オミクロン株の拡大で、感染者数が連日最多を記録し続けているアメリカ・ニューヨーク州。ついに、12月22日には、1日当たりの新規感染者が3万8835人(陽性率11.96%)となった。検査人数も日々増加しているとはいえ、前日より1万人増加という、衝撃的な数字だ。クリスマス休暇目前のニューヨーカーたちにとって、いま最も手に入りにくいものは、「PCRなどの検査」、そして「検査キット」である。

しかし、ニューヨークが「世界の感染の中心地」と呼ばれた時期と比較し、多くの政治家らがこの発言を連発する。「今は2020年3月の状況ではない。ロックダウンはしない」と。一体何が違うのか、その背景を分析する。

検査“数時間待ち”は当たり前!スタッフ不足「一時閉院」も

日本でもオミクロン株の市中感染が確認され、日本政府は大阪などで無料検査の対象を拡大し、希望者全員に無料でPCR検査が受けられると表明した。一方、ニューヨークでは2020年後半ごろから、誰でも無料で検査が可能で、私も出張などから戻るたびに、気軽に検査を受けることができた。

時期によっては多少待つこともあったが、今回のオミクロン感染、ブレークスルー感染が拡大しはじめたこの1~2週間は、これまでの比ではない。どのクリニックや検査場も長蛇の列で数時間待ちは当たり前。理由はオミクロン感染だけではなく、クリスマス休暇に、ふるさとの家族に会う前に検査を受けたいという人が増えたからだ。行政側は検査体制を拡大すると発表、新規の検査会場は日々増えている。

その一方で、ニューヨーク近郊に150のクリニックを展開していた大手チェーンは、検査需要の高まりにスタッフの対応が追いつかないとして、19のクリニックを一時閉鎖する事態となった。

クリスマス前に「自宅検査キット」争奪戦

病院で検査を受けられないのであれば、「自宅でできる検査キット」に注目が集まる。バイデン大統領は5億個の検査キットを配布予定と発表したが、すぐに国民の手元に届くはずもなく、街中の薬局ではどこも品薄だ。通常2000円ちょっとで購入できるものが、ネットでは7000円以上に高騰した例も報じられた。

ニューヨーク市では「23日に抗原検査キット1万個を市内5カ所で配布する」と発表した。市長がツイートしたのは前日の夕方だったにもかかわらず、配布場所に行ってみると、朝8時すぎには数十メートルにわたって行列ができていた。係の人が、“ひとり一箱”を渡していくのだが、「なぜ2つもらえないのか」と要求する人が出るたびに列の動きは止まっていた。

「自宅検査キット」の無料配布には朝から多くの人が並んだ(23日)
「自宅検査キット」の無料配布には朝から多くの人が並んだ(23日)
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検査キットを受け取った女性に話を聞くと、「何度も検査場に行ったけれど、行列が長すぎて諦めていた。検査を受けられないなら、お母さんに会わないようにしようと決めていたが、これ(検査キットの入手)で高齢の母親にクリスマスに会えそうだ」と、安堵の表情を浮かべた。

「これで母親に会える」と安堵する女性。結果は15分で判明
「これで母親に会える」と安堵する女性。結果は15分で判明

政治家が連発「2020年3月の状況ではない」

感染者数が連日、過去最多を記録したり、検査キットの高騰・品薄が続くという状況は、2020年のパンデミック開始当初の「マスク不足」や、「消毒液の転売・高騰」などを思い起こさせる。しかし、バイデン大統領をはじめ、ホワイトハウスの担当官も、ニューヨーク州知事も皆一様にこう言う。「今は2020年3月の状況ではない。私たちにはワクチンがあり、ロックダウンは必要ない」。ワクチン接種や、一定期間経過した人には3回目の接種、そして検査(簡単には受けられないのだが)を定期的にするなど対策をとれば、クリスマス休暇も家族らと過ごしてもいい、とも述べている。スポーツやエンターテインメントなども、スタッフに感染者が出たときなどに中止や延期を繰り返しているが、その判断は、基本的に業界に任せられている。

確かに、現時点ではオミクロン株感染者の重症化例は、それほど多くは報告されていない。また、医療体制も2020年3月のようにひっ迫はしていない。ニューヨークタイムズは「このウイルスは感染力が強いため、重症化・死亡などの影響がどれほどあるかは、まだ判明していない。第1波の時の厳しさを、もう一度思い起こす必要がある」とする専門家の指摘を紹介していた。一方、「ロックダウンをすべきだ」という論調は、多数派ではない。

「街から人が消えた2020年には戻りたくない」の思いも?

ワクチン普及や治療薬の開発で、2020年当時の状況とは違う。ワクチン接種率が州内で7割に到達した2021年夏には、花火を打ち上げ、まるでコロナが終わったような雰囲気だった。その後オミクロン株により感染が急拡大しても、規制を強化しようという雰囲気にならないのは、重症患者が、現在のところはそれほど多くないことに加え、2020年春の「人が消えた大都会」、「失業者が急増」という時期には簡単には戻れない、戻りたくない、と思っている国民が多いように感じる。政府としても、これ以上失業手当などの財政出動が生じる事態には戻りたくないだろう。

2020年前半のニューヨーク 街から人が消えた
2020年前半のニューヨーク 街から人が消えた

中間選挙イヤー目前 民主党の「方針転換」?

2020年の状況を思い出すと、当時のクオモ知事(民主党)は「経済再開より科学に耳を傾けるべきだ!」と主張、経済活動の再開を急ぐトランプ大統領(共和党)を激しく批判していた。

ワシントンポスト紙は、ワクチン普及などの状況の変化を踏まえた上で、さらにこう分析する。

「バイデン大統領の“ロックダウンしない”というメッセージは、これまでコロナ規制に厳格だった民主党の“方針転換”を意味している。これは、民主党の苦戦が予想される、中間選挙イヤー(2022年)を目前にしたタイミングで、コロナに対する関する新しいメッセージを打ち出すよう、党内部から求められたからだ」

ワクチンの効果と接種の拡大で、将来への展望が見え始めたかと思った矢先にやってきたオミクロン株。バイデン政権は2022年の中間選挙をにらんでか、検査体制をフル回転で拡充しながら、なんとか人々の生活への規制強化を避ける方向へ方針転換を図ろうとしている。

この方針でオミクロン株の感染拡大を乗り切れるのか、再び2020年春のような厳格な規制をすべきなのか、正解は今はまだわからない。ただ、どちらかが間違いだったと振り返る前に、感染が早期に収束することを願うばかりだ。

【取材:中川眞理子、ハンター・ホイジュラット】
【撮影:米村翼】

中川 眞理子
中川 眞理子

“ニュースの主人公”については、温度感を持ってお伝えできればと思います。
社会部警視庁クラブキャップ。
2023年春まで、FNNニューヨーク支局特派員として、米・大統領選、コロナ禍で分断する米国社会、人種問題などを取材。ウクライナ戦争なども現地リポート。
「プライムニュース・イブニング元フィールドキャスター」として全国の災害現場、米朝首脳会談など取材。警視庁、警察庁担当、拉致問題担当、厚労省担当を歴任。