もう2年近く前になるが、ジェンダー格差解消をテーマに伺った際に上野先生からいただいた言葉は、今でも“カギカッコつき三カ条”として私の心のど真ん中にある。

●「会社とは心中しない」
●「女性管理職は、パワーゲームに飲まれず”私流”で」
●「仕事も育児もどっちもほしい!そう言っていい」

さらに、当時よりそれを声に出しやすい環境になったことを実感する。コロナ禍で働き方や家族の在り方、人とのつながりについての価値観が大きくアップデートされたのも後押ししている。

満員電車にすし詰め?飲みニュケーションが必須?
間もなく、「そんな時代があったのですか?」と若い世代に聞かれることも増えてきそうだ。

今回お話を伺ったテーマは「孤独との向き合い方」。

“コロナ孤独”とも言われる人との距離感、非接触のコミュニケーション――。
「孤独」については、とかく解決しなければならない社会問題のように捉えられがちだが、上野先生からは一刀両断、「なんでそんなに一人がイヤなんでしょう?私の孤独は防がなきゃいけないことですか?(笑)“選んで”一人でいるのは何の問題もないじゃないですか」ときっぱりと返ってきた。

新年最初から重めの話……?と思いきや、何とも軽やかで味わい深い、人生の金言が飛び出す。

zoomインタビューの様子
この記事の画像(6枚)

「在宅ひとり死 @Chizuko Ueno」はデフォルト

佐々木:
「孤独」を考えるときに、一番不安に思ってしまうのは「孤独死」です。上野先生はそれと切り分ける意味でも「在宅ひとり死 ©️Chizuko Ueno」という言葉を広めたいそうですがどのような想いからでしょうか。

上野氏:
まず孤独死といわれるものの定義は大きく3つあります。
独居世帯で(1) 臨終に立会人がいないこと、(2) 事件性がないこと、(3) 死後一定期間経ってから発見されること。この一定期間が自治体によって違っています。24時間だったり48時間だったり。この基準が72時間ぐらいまで緩和されれば、統計上の「孤独死」のデータは減少します。
メディアで取り上げられるような死後数週間も数カ月も経って発見される事例は、性別では男性、年齢は65歳未満であることが多いのです。だから、孤独死は決して高齢者問題ではなく、中高年男性の孤立問題。残るは臨終に立ち会い人がいるかどうかの問題ですね。

佐々木:
社会から孤立して死後長期にわたって発見されないということと、老後在宅でひとりで死を迎えることは、違うということですね?

上野氏:
独居と孤立は違います。いつもひとり暮らしなのに、臨終だけ全員集合って変じゃないですか。
おひとりさまが増えたのは、いやもおうもなく独居せざるをえない人たちと、選択的に独居を選ぶ人たちが共に増えたから。ひとり暮らしの方が家族と暮らすより不経済といえば不経済です。コストが高い。でも、そのコストのかかるひとり暮らしが選択可能になり、そちらの方が楽だと親も子もが思い始めた(笑)。ひとりで暮らしながらいつか要介護認定を受け、ゆっくりと時間をかけて下り坂を下りて、臨終に看取り手がいないなかで死んでいく、それだけのこと。独居者にとってはそれがデフォルトだと思えば、別に問題だと言わなくてもいいでしょう。

確かに、2021年11月に発表された2020年の国勢調査では、日本全体の世帯の単身化が進む現状が浮き彫りになった。
今や世帯全体の38.1%はひとり暮らし。65歳以上の単身世帯が増え、高齢者の5人に1人がひとり暮らしだという。(単身高齢者の世帯は5年前の調査に比べて約13.3%増加)。しかも該当するのは、女性が圧倒的に多い。(※男性約230万8千人、女性約440万9千人)

既婚でも未婚でも、子どもがいてもいなくても、いつか子どもは巣立ち、多くの人はおひとりさまになっていく。もちろん、私も。

いつか来るおひとりさまのために、どんな準備や心づもりをしておけばいいのだろうか?

