未来を予測するより、変化にすぐに対応すること。
世界のトヨタが掲げる、脱炭素に向けた全方位戦略とは。

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350万台30車種投入でEV強化

トヨタ自動車・豊田章男社長:
さらなるトヨタのバッテリーEVラインアップです!

トヨタ自動車は14日、2030年までにEV(電気自動車)を新たに世界で30車種展開すると発表した。

EVの新車販売台数の目標を年間350万台とし、これまで目標としていた200万台から大きく引き上げた。

豊田社長:
きょう発表した“未来”は、決してそんな先の未来ではない。私たちはできる限り多く、できる限りすぐにCO2を減らさなければいけない。

高級ブランド「レクサス」から、小型車や商用車、スポーツタイプなど、様々な世代の様々なニーズに応えるトヨタのEVラインアップ。

トヨタはこれまで、世界初の量産型ハイブリッドカー「プリウス」をはじめ、水素から電気を作って走る燃料電池車「ミライ」。

さらに2021年に入り、ガソリンの代わりに水素を燃やして走る水素エンジン車の開発を発表するなどしてきたが、一方で、EVには慎重との見方もあった。

豊田社長:
EVに前向きでないという評価に対して、350万台30車種投入。これでも前向きではない会社と言われるならば、どうすれば前向きな会社と評価いただけるのか、逆に教えていただきたい。

14日の発表会では、EVの開発に4兆円、そのうち電池の開発に2兆円を2030年までに投資する方針を示すなど、EVのさらなる強化を進めるトヨタ。

“EV一辺倒”と一線を画す全方位戦略

一方で、今後も脱炭素へ向け、様々な車種を投入する“全方位戦略”は続けると、豊田章男社長は明言する。

豊田社長:
いま、私たちは多様化した世界で、何が正解かわからない時代を生きている。その中では、ひとつの選択肢だけですべての人を幸せにすることは難しい。現時点では、地域によってエネルギー事情は大きく異なる。どれを選ぶか、それを決めるのは私たちではなく、各市場であり、お客さま。
経営的な話で言うなら、選択と集中をした方が効率的かもしれない。しかし、私は未来を予測することよりも、変化にすぐに対応できることが大切だと考えている。だからこそ私たちは、正解への道筋がはっきりするまで、お客さまの選択肢を残し続けたい

「複数の選択肢」は経営学的に正しい判断

三田友梨佳キャスター:
早稲田大学ビジネススクール教授の長内厚さんに聞きます。
トヨタの脱カーボン戦略、どうご覧になりますか?

早稲田大学ビジネススクール教授・長内厚さん:
豊田社長の言っていた「分からない時に将来の予測をするのではなく対応できる力をつける」というのが、何よりも経営学的に正しいです。

このタイミングでトヨタがEV戦略を発表するというのは、決してEVに慎重だというイメージを払拭するとか、戦略の変更というのではなく、まさに今、トヨタの色々な可能性を残す戦略を発表したのだと思います。

未来の車は、ハイブリッドをやってきたトヨタだからこそ、バッテリーの様々な問題をよく分かっているんだと思います。地域によって、お客さんによって、使い方によって、様々なベストなカーボンニュートラルがあるんだと思います。

その意味でいうと、今回のトヨタの発表のポイント「色々な選択肢がある」、これが経営学的に正しい判断だと思います。

EVに絞らず様々な可能性を試す時

三田キャスター:
経営学的に正しいというのはどういったところがポイントになりますか?

長内厚さん:
例えばMIT系の経営学者で「セカンド・トヨタ・パラドックス」という論文を書いた先生方がいます。
1つ目のパラドックスは、欧米から見てトヨタが理解できないという意味なんですが、「ジャスト・イン・タイム(JIT)」(余分な部品在庫を持たずに、必要なものを必要なときに必要なだけ供給を受け、スムーズに製造を行う生産方式)というやり方がわからない。
それでトヨタは世界最大の自動車メーカーになりました。

2つ目のパラドックスというのは、効率を追求すべきなのに、色々なやり方を試してなかなか意思決定をしないところがある。
これを「Set-Based Concurrent Engineering (SBCE)」という専門的な言い方がありますが、それでトヨタは多様な車をたくさんつくりながら、効率を重視する、意思決定を遅らせることでうまくやってきました。

三田キャスター:
カーボンニュートラルに最適な未来の車が何なのかは、まだ誰にも分からないということですね。

長内厚さん:
そうです。ハーバード大のイアンシティ教授も不確実性が高いときにはいくつかのプロジェクトを並行して走らせて、不確実性が下がったら統合すれば良いという議論をしています。

今はEV一つに絞らずに、様々な可能性を試す時なんです。その試行錯誤の速さ、これは日本は大変得意です。そのうまさを活かして、この状況は欧米には理解できないかもしれませんが、もしかすると“サード・トヨタ・パラドックス”の状態なのかもしれません。これがトヨタ流の戦略だと私は考えます。

三田キャスター:
世界の流れはEV一辺倒となっていますが、利用者がどのような車を選ぶか、選択肢を残し続けるトヨタの戦略からは世界の市場を見渡す視野の広さを感じます。

(「Live News α」12月14日放送分)