全国で小中高校の休校が始まる中、明らかになってきたのは「学びとインターネットはもはや切り離せない」時代になったということだ。今回のような事態が起こったとき、ネット環境や端末のある家庭の子どもは個別最適化された学習をどんどん進めることができ、ない家庭の子どもは学びの機会を失うことになる。時代は後戻りできない。教育格差=デジタル格差の時代を生きる子どものために、私たちはいま何をするべきなのか考える。

日常の学習活動は「PCありき」

ドルトン東京学園
ドルトン東京学園
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東京・調布市に今年度から創設されたドルトン東京学園中等部・高等部(以下ドルトン)では、開校時からチャットアプリSlackやTeamsで教員同士のみならず、教員と生徒、生徒同士が様々なグループを作って日常的に情報交換を行っている。創設1年目なので生徒は中学1年生のみ、144人で6クラスの少数先鋭方式だ。ドルトンは受験塾大手の河合塾が出資したことでも知られている。

副校長補佐の安居長敏氏はこういう。
「もともと授業を含め普段の学習活動はPCありきで進めています。「まなBOX」(※)の中には各授業の内容や課題がアサインメント として提供されており、家庭にいても課題を確認して提出するという作業ができるようになっています。休校になる際には、今後の授業の進め方について教員間で相談し、各教科担任から生徒にTeamsを使って『まなBOXに課題があるから見なさい』という指示を送り、足りないところは教員がZoomを使ってフォローするという仕組みをつくりました」

(※生徒の学習目的や成果物などを一体化して管理するポートフォリオシステム)

Zoomを使いプレゼンテーション練習

2日、生徒たちは初めてZoomを使い、「英語A:Research Project」の授業を行った。「お菓子人気調査」や「キャラクターアンケート」など、興味のあることをアンケートにして生徒から集め、その結果を整理して発表する課題だ。生徒は作ったスクリプトを元にプレゼンテーションの練習をする。

ドルトンは学校創設当初から、紙をできるだけなくし、生徒の学びの成果をデータとして蓄積している。生徒の家庭ではWi-Fi環境を整え、生徒は入学時に自分の好きなPCを持ってくる。だから常日頃から学習のペースは、各生徒にゆだねられているかたちだ。

「課題については『ある程度ここまでやってね』という全員に共通するものと、『これができた後プラスでこんな課題もあるよ』というものに分かれています。前に進める生徒はどんどん進めばいいですし、先生に『もっとこういうのは無いのですか』という、ある意味探求心のある生徒には、先生がそれに合わせて応じています」(安居氏)

「学びとインターネットは切り離せない」

今回の一斉休校を受けて、AIタブレット教材「Qubena(キュビナ)」を開発している株式会社COMPASSでは、学校と個人向けにサービスの40日間無償提供を開始した。
既に導入済みの学校からは、「休校によって未履修になってしまうはずの単元が、キュビナを使って生徒が自宅で学習し、教員も遠隔で学習状況を確認できるので、学びを止めずにすむ」と言われたという。

COMPASSの創設者で元代表の神野元基氏にインタビュー取材をした。神野氏は先月COMPASSが小学館の傘下に入ったのを機に代表の座を譲り、今後は「学びとインターネットは切り離せない」とYoutubeなどを通じて伝えていくという。

家庭にネット環境の導入を考える時期に

神野元基氏
神野元基氏

Q 今回の件でも明らかですが、今後はICT環境の整備状況によって子供たちの学習に大きな格差が生じます。誰一人取り残すことのない教育を実現するには、平等に環境整備が行われるよう国も自治体も取り組まないといけないですね。

神野元基氏:
始まったGIGAスクール構想では、LTE端末を配るか配らないかという話をしていますが、家庭でネットにつながる環境の必要性をあらためて見直すべき時期だと強く感じています。LTE端末でこういう教育機会を国が保証するのはもちろん大切なことですが、一方で保護者も、今回のような不測の事態にはインターネットが無くてはならないものとして、家庭に導入することを考える時期になったのではないかと思うんです。

Q 各家庭が「いつ何が起こるかわからないから、子どもの学び止めないためにも、端末やインターネット環境は必要だ」と意識を持たないといけない。

神野元基氏:
おっしゃるとおりです。GIGAスクール構想では、1人1台に手を上げない自治体も出ています。こうした自治体は、『構想は時限的な予算なので、その後の予算を出すことが不可能だ』と思っているようですが。自治体によっては財政上仕方ないと思う一方で、だからこそ結局は受益者負担、家庭負担でタブレットやネット環境を維持することを考えないといけませんね。

家庭は教育費の使い道を見直す

Q GIGA構想では、学校から家庭に端末を持ち帰りできるかどうか、まだ決まっていません。いつまでも国や地方の予算に頼ることはできないので、最終的にはBYOD(Bring Your Own Device=各児童生徒が各自端末を持参する)に変わらないといけないと思いますね。

神野元基氏:
だからこそ「学びとインターネットが切り離せない時代になってきた」ということを伝えていきたいですね。習字セットや裁縫セット、絵具セットはいま、全部受益者つまり家庭負担で、6~7千円のものを買っているはずです。ですがこうしたセットは、1人に1台である必要がなく、3人に1つで使いまわし出来るのではないかと思いませんか。そこで浮いた分のお金は1人1台のタブレットに回すなど、いま学校教育の中で受益者・家庭負担になっているものをもう一回見直せば、実は家庭にも端末に充てる財源があるはずなんですよね。
そういうことを本気でやっていかなきゃならない、そういう意識をもっていかなきゃいけないところに来ているんじゃないかなと。


今回の新型コロナウイルスによる一斉休校は、今の時代が学びとインターネットが切り離されないことを顕在化させた。子どもの教育格差がこれ以上広がらないためにも、国と自治体はもちろん、学校と家庭がこれまでの教育費の使い方を見直し、ネット環境と端末を子どもたちに与えることが必要だ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。