静岡・熱海市の土石流は発生から4カ月が経ち、地域の復興計画の説明会など将来への動きも本格化している。復興の前提となるのが、二度と土砂が流出しない安全な地域づくりだ。
土石流が流れ下った斜面で、新たな崩落を防ぐための工事に取り組む人たちを取材した。

発生4カ月 さまざまな進展が

熱海市北西部にある姫の沢公園スポーツ広場。飛び立つヘリコプターが吊り下げているのは重機だ。

現場に重機を搬入 道路がないためヘリコプターで(8月)
現場に重機を搬入 道路がないためヘリコプターで(8月)
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慎重なフライトを続けて向かった先は、伊豆山の土石流が流れ下った斜面。ここで安全対策工事が続けられている。

土石流の上流部では崩落防止工事が進む
土石流の上流部では崩落防止工事が進む

雨宮帆風記者:
(10月28日)午後1時です。今 捜査員が、土石流の起点の土地の前所有者の関連先に捜索に入りました

盛り土造成業者の関係先で家宅捜索
盛り土造成業者の関係先で家宅捜索

土石流の発生から4カ月。被害を拡大させたとされる盛り土について、業者や土地所有者の刑事責任を追及する捜査が本格的に始まった。

公営住宅などへの入居が進み、ホテルで避難生活を送る人も10月後半にはゼロとなった。

近隣の学校で学んでいた児童も地元の学校に戻る
近隣の学校で学んでいた児童も地元の学校に戻る

子供たちも地元の学校の校舎に戻り、授業を再開させている。

安全な街づくりへ 市が復興計画を提示

熱海市・斉藤栄市長:
単に元通りにするのではなく、伊豆山の将来像を見据えた整備としないといけない

復興計画の住民説明会
復興計画の住民説明会

10月9日、熱海市は住民説明会を開き、2021年度中に復興の基本計画を策定する考えを示した。
2~3年で逢初川の護岸と緊急車両が通れる道路を整備し、5年から10年かけてその他の安全設備をつくっていく。

土石流が流れ下った川の改修イメージ
土石流が流れ下った川の改修イメージ

熱海市・斉藤栄市長:
まず一番大切なことは、皆さまの中で元の所に帰りたいと思う人が必ず帰れるようにすることと、この復旧の事業を伊豆山の将来の発展につながるものにすることだと考えています

残る行方不明者の捜索や土砂の撤去作業を進めながら、地域の将来を見据えた動きが加速している。

国交省が最前線拠点 技術生かし崩落防止工事

加藤洋司記者:
発生から4カ月を迎えようとしている熱海市伊豆山の被災現場です。10月11日に土砂が流れ下った部分をまたぐ市道が開通しました。さらに上流部分では、地域の安全性を高める工事が進められています

川の上流では崩落防止工事が続く
川の上流では崩落防止工事が続く

安全な街にするため何より重要なのは、崩れた斜面の危険を減らすこと。地域住民の不安は続いている。

住民:
この先も大丈夫かなという気持ちはあります

住民は再崩落が心配
住民は再崩落が心配

別の住民:
また崩れたらどうしようもないので、それが心配ですよね

土石流が流れ下った斜面の工事は危険が伴い、高い技術が必要だ。
7月、川勝知事は国に工事を要請し、国交省がその作業を担っている。

国交省の最前線拠点 工事の司令塔だ
国交省の最前線拠点 工事の司令塔だ

国土交通省・中部地方整備局は、最前線の機関として「熱海緊急砂防出張所」を設置した。職員8人が工事を安全にスピーディーに進めるため取り組んでいる。

これまでの調査で、起点となった部分にあった盛り土の量は約7万5000立方メートル。5万5000立方メートルが崩れ落ち、2万立方メートルが残っていると見られている。

土石流の起点 盛り土約2万立方メートルが残るとみられる
土石流の起点 盛り土約2万立方メートルが残るとみられる

(Q.難しい現場ですか?)
熱海緊急砂防出張所・栗木信之所長:
難しいと思いますね。現場へたどり着く道路がなかったということもあって、ヘリコプターで資材を運んで、土砂もヘリコプターで搬出してということを今はメインでやっている

資材の搬入や土砂の搬出はヘリコプターで
資材の搬入や土砂の搬出はヘリコプターで

目標としていることは、大きく2つある。元々あった砂防えん堤で溜まった土砂を取り除くこと、それに新しい砂防えん堤を造ることだ。
そのためには、大きな重機が現場に入るための工事用道路も必要となる。

工事の目的はえん堤に溜まった土砂の撤去と新えん堤の建設
工事の目的はえん堤に溜まった土砂の撤去と新えん堤の建設

土砂が流れた斜面は不安定な部分もあるため、土を掘ったり運搬する作業はリモコンで操作する無人の重機も導入し、安全対策を図っている。

危険箇所では重機をリモコン操作
危険箇所では重機をリモコン操作

当初計画していなかった対策も追加された。1トンの土のうを200個並べて固定した「ネットロール土のう」と呼ばれるもので、住宅街に土砂が流れ込むのを防ぐ施設だ。9月に完成した。

熱海緊急砂防出張所・栗木所長:
できるだけ早く下流の安全性をあげるための方法を検討して、ネットロール工法の土のうをつくった

早期完成のため「ネットロール工法」も取り入れている
早期完成のため「ネットロール工法」も取り入れている

「元の生活に戻る助けになれば」工事は24時間態勢で

そして斜面の緊急工事は、天気が悪い日を除いて毎日、作業員3交代の24時間態勢で行われている。

工事は3交代24時間態勢で
工事は3交代24時間態勢で

こうした取り組みは、住民説明会で伝えられた。

住民:
予期せぬことが、これからまだ発生するのか説明してほしい

県交通基盤部・森本哲生参事:
(残る)2万立方メートルについて検証して安全性を調べて、この盛り土がどう行われた経緯も含めて今後の対策を示していく

住民:
(工事終了まで)5年単位か10年単位か、おおまかでいいので教えてほしい

住民説明会では工期に関する質問も
住民説明会では工期に関する質問も

中部地方整備局富士砂防事務所・杉沢文仁工務課長:
いま5年という話がありましたが、そこまでかかる予定ではありません。昼夜をかけてやりますので、(工期は)だいぶ短くなると思います

工事の完了にはまだ数年かかる。それでも安全を高めるための日々の作業が、住民の気持ちに変化を与えている。

地元の店の人:
一度災害があるとちょっと不安があるんですよね。でも(工事関係者の)皆さんが、もう二度と起きないように上流で一生懸命やってくれていると思うので安心しています

地元の店「上流で一生懸命やってくれているので安心」
地元の店「上流で一生懸命やってくれているので安心」

熱海緊急砂防出張所・栗木所長:
被災した人や家族を亡くした人もたくさんいる中で、少しでも地域の復興というか、皆さんが元の生活に戻れたら良い。それを私たちが、少しでもお助けできればと考えています

栗木所長「(被災者が)元の生活に戻る助けになれば」
栗木所長「(被災者が)元の生活に戻る助けになれば」

土石流で一変した伊豆山の街。徐々に始まった将来の街づくりに向け、地域の安全を確かなものにする工事がこれからも続けられる。

熱海市伊豆山地区(10月)
熱海市伊豆山地区(10月)

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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