北海道函館市に半世紀ぶりに酒蔵が開業した。酒蔵設立の背景には単なる酒作りだけでなく、未来を担う若者や地域への熱い思いがあった。

酒蔵の取締役会を学生が体感

2021年11月25日、函館市に54年ぶりに開業した日本酒の酒蔵「函館五稜乃蔵」。新たな酒蔵誕生に期待が高まっている。

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函館五稜乃蔵 漆嵜照政社長:
泣きたいくらいうれしいです。なんとかこの蔵を函館の観光スポットにまで押し上げて、函館高専と協力しながら新製品の開発をやっていきたい

関係者が期待を寄せる学校との連携。酒造りを通して伝えたい若者たちへの思いがあった。

――費用はどのくらいかかりました?

函館五稜乃蔵 漆嵜照政社長:
180万円くらい。5番のショップが非常に伸びまして、売上が昨年より落ちるかなと思ったら130%まで伸ばした

商品の売れ行きや出荷状況などが報告される取締役会。ピリピリムードが漂う会議を見ているのは、小樽商科大学の学生たちだ。

仕掛けたのは日本酒の酒蔵「上川大雪酒造」。2020年に帯広畜産大学内にも蔵を創設するなど、酒造りを通じ実践的な教育にも携わってきた。

小樽商科大学では、2021年度から月1回程度「上川大雪酒造ゼミ」を開催している。自身もこの大学出身である塚原社長は…。

上川大雪酒造 塚原敏夫社長:
何か大学の良さや個性がわかるものはないのかと考えたときに、こういったものを通じて実学を教えてくれるんだと。会計や簿記、会社法を勉強するだけじゃなくて、実際にビジネスがどういうものなのかを知ってもらう。きっかけになったのは3大学の経営統合ですよね

2022年4月、小樽商科大学を含む北海道の国立3大学が経営統合する。

3大学がタッグ 酒蔵に学校の研究室も併設

背景にあるのは少子化。3つの大学がタッグを組むことで、経費削減だけでなく食品工学やマーケティングなど、それぞれが強みとする分野で連携を深め、人材の育成と地域の活性化を図る。

小樽商科大学 江頭進理事:
北海道ではいろんな形での人材が不足していて、その人材をどうやって作り出していくか、実学志向の考え方は非常に重要になってくる

11月、函館に54年ぶりに開業した日本酒の酒蔵「函館五稜乃蔵」。学校の跡地を使用し、地元の水と酒米で初年度は60キロリットルの醸造を目指す。

酒造りを手掛けるのは上川大雪酒造。北海道内3カ所目の蔵となる。

この蔵にも教育に関わる仕掛けがあった。なんと蔵の中に学校の研究室を設けてしまったのだ。

函館高専 飯岡大樹さん:
何回か日本酒醸造しているんですけど、ここまで度数があがったのは初めてなので、そういう意味でも成功しているんじゃないかな

菜の花酵母で…未来へつなぐ酒造り

実験室で酵母や発酵の研究をする若者たち。専門的な知識を5年間学ぶ、函館工業高等専門学校の生徒だ。

指導する小林先生は、いつか地元に酒蔵をという思いを抱きながら、酵母の研究を14年も前から進めてきた。

函館高専 物質環境工学科 小林淳哉教授:
酒蔵がない時に私たちにできることと言えば、酵母を見つけることだろうと。白くもやもやしているのが酵母ですね。糖をアルコールにする性質があるので、甘いところにいるんですよ。だから菜の花の蜜があるところとか、函館の花であるつつじを狙ってみたり、色んなことをやってきました

10年前、菜の花の酵母から酒造りに使用できることを発見した小林先生。この研究成果を五稜乃蔵の酒造りに生かすつもりだ。

函館高専 物質環境工学科 小林淳哉教授:
ストーリーをかもせるようなもの。五稜乃蔵の敷地の松とか、その界隈の桜とか、函館市の花とか。酵母まで地元ということが作れたらいいなと思っています

地元の酒蔵と研究室ができたことによって活きてくる実践的な教育現場。

函館高専 物質環境工学科 小林淳哉教授:
私たちの教育が、教育だけで閉じてしまうのは一番嫌なんですよ。この教育がどう社会につながり、社会にどう技術を落としていくか

生徒たちの表情も変わってきた。

函館高専 丹羽琴音さん:
(酒蔵には)ちょっとロマンがあるじゃないですか。どんなお仕事されているんですかと聞かれて「お酒を造っています」なんて、ちょっとかっこいいなって思いますね

全国でも稀な酒蔵が増え続ける北海道。そこには地域が抱える課題の解決と、人材育成に向けた熱い想いが込められていた。

(北海道文化放送)