巨額横領事件で無罪判決を受けた大手不動産会社プレサンスコーポレーション元社長、山岸忍さん(58)。
判決後、検察の捜査の内幕を関西テレビの取材に明かした。

山岸忍 プレサンスコーポレーション元社長:
なんでもっと丁寧に捜査してくれなかったんだろうと。証拠に基づいてやってくれなかったんだろう、と

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山岸忍 プレサンスコーポレーション元社長:
ドラマとか映画でね、そういうシーン出てきますよね。こうやって無理に捏造していくもんなんや、と

いくら無罪を主張しても、「犯人」だとして話を進める検察の手法。
10年以上前に、同じような構図で起きた事件があった。

村木厚子 厚生労働省元局長:
丁寧に、もう少し丁寧に捜査をしていただけてたらなぁ、という思いはあります。

検察史上最大の過ちを生んだ、郵便不正事件だ。

甲南大学法科大学院 渡辺修教授:
残念なことに、10年前と今回と、2度の無罪判決を見る限り、体質は変わっていない

なぜ、反省はいかされなかったのか。
検察のエリート集団、大阪地方検察庁特捜部の闇に迫る。

巨額横領事件 検察が見立てた「ストーリー」

ことの発端は2年前に明らかになった巨額横領事件だ。
学校法人・明浄学院の経営に関心を示していた大橋美枝子受刑者(63)が、18億円もの大金を借り入れ、理事の買収などに使い、学園の理事長に就任した。
その後、学校の土地を売却して、手付金21億円を得ると、借り入れていた18億円の返済に充てた。

つまり、大橋受刑者は、自分が理事長になるために使った個人の借金を、学校の財産を売った金で返済したことになり、業務上横領罪が成立する。
そして、この18億円の出どころが山岸さんだった。

検察の見立ては、マンション用地として学校法人の土地を手に入れたいプレサンスコーポレーション社長の山岸さんが、この犯罪の計画を知っていて、大橋受刑者個人に金を貸した、というものだった。

無罪判決の後、取材に応じた山岸さん。
逮捕に至るまでの経緯を明かした。

山岸忍 プレサンスコーポレーション元社長:
なんで18憶円貸したのかと、最初の方はそればっかり。(否定しても)何十回も。いきなり、逮捕状を持ってこられたんです。検察庁に行って、いつものように喋ってたら。今思えば、いつもにまして内容のない話だった

逮捕後の取り調べに対しても山岸さんは、「横領の仕組みは、まったく知らない」と一貫して無罪を主張。

18億円の貸付先は大橋受刑者個人ではなく、学校法人だと思っていた。
つまり、学校に金を貸し、学校が土地を売った金で山岸さんに返済をしたと思っていたのであれば、犯罪の認識はなかったことになる。

しかし、検察は自分たちの見立てたストーリーに沿わない話に聞く耳を持つことはなく、勾留は続いた。

「ストーリーありき」取り調べの裏側

弁護を担当した中村和洋弁護士。
検察は「自分たちのストーリーありきで、この事件を考えているのではないか」と疑念が強まっていったという。

山岸さんの弁護を担当 中村和洋弁護士:
疑問に思ったのは、明浄学院から21億が横領されていることは事実としてあるんですけど、山岸さんの場合はそもそも、自分でまず金を出している。(大橋受刑者が)横領することが分かっていて、金を貸すことがあるだろうかというところに違和感があった

山岸さんの弁護を担当 中村和洋弁護士:
メールの中身なども見ることが出来た。たくさん客観的な証拠は全て明浄学院が借りる前提で、少なくとも当初の段階は作られている。そういうのを見ていく中で、弁護団は完全に無罪である、えん罪事件であると確信した

さらに調査を進めると、検察が行っていた異様な捜査の姿が明らかに。

山岸さんの弁護を担当 中村和洋弁護士:
取り調べの録音録画を証拠開示請求して、実際に録画の場面をみたら驚き、あきれたのが正直なところ。取り調べの録音録画で可視化しているのに、こんなに問題のある、ひどい取調べを担当検事がしているなんて

