魚のおいしさを最大限に引き出す「神経締め」。その卓越した技を持つ佐賀県唐津市の鮮魚店の男性には、国内だけでなく海外の一流シェフからも注文が殺到している。世界が注目する技とは？
髄液を取り除き魚の腐敗を防ぐ
「神経締め」とは、魚の中枢神経を破壊し、死後硬直を遅らせることで通常より長く鮮度を保つ処理方法。
大山鮮魚 3代目・大山拓朗さん：
唐津の魚の香り、唐津の海の香りを残すのが大前提。いらんことしないで、自然のまま良い手当をして出してあげる。しっかり香りを残してあげる
こう話す男性こそ、神経締めの天才と呼ばれる大山拓朗さん、37歳。唐津市にある鮮魚店の3代目として生まれ、次元を超えた神経締めで、唐津の魚のおいしさを最大限に引き出す。
大山さんの朝は早い。競りが始まる1時間ほど前から動き出す。
大山鮮魚 3代目・大山拓朗さん：
ずっと“しけ”だったので心配していたが、週明け一発目にこれだけあるとすごくワクワクする
水槽に手を入れ、サイズ感や自分の勘を頼りに良い魚を見極める。
大山鮮魚 3代目・大山拓朗さん：
鮮魚だとサワラ、タイは良いのから全部買おうかなと
午前3時半。鋭い目つきで狙った獲物は絶対に逃がさない。
漁師がいるからこそ自分の仕事が成り立つと話す大山さん。今後の唐津を担う若い漁師には特に期待をしているという。
佐賀玄海漁協・最年少の漁師：
良い魚をとったら大山さんが買うイメージがある。自分たちは神経締めとか勉強不足なので、これからいろいろ教えてもらおうかなと
大山鮮魚 3代目・大山拓朗さん：
これが髄液。脊髄に針金を通し、髄液を破壊し取り除く作業。髄液から腐敗の指令が出るので、そこをきれいに取り除いて腐敗の進行を止める
この技をどこで習得したのか尋ねると…。
大山鮮魚 3代目・大山拓朗さん：
小さいときから身近にあったので、見学という意味ではすごく長い。なんとなくやっていたらこういうことだなと。難しかったけど、なんかやれちゃったみたいな
梱包にもこだわり…料理店が信頼する情熱
神経締めのほかにも、脳を先に破壊することで魚がエネルギーを無駄に消費しないよう保つ「脳殺」や、血を適切に抜くことで微生物や雑菌の繁殖を抑え生臭さを防いだりと、さまざまな処理が必要で、どれか一つでも欠けてしまうと魚の最大限の良さは引き出せない。
さらに、梱包にもこだわりが。いかに魚へ負担をかけないかを考え、人一倍時間をかけているという。
大山鮮魚 3代目・大山拓朗さん：
開けた瞬間に、宝箱のように思ってもらえたら。「良い料理を作ってやろう」という気になってくれると思うので、そこはしっかり意識してやっている
午前7時を過ぎたころから、地元の料理店の店主らが魚を求めてやって来る。
日本料理「あるところ」店主：
抜群に良い。ここじゃないと買えない
イタリアン「ワイズキッチン」シェフ：
素材の持ち味を生かして処理してくれるので助かっている
和食・いけす料理「玄洋」善田浩介店長：
包丁の入り具合も全然違うし、身の返り具合も、刺身切っているときも全然弾力が違う。魚に対しても客に対してもかける情熱が全く違うので、そこを信頼して僕らも毎日通っている
台湾の“総領事”がタイを食べ比べ
取引先は、佐賀県内はもちろん首都圏を中心に約60店舗。さらに海外では、シンガポールや香港、マカオでも注文が殺到しているという。
2021年7月には、県の事業を使い台湾への輸出を開始。新たな販路を拡大し、月間取引額は台湾だけで150万円を超えるほど。
唐津から台湾までは2日ほどかかるが、大山さんの「神経締め」により鮮度は保たれたまま客のもとへ届けられる。
12月13日、なにやら落ち着かない様子の大山さん。見つめる先には、福岡に駐在する台湾の総領事にあたる台北駐福岡経済文化弁事処の処長、陳銘俊さん御一行の姿があった。
大山鮮魚 3代目・大山拓朗さん：
はじめまして、お会いできて光栄です
中国語で挨拶をする大山さん。
大山鮮魚 3代目・大山拓朗さん：
2日かけても3日かけても、魚が生で食べられる状態をつくるのが僕の仕事
台北駐福岡経済文化弁事処・陳銘俊処長：
生き生きして台湾まで、あるいは遠くまで届けるには、どういう風にして？
説明するより見てもらおうと、神経締めの技を披露。2日前に大山さんが締めたタイと、そうでないタイを食べ比べてもらった。
台北駐福岡経済文化弁事処・陳銘俊処長：
全然違う。こんなおいしい魚をもっとたくさんの台湾人に食べてもらいたい
大山鮮魚 3代目・大山拓朗さん：
全然ゴールじゃない。ゴールを決めたら本当にそれこそ終わるので。ずっと唐津の魚が当たり前においしいというのが続くように、それを伝えていく責任があると思うので、率先してどんどんやっていきたい
（サガテレビ）
