世界遺産の里山を守る

甘酸っぱい、爽やかな風味が広がる梅酒。
この梅酒で地球に優しい新たな試みが始まった。

数馬酒造 生産管理課責任者・数馬しほりさん:
耕作放棄地が増えてきた中で、能登の景観を次世代に繋いでいきたいなと思った時に "開墾"という作業をして、お酒作りをしようと。

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海に面した港町、石川県能登町。
数馬酒造は150年以上続く造り酒屋。

蔵を代表する日本酒は、米も水も酵母も地元「能登」のものを使用。

昨年の国際大会では金賞を受賞している。

6月は梅酒のつけ込みの季節。
この日運び込まれたのは地元・能登地方でとれた梅、約2トン。
ひとつひとつ丁寧に洗って漬け込まれ、1年以上かけて梅のエキスを抽出する。

数馬酒造 醸造責任者・栗間康弘さん:
原料の一部に日本酒を使用していて、石川県産の梅の実の持つ酸味が特徴的なので。

使用する梅もできるだけ能登産にこだわっているが、おととしは一部を金沢の梅に切り替えるなど、 地元での梅の確保が難しくなってきた。
その原因は・・・

数馬酒造・数馬しほりさん:
生産者の「高齢化」とか「後継者の不足」に伴い、梅の収穫量が安定的にならないところがあって。

そこで、今年から始めたのが梅の栽培。
山際にあった"耕作放棄地"に170本の梅を植えた。

100軒以上の農地を預かり再生

2011年に世界農業遺産に登録された能登だが、近年は高齢化などを背景に増えつつある耕作放棄地が問題になっている。

そうした中、数馬酒造は7年前から耕作放棄地を利用した酒米づくりを開始。
100軒以上の農地を預かり再生させている。

今季仕込んだ日本酒からは、使用する全ての酒米を能登の耕作放棄地でとれた米に切り替えることができた。もちろん、梅酒に使う日本酒も同様。

数馬酒造・数馬しほりさん:
東京ドーム5個分の耕作放棄地を水田に戻してお酒造りに使わせていただいています。そのお酒を作ることが能登の耕作放棄地を減らし、景観の維持につながっているということとか、地元のものを使うことによって能登の人たちのエンパワーメントになる、勇気づけられると。

日本酒、そして梅酒が売れるほど能登の耕作放棄地が蘇るサステイナブルな酒造り。
里山の資源を生かす造り酒屋の取り組みが地域発展の力につながっている。

原風景を次世代へ "里山を守る"必要性

三田友梨佳キャスター:
コミュニティデザイナーでstudio-L代表の山崎亮さんに聞きます。
地域の再生に取り組まれている山崎さんの目には、今回の試みはどう映りましたか?

studio-L代表・山崎亮さん:
里山を守るお酒づくりはとても意義深いと思います。
地元の米を使って酒を作り、それが地元の人や観光客に味わってもらえるというサイクルへと接続されることの意味は大きい。

里山のある景観を守ろうという声をよく聞きますが、それが経済の仕組みに繋がっているということでないと持続可能な資源として里山を活かしていくということが難しいので、ここは非常に重要なポイントだと思います。

三田キャスター:
そうしたポイントを踏まえて、耕作放棄地の問題に取り組む必要がありそうですね。

山崎亮さん:
耕作放棄地は近隣の田畑に虫がつくなどの影響が出たりもします。いわゆる害虫被害です。

また、そうした虫を食べる鳥や動物が繁殖する鳥獣害も懸念されます。
こうした被害が増えると、さらに耕作を諦める人が出て耕作放棄地を広げてしまうという負のサイクルに陥るケースも少なくありません。

その意味では、田畑が連続して耕作されていること自体に意味があるといえます。

三田キャスター:
今回の試みのように美しい里山を次の世代に残すためのアクションが広がるといいですね。

山崎亮さん:
里山は観光客が心をひかれるだけではなく、何より地元住民の原風景になっていて、その場所に住み、育つ子どもたちにとっても大切な風景であると考えられます。

自分が生まれた場所に愛着を持ち、そこで暮らし、さらに次の世代につないでいく人のサイクルのためにも、里山を守れるか、ではなく、守らないといけないと思います。

三田キャスター:
耕作放棄地は年々増加していて、農村環境への影響も社会問題になっていますが、そうした場を引き継いで自然環境を有効活用して、さらには次世代を担う子供達の自然体験を通して未来を作る、次世代へとバトンを繋げていく重要性を感じます。

(「Live News α」10月18日放送分)