土地取引について、山岸さんと直接やり取りをしていた関係者2人(ともに一審で有罪)への取り調べ。
山岸さんに犯罪の認識があったかを知る、重要な立場の証人だ。

検察官の取り調べ(関係者Aに対し):
山岸被告の関与があるなら言わないと、あなたの責任の重さも変わってきますよ

検察官の取り調べ(関係者Bに対し):
会社がこうむった損害は10億、20億などではすまない。それを背負う覚悟はあるのか 

検察官は威圧的な態度、言葉で詰め寄った。
客観証拠が乏しい今回の事件で、この2人の供述は山岸さんの有罪を立証するための柱だったのだ。

山岸忍 プレサンスコーポレーション元社長:
ほんまにこんな映画みたいなことが起こってるんやなと。けど、その反面、この先進国で。 そういう驚きの感情でしかなかったです

結局、関係者の2人は山岸さんの関与を認める供述をしたため、検察は供述調書を証拠として裁判所に提出。 

しかし裁判所は、その調書を「信用性に欠ける」として証拠として認めなかった。
検察が有罪立証の柱を失った瞬間だった。

そして、迎えた判決。
山岸さんに下された判決は「無罪」。

大阪地裁の坂口裁判長は、検察の取り調べについて「必要以上に強く責任を感じさせ、真実とは異なる供述に及ぶ強い動機を生じさせかねない」と指摘。
検察を厳しく批判した。

中村和洋弁護士:
プレサンスの社長を主導とした事件であるという構図、ストーリーというのを描いて、それに固執して関係者の供述と証拠を無視したまま、(特捜部が)突き進んだ

10年前にも大きな過ち

「検察の見立てたストーリー」「強引な取り調べ」というキーワード。
実は、大阪地検特捜部は10年以上前に、大きな過ちを犯している。

大阪地検特捜部は2009年、自称障害者団体に偽の証明書を発行したとして、厚生労働省局長だった村木厚子さん(当時53歳)を逮捕、起訴した。
検察史上最大の過ちを生んだ“郵便不正事件”だ。 

この事件で検察は、「村木さんの関与を認める」供述を関係者から得ていた。
しかし、裁判で関係者は次々と供述を翻し、強引な取り調べの実態も明らかになった。
結果、裁判所は村木さんに無罪判決を言い渡した。

村木厚子 厚労相元局長:
検察のストーリーと事実は相当違ったものだったということは、裁判を通じて明らかにしてもらえたと思っています

その後には、フロッピーディスク改ざんも明らかになる。

なぜこの苦い経験の反省は生かされなかったのか。
専門家は、事件以降、様々な検察改革が行われたにも関わらず再び繰り返されたことに、問題の根深さがあると指摘する。

甲南大学法科大学院 渡辺修教授:
共犯とするものから言葉を引き出すことによって、シロをまったくのクロに塗り替えようとしたというのは、証拠の偽造、データの偽造とまったく同じ発想方法だと思う。
残念なことに10年前と今回と、2度の無罪判決見る限り、体質は変わっていない。
もっと恐ろしいことに、検察の世代が変わっているはずなのに、その文化、マイナスの文化が連綿と受け継がれてしまっている

逮捕で一変した人生

山岸さんの人生は、逮捕されたその日に一変した。

山岸忍 プレサンスコーポレーション元社長:
(拘置所に)入れられた時は、感情を持つ以前の問題です。なにが起こっているのかわからない。もう夜でしたので、めちゃくちゃ寒い日だったんですよね

身体拘束を受けた日数は248日。
会社を失い、社会的な信用も失った。

山岸忍 プレサンスコーポレーション元社長:
私は仕事が本当に大好きです。そして私が作った会社ですから、自分の子供のように会社のことが大好きです。それを一瞬にして取り上げられたのが一番つらかったです
(Q:心折れそうな時は?)
何回もありますよ。先生方からは、論理的になぜ頑張らなあかんか。精神的には、家族からは、信じてるから頑張って。この2本立てで頑張れたんかなと思います

今回の無罪判決について、検察幹部は取材にこう答えた。

検察幹部:
特捜部という大きい権力で逮捕起訴したわけなので、無罪に対する批判があって当然だし、その批判は受けるしかない。体質が変わっていない、という指摘も仕方がないと思う。ただ組織としての意識改革もやっているし、変えようとしている最中なのは間違いない

検察という強大な権力は、時に人の人生を簡単に壊す。
だからこそ、もう3度目の過ちは許されない。

(関西テレビ「報道ランナー」2021年11月2日放送)