休校で学校にも部活にも行けず、外出も制限された子どもたちは家の中でどうするのか、不安な保護者は多いだろう。ゲームやSNSに依存したり、外で思わぬ落とし穴に落ちるおそれもある。そんな時に立ち上がったのがソーシャルビジネスの経営者たちだ。子どもを支援する2つの取り組みを取材した。

「この子は顔色悪いな」が出来なくなる

オンラインで説明会をする今村久美氏
オンラインで説明会をする今村久美氏
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「被災地と同じことが起こると思います」
3日、自民党本部で行われた部会で、NPO法人カタリバの代表理事・今村久美氏は、今回の休校によって生まれるであろうリスクについてこう語り始めた。

「朝起きて学校に登校し、帰宅して寝る。こうした活動が失われることで生活のリズムが乱れて心身が壊れても、『この子は顔色が悪いな』と今まで学校の先生が発見していたことが出来なくなります。またゲームやSNS依存症が心配です。広島豪雨の被災地では、18時間ゲームをやっていた子どもを見ました」

さらに今村氏は、ずっと家に保護者と子どもがいることによっておこる問題も語った。
「両者にストレスが増えると家庭不和が起こります。そうすると、子どもがリスクのあるコミュニティに飛び出して若年妊娠してしまうといったこともあります」

「ネット上のフリースクール」開校

休校によって居場所を失い孤立する子どもに向けて、カタリバが行うのは、「ネット上のフリースクール」(今村氏)であるカタリバオンラインだ。
きょうから始まったこのサービスは、Zoomを活用してオンライン上の居場所づくりを行う。

まず毎朝決まった時間に、リアルな学校と同じようなホームルーム(サークルタイムと呼ぶ)が始まる。オンライン上で全国の友達と「おはよう」と挨拶することからはじめ、一日の過ごし方を計画する。日中は各自の時間でオンラインに出入り自由。カタリバが提供する様々なプログラムに参加してもよし、他社が展開するeラーニングに取り組んでもよし、だ。

「何もしたくないけどおしゃべりしたい」

プログラムでは、様々な得意分野を持った「師匠」が登場し、子どもたちが知らない世界の話をして心に灯をともしたり、「何もしたくないけど、おしゃべりをしたい」という子どもたちのために、心のケアのできる部屋を作ったりする。ほかにもみんなで勉強する部屋や趣味について語り合う部屋、英語やヨガを学ぶ部屋もある。

「学びを通じたストレスケア」という今村氏は、「心理士をオンライン上に配置して、親からの相談を受けたり、情報発信と心のケアをするオンライン保健室も開設する予定です」と言う。
「お昼は一人ぼっちにならないよう、みんなで一緒に食べるランチ会を行ったり、夕方には決まった時間にホームルームを開いて、一日の振り返りを行います。たとえば今日どんなことを学んだのか一緒に振り替えることで、学習効果もアップさせることができます」

感染予防しながら自宅で英語レッスン

「お迎えシスター」は、バイリンガルのお姉さんが子どもを学校などに迎えに行き、自宅で英語のレッスンをするサービスだ。
このサービスを提供するのが株式会社Selan。代表取締役の樋口亜希氏はこう言う。
「先週の政府の休校要請を受けて、少しでも働くご両親のお力になりたいと思っています。スタッフと講師陣は、感染予防の厳重体制をとって、今月もレッスンを通常運営します」

お迎えシスターは子どもとの継続的な触れ合いを大切にしているため、通常は短期間の利用を受け入れてなかった。しかし今回、来月10日までの利用までは短期間の利用も受け入れるほか、働く保護者のニーズを受けて朝の開始時間を前倒しする。

前例無き休校は英語学習のチャンス

こうした前例の無い休校期間だが、いまこそ英語学習のチャンスと樋口氏は言う。
「語学の伸びは触れる量と質で決まると言われていますが、特に臨界期と呼ばれる12歳以下の小さい子どもたちは吸収力が高いため、『質』よりもとにかく『まとまった量』が重要だと考えています。一方日本の学校では、韓国や中国の教育と比べても英語に触れる総時間は短くて、4分の1以下です。そのため今回の臨時休校の期間を使い、まとまった時間の中で英語に触れれば上達を実感できるはずです」

英語学習はいまオンラインで様々なサービスが展開されている。
https://www.fnn.jp/posts/00050562HDK/202003022028_suzukimakoto_HDK
https://www.fnn.jp/posts/00050535HDK/202003011455_suzukimakoto_HDK
「いまYouTube Kids含め英語の良質なオンラインコンテンツがたくさんあるので、うまく組み合わせながらこの期間を有効に使っていただけたらと思っています」(樋口氏)

先生が家庭に来ると普段の生活に

樋口亜希氏
樋口亜希氏

ウイルス予防のため自宅でリモートワークをする保護者も多く、「仕事に集中できる時間を作ってもらい感謝しています」という声が続いているという。

「私たちはリアルなサービスだからこそ、緊急時に子どもたちに寄り添うことができます。例えば休校の期間、学校と同じように規律を持って生活することが難しくなる子どももいます。そんな時先生が家庭に来てくれることで、良い緊張感を持って楽しく学び、普段の生活に近い環境を担保することができます。また、先生と子どもが一緒に『社会問題を解決する』プロジェクトを考えて実行したりと、普段は時間がなくてなかなか取り組めないクリエイティブなレッスンをしている子どももいます」

休校によって失われた居場所をオンラインで用意し、休校によって生まれた時間を積極的に活用する。新しい学びのスタイルが、静かに広がり始めている。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。