新型コロナウイルス対策で、全国一斉休校が始まって約2週間。すでに終業式を終えた学校もあり、このまま春休みになれば、子どもは1か月近く学校に行かないことになる。
一斉休校が始まった当初、保護者の半数以上が「日中の子どもの居場所や遊び場所」を行政に求めていた(認定NPOフローレンスの調査)。ではその後子どもと保護者を取り巻く環境に改善は見られたのか。東京・八王子市の教育・保育現場を取材した。

突然「朝から受け入れてほしい」

「臨時休校が決まると、『朝から受け入れてほしい』と市から連絡がきました。ここは通常は午後からなので、突然でしたし、先生たちを集めるのが大変でしたね」
こう答えるのは八王子で学童保育所を運営する法人関係者だ。
この学童では、これまで平日は午後、土曜日は午前中から保育を行っていた。しかし休校が始まった今月2日からの一週間は、市からの依頼で午前8時半から午後6時半まで保育を行った。

「安倍総理が休校を要請した日の翌日、保護者から問い合わせがきましたが『こちらではわかりません』と答えるしかありませんでした。その日の午後6時過ぎになって市から連絡があって、それから保護者宛のメールを作成したり、健康カードを作ったりで、何とかその日のうちに準備を終えました」(学童関係者)

「学童に預けたいけど感染が心配」

(画像はイメージ)
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学童では2日朝から児童を受け入れたものの、行政から様々な制限が伝えられたという。
「外での散歩は、市から自粛してくれと言われて出来ませんでした。ただ、学童のある小学校の校長が許可してくれたので、校庭で外遊びはしました。学童の部屋は、密閉した狭い空間です。職員はマスクをしていますが、子どもの中にはマスクをつけるのを嫌がる子がいるので、義務付けできません。手洗い、うがい、アルコール消毒をするとか、子どもたちが来る前に部屋の拭き取り消毒はできますが、現場ではアルコールも買えない状況が続いています」(学童関係者)

この学童の入所者は約70人。しかし休校以降、学童に来るのは30人程度だ。学童関係者は言う。
「普段より学童に来る子どもが減っています。保護者の中には、預けたいけど学童は狭いので、感染が心配だという方もいらっしゃいますから。学童に子どもを預けない場合は、保護者が仕事を休んだり、祖父母に預けたり、子どもだけで留守番させたりしています。子どもだけで留守番するのは、防犯上大丈夫なのかなと思います」

「街中でうろうろする子どもが増えました」

休校から2週間たったいま、子どもたちはどんな生活を送っているのだろうか。保護者からは「子どもたちが我慢の限界」「運動不足やストレスが心配」「友達に会えないので家でずっとゲームしている」「生活のリズムが狂うので勉強しない」などといった不安や心配の声が上がっている。また、八王子のある保護者は「公園で遊んでいると高齢者が市に通報するので、街中でうろうろする子どもが増えました」という。

家でずっとゲームをしている子は親の悩みの種に
家でずっとゲームをしている子は親の悩みの種に

子どもを預かる場として、学童保育所のほかに「放課後子ども教室」がある。
「放課後子ども教室」という呼称は聞きなれない読者も多いと思うが、放課後や週末に学校を開放して、子どもがスポーツや文化活動を行えるように地域住民が協力する取り組みだ。学童との違いは、学童は共働きなどで親が日中いない低学年の児童を対象にしているのに対して、放課後子ども教室はすべての児童を対象にしている。そして学童は厚生労働省、放課後子ども教室は文部科学省の所管だ。

「校庭に入れて」と来ても入れてはいけない

校庭には入れないルールになっている
校庭には入れないルールになっている

しかしこの役所の縦割りが、現場レベルで混乱を招いている。放課後子ども教室の運営者は語る。
「これまでは6年生までが対象だったのですけど、休校以降は市からの要請で1年生から3年生、しかも保護者が就労していることが条件になりました。だからうちの子どもが校庭で遊んでいるのを見た4年生以上の子どもが、『僕たちも校庭に入れて』と来ても、入れてはいけないルールになっています」

この校庭では学童の子どもと放課後子ども教室の子どもが遊ぶため、放課後子ども教室の子どもには、ビブスを着せたり、目印をつけることで見分けている。
なぜなら学童は職員が見守り、放課後子ども教室は地域住民が見守るからだ。だから子どもが怪我をしたときも、ビブスを着ていたら地域住民が、そうでなければ学童職員が対応をする。子どものけがも大人の論理が優先されるのだ。

「子どもと一緒にいるのが怖い」

さらに放課後子ども教室は地域住民の協力で運営が行われているが、多くはシルバー人材と呼ばれる高齢者だ。つまり放課後子ども教室では、否応なく高齢者と子どもが接触することになる。
高齢者の中には「子どもと一緒にいるのが怖い」と訴える人もいる。しかし他のボランティアを募ろうとしても、謝金の予算立てが無いなど現行ルールでは対応が難しいという。

新型コロナウイルスの感染防止のため、教育や保育の現場では、子どもたちの笑顔のために、多くの大人が頑張っている。
しかし、無理解で不寛容な高齢者が「外で遊ぶな」と子どもを怒鳴りつけ、子どもは人の多い市街地に遊びに行く。一方で、子どもの遊び場の運営は高齢者頼みで、高齢者の感染リスクが高まる。これではいったい何のための休校措置なのだろうか。
子どもに大きな負担を強いている休校措置だからこそ、感染防止の効果が上がるよう制度や現場でのルールの見直しが必要だ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。