西条まつりのだんじりを飾る幻想的な提灯。
新型コロナウイルスの影響で、西条まつりは2年連続でだんじりの運行が自粛となった。受注が激減し、苦境に立たされる提灯職人を支援しようと立ち上がった、若い世代の初の試みに密着した。

苦境の職人を支援する「ぶら提灯」参拝
9月25日、愛媛県西条市の伊曽乃神社で、ある試みが本番を迎えた。
石水睦津美さん:
今から提灯をご支援いただいた方に納品をさせていただくんですけども、同時に「ぶら提灯」で神社をご参拝していただく

竹の棒につり下げた「ぶら提灯」を手に、家族連れらが拝殿に向かう。

この取り組みを企画したのは、西条の伝統工芸の情報発信に取り組む石水睦津美さんだ。
新型コロナの影響で、西条まつりは2年連続で中止。そのため注文が激減して、苦境に立たされている西条市内3軒の提灯店を支援しようと、2021年7月にSNSなどを通じて、西条の提灯の購入支援を呼びかけた。

買った人には、提灯を持って伊曽乃神社を参拝する企画を用意。懐中電灯がない時代の参拝の雰囲気を体感してもらうのが狙いだ。
石水睦津美さん:
和紙の光を感じてもらいたい、という思いがありまして。それを実際、提灯を持って皆さんで感じてもらえないかと

この石水さんのアイデアに、地元の提灯職人は…。
伊予提灯工房・日野徹さん:
うれしかったですね。特に企画をやられている方が若い方で、西条は結構、お祭りに関する職人さんが多いので、応援したいと聞いた時はすごくうれしかったです

衰退する伝統工芸を盛り上げたい
2021年3月まで、大学で観光事業を学んでいた石水さん。
西条の伝統文化を発信する仕事を志した原点には、だんじりを飾る時代絵巻の彫刻師である、父親の信至さんの存在があった。

石水睦津美さん:
伝統工芸は今に始まったことじゃないんですけども、少し衰退している、危ぶまれている業種でもありますので。そこを何とか盛り上げたいという思いがありました

石水彫刻所・石水信至さん:
彫刻だけでなく、全体的な広い視野で娘も取り組んでますので。新しい風というか、女性的な目線もあるんで、いいものができるかもしれませんね
宵闇に揺れるちょうちんの灯り…特別な思い出に
本番当日、石水さんは友人らと一緒に、境内に提灯や竹ロウソクを設置していく。

今回、提灯を購入した人は全国で約40人いたが、新型コロナの影響で参拝は西条市内の30人が参加した。
提灯に火がともり「ぶら提灯 伊曽乃神社参拝」の始まり。

宵闇に歩調にあわせて揺れる、提灯の柔らかい灯り。秋の虫の音と砂利を踏む足音が響き、和やかな日本の原風景が再現された。
参加者からは、伊勢音頭の歌声も聞かれた。

参拝した男の子:
重たいけど楽しい。明るいです

参拝した男性:
今年お祭りがないので、子どもの記念ということで購入しました。情緒があってすごくいいと思います
参拝した男性:
本当はだんじりについた提灯が見たかったんですけど、これはこれで幻想的で、きれいだと思いました
石水睦津美さん:
ちょっとの(提灯の)知識としても思っていただけて、それを手元に持っていただいたということは、お祭りの風景、だんじりみこしに付いた提灯という風景に対する思い入れが、また少し違ってくると思っています

ハレの日を忘れない。地域に生きる若い世代の強い思いが形となった「ぶら提灯」。
古きを知り今を知る試みは、西条市民が地域を支える伝統と文化を見つめる新たな機会になった。
(テレビ愛媛)