「在宅ひとり死」の現実的なお金の話

上野氏:
「在宅ひとり死」するのにどれだけお金がかかるとお考えでしょうか。
自分だけの住まいと、介護保険と医療保険があればOKです。年金も大事です。独居でも社会的にサポートしてもらえる制度ができました。
高齢になると身体が不自由になりますから介護保険につながり、要介護認定を受ければケアマネージャーがつきます。必要なら訪問医療と訪問看護にも入ってもらえます。介護保険と医療保険の本人1~3割負担の範囲内で「在宅ひとり死」ができるようになってきました。高齢者医療費の上限は4万4千円くらいですし、介護保険は「要介護5」で1割負担なら3万5千円ですから、合計して8万円くらい。あとは自分のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を上げたければ、自費サービスを入れたらいい。でも、色んな人に話を聞いたら、たとえ末期でも24時間誰かにずっといられるのはウザいとおっしゃいます。

佐々木:
確かに、「24時間ずっと」となると……。それが本音なのかもしれません。

上野氏:
ある訪問介護事業者に、今までで自費サービスの最高額を使った人の月額を聞きましたら、160万円でした。1日は24時間、1カ月は31日以上はないのだから、それ以上は逆立ちしても使えないということです。その状況がどのくらい続いたかと次に聞いたら、末期の2カ月半。合計で300万ちょっとです。ホスピスは1日4万ほどで月額にすると120万程ですから、同程度の額を払うのだとしたら、なぜわざわざ慣れ親しんだ自宅から出て、なじみのない環境に移らなくてはならないのでしょう?ひとりで家で死ぬための費用は、色んな方の答えを総合すると30万から300万まで。そんなにべらぼうにはかかりません。

佐々木:
ただ、認知症になった場合にも自宅に居続けることは可能だと思われますか?

上野氏:
独居の認知症の在宅ケアは、今のところ日本において最もハードルの高いケアだとは思いますが、実際「できる」という事例が積み重なってきています。認知症の人にとって環境を変えるのは最もよくないことがわかっています。自分が老い衰えて適応力を失ったときに施設に移るなんて、そんな大きな決断をご本人がするとは思えません。家族が意思決定して、ご本人にしてみれば“だまし討ち”みたいな状態で連れていかれるわけで、「家に帰してくれ」というのは当たり前でしょう。

上野氏:
認知症の症状は人によって違いますし、深刻なケースはもちろんあります。ですが、食事が作れなくなれば配食サービスがありますし、入浴介助も自宅でやってもらえます。ご本人にとってはそちらの方が施設入居よりはるかに抵抗は少ないはず。独居なら認知症の方でも誰からも責められず、機嫌よく過ごせます。ところかまわず排泄して家は臭ってもOKなら、ヘルパーさんたちが大変丁寧に後始末してくださっている事例も実際にあります。

介護ワーカーの労働条件を上げること

佐々木:
せっかく制度があってもその担い手たちが疲弊しないために、介護従事者などの賃金アップをしていく国の方針が示されましたが、いかが思われますか?

上野氏:
介護ワーカーの労働崩壊は労働条件の悪さに起因しています。施設系に比べ訪問系は割が悪いのですが、介護ワーカーの条件を上げて食える労働にする、それができれば労働崩壊は起きないことは、答えが出ています。
在宅看取りがうまくいっている地域というのは、「訪問医療・訪問看護・訪問介護」の3点セットで連携プレーがきちんとできているところです。なかでも一番大事なのは在宅を支える介護。良心的な事業者はヘルパーも正規雇用を確保しています。介護ワーカーも「ちゃんと食えたら辞めない」んです。

【後編】上野千鶴子氏「過去への執着は“ウザい”だけ」 つながる「手段、人、時間」も自分次第

©︎文藝春秋

上野千鶴子(うえの・ちづこ)氏
社会学者・東京大学名誉教授
認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長
京都大学大学院社会学博士課程修了。平安女学院短期大学助教授、シカゴ大学人類学部客員研究員、京都精華大学助教授、国際日本文化研究センター客員助教授、ボン大学客員教授、コロンビア大学客員教授、メキシコ大学院大学客員教授等を経る。1993年東京大学文学部助教授(社会学)、1995年から2011年3月まで東京大学大学院人文社会系研究科教授。2012年度から2016年度まで立命館大学特別招聘教授。2011年4月から認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。
専門は女性学、ジェンダー研究。この分野のパイオニアであり、指導的な理論家のひとり。高齢者の介護とケアも研究テーマとしている。

【インタビュー+執筆:佐々木恭子(フジテレビアナウンサー )】

佐々木恭子
佐々木恭子


1972年兵庫県生まれ。96年東京大学教養学部卒業後、フジテレビ入社。アナウンサーとして、『とくダネ!』『報道PRIMEサンデー』を担当し、現在は『Live News It!(月~水:情報キャスター』『ワイドナショー』など。2005年~2008年、FNSチャリティキャンペーンではスマトラ津波被害、世界の貧困国における子どもたちのHIV/AIDS事情を取材。趣味はランニング。フルマラソンにチャレンジするのが目標。

記事 25