新年早々、極超音速ミサイルの発射実験を実施したとして、ミサイル技術の向上を見せつけた北朝鮮。金正恩総書記は2021年末に開催された朝鮮労働党の中央委員会総会で、「現代戦に応じた威力ある戦闘装備の開発と生産を進め、国家防衛力の質的変化を促して国防工業の主体化、現代化、科学化の目標を計画的に達成すべきである」と強調し、引き続き軍事力を強化するよう檄を飛ばしていた。

北朝鮮が発射した「極超音速ミサイル」(2022年1月6日労働新聞より)
この記事の画像(5枚)

後頭部に気になるテープ痕

このところ、行事の度に激やせぶりが話題となる金総書記だが、この年末の会議の際に気になるシーンが捉えられていた。

開催初日にひな壇の上で万雷の拍手に応えた金総書記が、頭をかがめた際、後頭部に医療用テープを剥がした痕のようなものが残されていたのだ。

後頭部に残っているのは、医療用テープの痕か?

韓国の朝鮮日報は、医学専門家の話として、「髪が押されて皮膚が現れていることから、絆創膏や医療用テープを貼った痕跡に見える」と伝えた。おできや脂肪腫を除去した後、皮膚を保護するために絆創膏をつけた可能性があると見られるという。また、別の韓国漢方の医師は、肥満による頭痛を和らげるための「頭痛緩和用」テープを貼ったのではないかとの見方を示した。

金総書記は2021年7月に軍の講習会に出席した際にも、後頭部に大型の絆創膏を貼っている姿がとらえられていた。この時、韓国の情報機関・国家情報院は「健康状態に異常な兆候はない。絆創膏は数日で取り外され、傷痕もなくなった」と健康異常説を否定していた。

今回もほぼ同じ場所に、絆創膏が貼られたとみられることから、おできや脂肪腫など習慣性のある症状が出ているのかも知れない。

後頭部に大きな絆創膏がベタリ(2021年7月)

ただ、年末の党総会で金総書記は顔色も良く、精力的に会議をこなしており、特に健康に異常がある様子は見られなかった。Yシャツの首周りに余裕ができるなど、体重はさらに減ったとみられるが、絆創膏の痕以外は映像からは体調不良の気配は感じられなかった。

消えない“体調不良説”

ではなぜ、体調不良を疑う報道が絶えないのだろうか?

金総書記の父、金正日氏の逝去から10年となる2021年12月17日に開催された追慕集会では、金総書記の激やせならぬ“激老け”ぶりが話題となった。顔色が真っ白で目にも生気がなく、皮膚はたるみ、30代後半には見えないと驚きが広がった。

お気に入りの黒革のコートも胸のあたりにゆとりができるほど、痩せて見えた。平壌は零下という寒さの中、長時間戸外に立っていたため顔色が悪くなるのも無理はないと言えるが、体調に波があるとも取れる姿だった。

“激老け”ぶりが話題となった金正日氏追慕集会での金総書記(2021年12月17日)

北朝鮮メディアが伝えた金総書記の2021年の動静報道は79回。2020年の52回よりは増えたが、新型コロナウイルスの流行前に比べると激減している(2019年は113回)。活動のほとんどを党の会議や軍事パレードなどの内部行事が占めた。金総書記の地方での現地指導は1回程度とほぼ無くなり、首相らが肩代わりすることが増えた。

今回、慈江道で実施されたとされる極超音速ミサイル発射実験にも金総書記は立ち会っていない。核ミサイル実験に参席しないのはアメリカを刺激しないため、地方視察の減少は感染防止への配慮などが理由になりそうだが、平壌を離れることが減ったのも健康不安説がくすぶる一因となっている。

好転しない人民の生活

経済制裁の長期化と新型コロナウイルスによる中朝境界の封鎖で深刻な物資不足が続き、北朝鮮は苦境にあえいでいる。金総書記は年末の党総会で「農業生産を増大させて国の食糧問題を完全に解決する」ことを宣言した。

逆に言えば、それだけ食糧事情が深刻ということだ。最高指導者の座についた直後、金総書記は「人民のベルトを二度と締めさせない(飢えさせない)」と誓ったが、その誓いは実現しないまま10年が過ぎた。住民らの生活は良くなるどころかむしろ悪化し、潜在的な不満は募る一方だ。

2022年は金日成主席生誕110年(4月15日)、金正日総書記生誕80年(2月16日)と、北朝鮮にとっては特別な年にあたる。金総書記は2022年を「革命的大慶事の年、明るい未来へと進む偉大な闘いでもう一つの分水嶺になるようにしよう」と呼び掛けており、2月や4月の記念日には大規模な祝賀行事が開催されそうだ。八方塞がりの中で迎えた「特別な年」。ミサイル発射で突破口を開こうともくろむ金総書記だが、「苦難の行軍」の出口は見出せていない。

【執筆:フジテレビ 解説副委員長 鴨下ひろみ】

鴨下ひろみ
鴨下ひろみ


フジテレビ客員解説委員。香港、ソウル、北京で長年にわたり取材。北朝鮮取材は10回超。顔は似ていても考え方は全く違う東アジアから、日本を見つめ直す日々です。特集「鴨ちゃんねる」で中国や朝鮮半島の気になるニュースと話題の人を徹底追跡。北オタクのこだわり満載です。

国際
記事 91