9月30日で、全面解除された緊急事態宣言。その後、企業や団体のテレワークの実施率にはどのような変化があるのだろうか。

この変化を示す調査を、日本生産性本部が行った。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の全面解除後の10月11~12日に、20歳以上の日本の企業・団体に雇用されている1100人を対象にインターネットで調査。

その結果を「第7回・働く人の意識調査」として、10月21日に発表した。

これによると、テレワークの実施率は22.7%で、前回・7月調査(20.4%)と比べ、ほぼ横ばいという結果だった。

この結果について日本生産性本部は、2020年7月の第2回調査以降、「テレワーク実施率は変わらず2割前後で推移しており、一定程度の定着が見られる」という見方を示している。

テレワークの実施率(出典:日本生産性本部「第7回・働く人の意識調査」)
テレワークの実施率(出典:日本生産性本部「第7回・働く人の意識調査」)
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また、今回の調査で「コロナ禍収束後もテレワークを行いたいか」という質問に対しては、「そう思う」と「どちらかと言えばそう思う」の合計は71.6%。

2021年4月の第5回調査の合計は76.8%、7月の前回調査の合計は74.1%だったことから、2回連続で減少している。

コロナ禍収束後もテレワークを行いたいか(出典:日本生産性本部「第7回・働く人の意識調査」)
コロナ禍収束後もテレワークを行いたいか(出典:日本生産性本部「第7回・働く人の意識調査」)

今回の調査結果を受け、日本生産性本部はテレワークの実施率は「宣言・措置の全面解除後も2割前後で定着」と分析しているが、この分析にはどのような理由(裏付け)があるのか?

また、今回調査した10月12日以降、そして新型コロナウイルスの収束後、テレワークの実施率はどの程度、低下するとみているのか?

日本生産性本部の担当者に聞いた。

“2割前後”が続いている理由

――昨年7月以降、テレワークの実施率は“2割前後”という状況が続いている。この理由としてはどのようなことが考えられる?

2020年4月に政府は初の「緊急事態宣言」を発出しましたが、それ以降も、「宣言」「まん延防止等重点措置」は繰り返し発出され、特に首都圏では「宣言」「措置」が出ていなかった期間はごくわずかです。

行政からテレワークを活用して出勤を7割削減することなどの要請を受け、大企業等を中心に、「宣言」「措置」が出ている間は、できるだけテレワークを維持する対応をとってきたと思われます。

また、新規感染状況の波は、おおむね3~4カ月前後の間隔で発生しています。増加と減少の速度も波によって違いがあり、誰にも先が読めません。

企業がいったん構築したテレワーク体制を3カ月程度で「解除/適用」の切り替えを行うとは考えにくく、新規感染状況が落ち着いたように見えても、テレワーク体制を維持する慎重な姿勢を崩さなかったと思われます。


――「自分が感染するかもしれない」という雇用者が抱える不安は関係している?

「働く人の意識調査」から、雇用者が体感する「自分自身がコロナに感染する不安」は、2021年1月以降、徐々に軽減していますが、直近の10月調査でも7割の方が「不安」を感じていることが分かっています。

また、不安の程度は、ワクチン2回接種が完了しても軽減しない、つまり、「1回接種者」と「接種の意思はあるがまだ受けていない者」が同程度の不安を感じているという発見がありました。「ブレイクスルー感染」の危険など、ワクチン接種は必ずしも安全を保証しないことを人々は感じています。

調査の担当者としては、ワクチン接種の普及で安心感が広がるだろうと予想していましたが、予想は外れ、ワクチン接種は、不安解消の決め手にはならないことが分かりました。

企業のテレワーク実施責任者も、ワクチン接種を理由としてテレワークを取りやめるという意思決定はしないと思われます。

このように、(1)行政の要請を遵守、(2)感染の波の間隔が比較的短いこと、(3)感染不安が軽減しないこと、を背景に、テレワーク実施率2割という状況が続いていると考えます。

イメージ(テレワーク)
イメージ(テレワーク)

「2割前後で定着」日本企業のテレワークを運用できる実力の程度

――テレワークの実施率を「2割前後で定着」と分析した理由は?

2020年5月の第1回調査は、初めての「緊急事態宣言」から1カ月経過した後の時点で実施しました。

この時、テレワーク実施率は3割を超えていましたが、本来はテレワークに向かない仕事をしている人も、やや無理をして実施していたのが実情だと思います。実際には、自宅待機に近い人も含まれていたと思われます。

しかし、それ以降はテレワーカーの選別が進み、テレワークに適した職種・業務内容に携わる人がテレワーカーの中心になっていきました。このため、在宅勤務の効率性や満足感は最近まで上昇を続け、コロナ禍後の継続意向も強まっていました。

課題は多いものの、テレワーカーの多くは、この新しい働き方に慣れ、定着が進んだと考えられます。

ただし、一部の企業は恒久的な制度としてテレワークに取り組んでいますが、ほとんどの企業は、現在でも、緊急避難的な対応として行っていると思われます。「実施率2割」は、緊急避難的な対応下での日本企業のテレワークを運用できる実力の程度を表しているものと考えられます。

今後、大きな感染の波が襲う、感染力の高い変異株が出現するなどのショックが無い限り、2割を大きく超えることは無いと思います。


――テレワークを実施している“2割前後”は大企業が多い?

