2021年12月3日、東南アジアの内陸国ラオスの首都ビエンチャンと中国の雲南省昆明を結ぶ長距離鉄道が開業した。新型コロナウイルスの影響で、旅客の国際輸送は当面見合わせとなっているが、これまでタイ側から延びる全長3.5キロの鉄道しか存在しなかったラオスにとっては、悲願の長距離鉄道だ。

「歴史的な日」ラオス初の長距離鉄道に大賑わい

開業の式典には中国の習近平国家主席と、ラオスのトンルン・シースリット国家主席がオンラインで出席。トンルン主席は今後の発展に大きな期待を寄せた。「我が国が発展するための重要な一歩」「きょうは歴史的な日だ」。

両首脳がオンラインで出席 2021年12月3日ビエンチャン駅にて
両首脳がオンラインで出席 2021年12月3日ビエンチャン駅にて
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その後、号令とともにビエンチャンと昆明からそれぞれ列車が出発。ビエンチャン駅では両国の旗が振られていた。

列車に両国の旗を振る人々。ビエンチャン駅を発った列車の車内から撮影
列車に両国の旗を振る人々。ビエンチャン駅を発った列車の車内から撮影

翌日も、ビエンチャン駅は大勢の人で賑わっていた。400キロ先にある中国国境のボーテン駅までの切符は片道約3500円~5500円。最低賃金が月1万2000円のラオスにとっては高額だが、ボーテンまでの切符はすぐに売り切れたといい、その注目度の高さが伺える。

開業2日目 ビエンチャン駅にて撮影
開業2日目 ビエンチャン駅にて撮影

早朝から切符を買うために並んだ人々の多くがこの日の切符を買えず、やむなく翌日以降の切符を購入したという。話を聞くに、乗客の目的は大きく分けて3つあるようだ。故郷の家族に会いに行く人、列車での旅を体験したい人、SNSで投稿したい人。ラオスでもSNSは隆盛だ。

車で600キロ移動してまで乗車する人も・・・

53歳の医師の女性は、600キロ以上離れた自宅から、列車に乗るためにはるばる車で来訪したという。ボーテンまでの切符は売り切れで買うことができなかったものの、途中のルアンパバーン(ユネスコの世界文化遺産にも登録されている古都)までの切符を購入。「いつかラオスの北部や中国雲南省のシーサンパンナに行ってみたい」と話した。

ビエンチャン駅の入り口付近で土産物のTシャツを販売していた43歳の女性は、好調な売れ行きに顔をほころばせた。以前は空港で店舗を経営していたものの新型コロナウイルスの影響で閉店し、この日から新たに営業を開始したという。ビエンチャン駅近くの病院で首の怪我の手術をするため、列車を利用したという男性もいた。

ビエンチャン駅付近の土産物店ではTシャツの売れ行きも好調
ビエンチャン駅付近の土産物店ではTシャツの売れ行きも好調
車窓から見えた山々
車窓から見えた山々

中国主導で懸念される「債務のわな」

実際に列車に乗ると、車窓からは広大な山々が見える。ラオスの国土の8割は山地と高原だ。田園が広がるのどかな光景も印象的だ。ただトンネル区間も長く、ラオス側区間422キロのうち、トンネル総延長は約200キロに及ぶ。

田園風景が続く
田園風景が続く

これまでビエンチャンとボーテン間は、車で16時間ほどかかっていたが、鉄道なら3時間余りだ。まさに人々の生活を変える鉄道だが、目下懸念されることもある。事業は中国主導の色合いが強いことだ。

ビエンチャン駅舎には「万象」と漢字で書かれ、駅の案内板やアナウンスには、ラオス語のほか中国語が使われている。

ビエンチャン駅舎
ビエンチャン駅舎

総事業費約6800億円はラオスのGDPの約3分の1にあたる。国連の定める世界の最貧国のひとつであるラオスでこれだけの事業を進めたことで懸念されるのが「債務のわな」と呼ばれるリスクだ。

今回は事業の7割を中国が負担し、ラオスが拠出する3割(約2000億円)も大半が中国の政府系金融機関からの融資となっている。鉄道事業の採算が上がらず、融資の返済が滞れば、将来、中国に権益を渡さなければならなくなる恐れがあるのだ。

一帯一路の鉄道戦略 タイなどの状況は?

開業式典で中国の習近平国家主席は「鉄道は『一帯一路』の象徴的プロジェクトだ。沿線国家と運命共同体を築きたい」と述べ、中国にとって「一帯一路」を東南アジアに広げるための重要事業との認識を示した。

というのも「一帯一路」には、鉄道をさらに南方へ延伸し、タイ、マレーシア、シンガポールを結ぶ計画があり、その全長は3000キロに及ぶ。物流の大動脈を築く狙いとみられるが、ラオス以外の国では事業の遅れや計画凍結の動きもあり、前途洋々とはいえない。

ビエンチャン駅
ビエンチャン駅

ラオスの隣国タイの状況としては、今回の鉄道が開通するまでラオスに唯一あった鉄道は、タイのノンカイ駅から、国境のメコン川を越えラオス側のタナレン駅を結ぶものだった。つまり両国間には既に短いながら国際鉄道が存在し、現在はタナレン駅とビエンチャン駅を結ぶ7.5キロの工事が進められている。この工事はラオス国内のものだが、隣国のタイ側企業が参画。現在7割ほどの完成度だという。

タイでは、長距離高速鉄道の計画が2つのフェーズで進められている。中国の技術を導入し、時速250キロで設計される見通しだが、遅れが目立つ。第1フェーズは、首都バンコクと、中部ナコンラチャシマを結ぶ全長250キロの区間だ。2021年に開通予定だったが、大幅に遅れ、現在は2026年開通予定となっている。

タイ国家経済社会開発委員会(NESDC)より
タイ国家経済社会開発委員会(NESDC)より

第2フェーズは、中部ナコンラチャシマとラオス国境ノンカイを結ぶもので、こちらは延期を経て2028年に開通予定だ。ノンカイからバンコクまでの全区間は873キロとなる。中国の鉄道による「一帯一路」構想はタイ国内では計画が大幅に遅延し、ほかの国々では凍結という動きもある。

信心深い仏教徒が多いラオス。車内にはオレンジ色の袈裟の僧侶も
信心深い仏教徒が多いラオス。車内にはオレンジ色の袈裟の僧侶も

南進して、タイ首都バンコクからマレーシア国境を結ぶ高速鉄道計画は凍結中だ。マレーシア北部コタバルとマレーシア西部主要港クラン港を結ぶ高速鉄道計画は、1年延期し2027年末に完工予定となっている。さらに、マレーシア首都クアラルンプールとシンガポールを結ぶ高速鉄道計画は、ことし1月に正式に中止が決定した。

はたして中国が主導する「一帯一路」の鉄道による連結計画はどこまで繋がるのか・・・先行きを見守りたい。

【執筆:FNNバンコク支局長 百武弘一朗】

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百武弘一朗
百武弘一朗

FNN プロデュース部 1986年11月生まれ。國學院大學久我山高校、立命館大学卒。社会部(警視庁、司法、宮内庁、麻取部など)、報道番組(ディレクター)、FNNバンコク支局を経て現職。