北海道札幌市の「ススキノ」。日本を代表する歓楽街が、コロナ禍で深刻な人手不足に直面している。苦悩を抱えながら、何とか乗り越えようと挑む人たちの姿があった。

客が増えても人手不足…社長自ら接客する店も

コロナ禍で迎えた2度目の忘年会シーズン。時短営業も終わり、ススキノには少しずつ活気が戻ってきた。

70代会社員:
少人数でやるのがいい

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大学1年生:
コロナの時は全然、ススキノに来てなかったが、コロナが落ち着いてきたので来ています

ススキノの人出は、営業時間の短縮要請が全面解除された2021年10月から右肩上がりとなっている。

人気メニューの厚切りジンギスカンを求め、客が徐々に戻ってきたジンギスカン店。予約客がゼロという辛い時期も何とか乗り越えてきたが…。

北海道ジンギスカン蝦夷屋・北山茂誉さん:
予約時点で50名さま。それでも例年に比べると半分。良い時で7割

大口の団体客は見込めず、少人数での来店が目立つ。いざ営業がはじまると接客対応に追われ、慌ただしい雰囲気になった。

背景にはススキノに重くのしかかる人手不足がある。

店内には、この店を抱えるグループ会社の青木康明社長がいたが、自らドリンクを作るなどして何とか店を回しているのが現状だ。

これまでの休業要請や時短営業は1年近くにわたり、コロナ前、グループ全体で500人以上いたアルバイトは200人ほどにまで減ってしまった。

APRグループ・青木康明社長:
自分たちの職業自体も必要とされているのかどうかと感じた社員も多くいたし、楽しくアルバイトしていた人もいたが、シフトインさせてあげられず非常に心苦しかった。休業要請に従うのは苦渋の決断だった

グループの25店舗のうち6店舗は人手が足りず、休業している状態だ。

牡蠣などの海鮮を売りにしている居酒屋では、2020年4月から従業員不足のため営業を再開できず、アルバイトを募集しているが思うように応募は来ない。

APRグループ・青木康明社長:
第6波がきた時にシフトに入れないかもしれない。そんなところに応募しない人の方が多いと思います。生活のために働きにくるアルバイトの方が多いので、コールセンターなど安定してシフトに入れる業種に応募しているのでは

「休業・時短要請」が従業員の生活を直撃

こういった状況を街の人はどう感じているのだろうか。娘が飲食店でアルバイトしているという女性は…。

娘が飲食店バイト(50代):
午後8時くらいで店が終わり、出てこなくていいよと言われ困っていました。稼ぎたいのに稼げない

大学生:
去年はあまりシフトに入れず、辞めて今は違うところでバイトしてる。当時、お金が厳しかった

北海道内でアルバイトなどの求人を紹介している会社によると、ススキノの飲食店はどこも人手不足で求人が急増しているという。

ススキノの飲食店のアルバイト求人数の推移を見ると、北海道内で初めて新型コロナの感染が確認された2020年1月から求人数は激減しだが、緊急事態宣言が解除されてからはコロナ前を大きく上回るほど増加した。

北海道アルバイト情報社・日景政道さん:
コロナによってお店を休業したり、時短営業にすることによって、スタッフを解雇せざるを得なかった店が、これからの再始動に向けて改めて一からスタッフを雇いたいという話はきく

「母を支えたい」芽生えた仕事への思い

辞めてしまったスタッフが戻らない状況が続くススキノで、働き続ける選択をした女性もいる。

ススキノのニュークラブ「モナクラス」。

コロナ禍で売り上げは7割減少、「感染するのが怖い」などといった理由で13人の女性が辞めた中、7年前から働くあいさん(29)は働き続けることを選んだ。

あいさん:
1日に数組、数名しか入らない時、目に見えて分かってしまう。大きな会社ですが、潰れるんじゃないかと思ったことは何回もあります。不安になったりダメかもしれないという思いがあったが、負けずにどうにか踏ん張って乗り越えようって思います

不安を抱えながらも、あいさんがススキノで仕事を頑張り続ける理由は"家族"の存在だ。

あいさんは今、60代の母親と2人暮らし。高校2年生の時に父親ががんで亡くなり、自分が大黒柱として「お金を稼がなきゃいけない」「お母さんを支えなきゃいけない」という強い思いが芽生えた。

あいさん:
(父親が)店で倒れて病院に行ったら、がんだったと発覚して。きょうだいもいないので、ママ1人になると思ったら「私頑張らないと」と思って

母親に少しでも楽をさせてあげたい…ずっと働いていたファストフード店でのアルバイトに加え、ニュークラブの仕事も始めた。

あいさん:
ママは頑張って私が守っていきます。お父さんの分まで 

厳しい目を受けながら「客の声」が活力に

一方、新型コロナの感染が拡大するにつれて、接待を伴う飲食店には厳しい目が向けられるようになった。

あいさん:
世間一般の目も怖いが、生きるためには働かなきゃいけない。わたしたちの仕事は良い印象は持たれなかったので…厳しかったのはある

それでも、お客さんが喜んでくれることが支えになっている。

あいさん:
楽しかった、ありがとうと言われるとうれしいです。その一言一言が私の活力になり、あしたの元気の源になるのがやりがい

「人手不足」という問題に直面しながらも、店の存続をかけて、従業員の生活をかけて…。コロナ禍2度目の年末をそれぞれの思いを胸に乗り越えようとしていた。

(北海道文化放送)

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