テレワーク実施率は、従業員の規模による格差があることが分かっています。100名以下の勤め先は10%台、1001名以上の勤め先は30%台と、調査のたびに20ポイント以上の差が見られ、格差が縮小する兆しはありません。

職種別では、「管理的な仕事」「専門的・技術的な仕事」「事務的な仕事」といった、いわゆるホワイトカラーでテレワーカーが多く、「生産工程の仕事」「輸送・機械運転の仕事」「運搬・清掃・包装等の仕事」といったブルーカラーで少なくなっています。この傾向は、調査を開始した2020年5月から変わっていません。

従業員規模別・テレワークの実施率(出典:日本生産性本部「第7回・働く人の意識調査」)
従業員規模別・テレワークの実施率(出典:日本生産性本部「第7回・働く人の意識調査」)

「テレワーク疲れの兆候は続いている」

――『コロナ禍収束後もテレワークを行いたいか』という質問に対しては「そう思う」と「どちらかと言えばそう思う」の合計は2回連続で減少している。こちらはどのように受け止めればよい?

前回(2021年7月)の調査結果レポートで「テレワーク疲れ」の兆候が見えると指摘しました。今回もその傾向は続いています。長い人は1年半以上テレワークを続けていて、いささか疲れを感じていると思われます。疲れの原因は、在宅での執務環境の整備が進まないことにあります。

テレワークの課題については、初回の2020年5月調査から継続して質問しており、自宅の物理的環境、Wi-Fiなどの通信環境といった、自宅の環境は毎回多くの人が課題として挙げています。

テレワーカーの中心は首都圏の大企業で働く人です。首都圏の住宅事情を考えると、テレワーク用の執務室を自宅に構えることは難しく、リビングなど、本来、仕事向きではない場所・机・椅子で執務している人が多いのではないでしょうか。身体的にも負担がかかっているものと思われます。

孤独感や疎外感を感じている人も、一時は20%を超えました。最近の調査では、在宅勤務の満足感も低下傾向にあるなど、テレワーカーの一部はオフィスへの回帰を望んでいると推測されます。もちろん、テレワークに満足し、継続したいと考えている人も多いでしょう。

コロナ禍収束後のテレワーク希望の後退は、上記の事情が背景にあると考えます。

イメージ(テレワーク疲れ)
イメージ(テレワーク疲れ)

――今回の調査をしたのは10月11、12日。今後、テレワークの実施率は低下していく?

現在のテレワークは、コロナ禍による緊急避難的な対応が多いと思います。コロナ禍は、ワクチン接種の普及(3回目接種も含め)、治療薬の開発等によって、いずれは収束します。

その場合、緊急避難的な対応を行ってきた企業の多くは、テレワークを縮小し、オフィスへの回帰を進めるでしょう。理由は、テレワークによって、オフィスが遊休化(=活用されないで放置している状態)していることです。コロナ禍でオフィスを地方に移転させた企業もありますが、多数ではありません。

いったん手放した好立地のオフィスを再び手に入れることは難しいので、定期代を削減するなどの方法でコストを削減しつつ、オフィスを維持しているのが現状と思います。

経営者には、オフィスの資産を有効活用したいという動機があります。一方、テレワーカーの一部にも「テレワーク疲れ」から解放されたいという動機があります。

両者の動機が一致して、コロナ禍の収束後は、テレワーク実施率は2割以下に低下すると見ています。ただし、コロナ禍の収束がいつになるかは見通せません。

イメージ(無人のオフィス)
イメージ(無人のオフィス)

「コロナ禍以前よりは高い水準で止まる」と予測

――新型コロナの収束後、テレワークの実施率はコロナ禍以前の水準に戻ってしまう?

従来、障害者、乳幼児や要介護者との同居など、出勤が難しい社員に就業の機会を提供するといったCSR(企業の社会的責任)の観点から行われてきたテレワークを、コロナ禍によって、普通の社員が経験したことは大きな収穫です。

また、決して多数派ではないものの、2割もの社員がテレワークを行い、テレワークに適した業務の進め方を考えるきっかけを得たことが糧になります。テレワークによって、省略・縮小されることになった業務は多いと思います。

それでも、仕事には特段の支障が無かった。「本当にこの業務は必要なのか?」「本当に自社に必要な業務は何なのか?」。

テレワークを経験した社員が抱いたこのような疑問が、長い目で見ると、会社を変えていく力になると思います。「働く人の意識調査」を通じて、テレワークを経験した人は、将来の社会変化の可能性を肯定する割合が高いことが分かっています。

変化の可能性を信じることが、変化を起こす力になります。このため、コロナ禍の収束後は、テレワーク実施率は低下すると思いますが、コロナ禍以前よりは高い水準で止まると考えています。


日本生産性本部は、テレワーク実施率について新型コロナの収束後には2割以下に低下するが、コロナ禍以前よりは高い水準で止まると見ている。テレワークにはメリットもあるが、今後2割を大きく超えることはなく、それが「日本企業のテレワークを運用できる実力の程度」とも分析していた。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。