「国の尊厳を損なう」 ソニー中国法人に100万元の罰金

10月28日、ソニーグループは2022年3月期の連結営業利益が前期比9%増の1兆400億円になるとの見通しを発表した。営業利益が1兆円をこえるのは初めてで業績好調がうかがえる。こうした中、ソニーグループで中国北京市に拠点を置くソニー中国法人が10月12日付けで中国当局から100万元(日本円で約1780万円)の罰金を科された。理由はソニー中国法人が2021年6月に出した新型一眼レフ発売のネット広告が「国家の尊厳を損なう広告」に当たるとされたためだった。

国家の尊厳を損なう広告というのは一体どんなものなのか。ソニー中国法人が出したネット広告を確認してみると、虹色のきれいな背景の中心に「更多精彩 随心記録」と記されている。これは日本語で「より素晴らしく 思い通りに記録できる」という意味になる。画面下には2021年7月7日の午後10時に新製品を発売すると書かれている。この広告が出されると間もなく、ネット上では「この日にソニーが新製品を発売するなんて問題だ」「なぜ、この日にわざわざ発表をするんだ」「日本はやはり過去の戦争を反省していない」というコメントが相次ぐ騒ぎとなった。

実はソニー中国法人が出した広告で問題となったのは商品ではなく、新製品を「発表する日」だった。7月7日と言えば日本では七夕を連想するが、中国にとって7月7日は日中戦争の発端となった盧溝橋事件(1937年7月7日)と考える人が多い。屈辱の歴史を思い起こさせる、そんな曰く付きの日に日本企業が新製品を発表しようとしたため、中国のネットユーザーが反応したのだ。ソニー中国法人はすぐに広告を削除し、「私たちは多くのネットユーザーの皆さまの関心事を重要視しています。私たちの日にちの選択で皆さまに誤解とご迷惑をお掛けしてしまいました。この事をお詫びし、早急にイベントを中止致します」とコメントを出した。

この騒動から約3カ月が経った10月12日、ソニー中国法人は中国当局(北京市朝陽区の市場監督管理局)から100万元の罰金を科される事になった。

ソニー中国法人が出したコメント ウェイボより
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パナソニック中国法人も炎上

日中の歴史的事件が発生した日をめぐって、中国に進出する日本企業が「炎上」に巻き込まれた例は他にもある。

2020年9月18日、パナソニック中国法人に勤務する中国人スタッフが自らのSNSに「918国の恥を忘れるな」と投稿した。「918」とは1931年9月18日の満州事変、「柳条湖事件が起きた日」を意味する。中国人の感覚では正論と受け止める人が多いコメントだ。しかし、当該スタッフは上司の中国人から「そういう世論を刺激することはやめなさい。あなたは会社を辞めるつもりですか」などと注意された。

納得できなかったのか、スタッフはその上司との一連のやりとりをネットにアップした。すると、ネット上ではパナソニック中国法人に対して、「歴史を学べ」「中国を尊重しないのであれば閉鎖しろ」「パナソニックをボイコットする。中国から出て行け」などと批判が相次いだ。パナソニック中国法人は「社員の正当な発言が妨害された事を受け、パナソニックは本件を非常に重く受け止め真摯に対応してまいります。このようなご心配に感謝するとともに、今後も中国の発展に貢献していきたいと考えています」と謝罪のコメントを出した。

パナソニック中国法人のコメント ウェイボより

注意すべき日は他にも存在

今回、ソニー中国法人が発表を予定した7月7日や、9月18日以外にも日系企業が気をつけなければいけない日がある。日本が終戦を受け入れた8月15日や、中国が抗日戦争勝利記念日とする9月3日、旧日本軍が南京を陥落させた12月13日などだ。在中日本大使館はホームページで「過去の歴史的経緯にかんがみ、中国人の中には日本人に複雑な感情を抱く人がいることを念頭におき、慎重に行動する必要があります。特に、日本人が関与した歴史的事件が発生した日には反日感情が表面化する傾向が強いので、思わぬトラブルを引き起こすことがないように注意してください」と呼びかけている。

人口14億人の巨大マーケットの裏にある中国リスク

拓殖大学海外事情研究所の富坂聰教授は一連のネット炎上とそれに対する政府の対応について次のように解説する。「中国では再び反日の嵐の前兆があります。ネットの中では不気味な盛り上がりになっています。「日本とはやはり一度きちんと決着をつけるべき」という論調も多いようです。ネット炎上した場合、中国では政府が積極的に日本に対処したという立場が一般的です。それは消極的だと「弱腰だ」という批判に繋がるからです」

富坂教授が指摘する「反日の嵐の前兆」とも言えるのが、大連にできた日本の京都の街並みを再現したプロジェクトの営業停止だ。地元の不動産業者が市政府の承認を受けて日本円で1000億円をかけて開発した。2021年8月に日本料理店や物産店などの商業施設がオープンし、多くの観光客で賑わっていたが、営業開始からわずか1週間程度で休止に追い込まれた。

突然営業停止に追い込まれた「小京都」

日本風の街並みを建設したことに、ネット上に「大連は日本がかつて占領していた街」「国の恥を忘れるな」「これは文化の侵略で戦争の侵略よりももっと恐ろしい」などと批判が殺到し、大炎上したことが原因だった。この「小京都」は現在も再開には至っていない。

中国の日常の光景「広場ダンス」も見られたが・・・

中国に進出する日系企業の拠点は3万を超えるが、中国でのビジネスは常にリスクと背中あわせだ。ネット上で再び、反日気運が高まっていることには、特に注意する必要があるだろう。まずは現地の中国人がどう思うか、どう感じるかに気を配らなければ、常に炎上する恐れがあることを忘れてはならない。炎上した場合、中国政府は日本企業を守るより「弱腰」と取られないように積極的に対処すると予想されるからだ。ソニー中国法人のケースは基本的なミスと言えるが、この際改めて教訓とすべきだろう。

【執筆:FNN北京支局 河村忠徳】

【表紙画像:ソニー中国法人が出したネット広告:ウェイボより ※現在は削除済み】