐらいあるそうなので、1つでも「防さび」や「さびを落とす」作業を怠ってしまうと、新しく朱に塗り替えてもさびが出てきてしまって、仕上がりとしてみっともない状態になるので、見落としがないようにしていきます

この地道な作業は、3月末まで続く。体力勝負の修復現場。でも、望んで飛び込んだこの世界。弱音は吐かない。

漆塗り職人・一宮祐衣さん:
古い塗膜を落とす作業があるんですけど、刃物を使ってかき落とすんですけど、その仕事が一番力を使いますね

漆塗り職人・一宮祐衣さん:
あとは、ずっと上を向いて手をひたすら上げなければいけない部分とかもあるので、そういうときは大変ですけど、完成に至るまでたくさんの工程がつまっているので、それをかみしめながら完成が見られると、頑張ったなとか、やったなと

そんな日々を送る一宮さんが一日の中で楽しみにしているのが、お昼の時間。この日は手作りの豚汁でパワーをチャージする。

漆塗り職人・一宮祐衣さん:
めっちゃ食べます。これが午後の糧です

熟練の職人技と若手職人の熱意が詰まった修復の現場。いま自分たちにできること、それがきっと次に繋がると信じている。

漆塗り職人・一宮祐衣さん:
後世に繋いでいかなくてはいけないものの修理に携わらせてもらっているので、これより先に繋いでいくという使命もありますし、足場が取れた姿を早く見たい方々が多いと思うので、その期待に応えられるように頑張って仕事していきたいです

2022年、ようやく佳境を迎える大鳥居の修復。コロナ禍で観光客が落ち込む中、元の美しい姿に戻すため、そして次の世代に託すため職人たちの奮闘は続く。

(テレビ新広島)

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