10月7日夜、東京都足立区と埼玉県川口市、宮代町の3か所で、最大震度5強を観測した地震。
国土交通省によると、停止したエレベーターに閉じ込められたケースは、東京都や神奈川県、千葉県、埼玉県で合わせて28件あった。
このニュースを見て、もし、自分がエレベーターに閉じ込められたら…と想像した人も少なくないのではないだろうか。
実際、エレベーターに閉じ込められたら、どのように対処すればよいのか?
また、閉じ込められている時、トイレに行きたくなったら、どうすればよいのか?
防災講師・防災コンサルタントの高橋洋さんに”正しい対処法”を聞いた。
「揺れを検出すると、最寄りの階に停止します」
――最近のエレベーターは、地震が発生すると、どのような動作をするようになっている?
最初に届く揺れ(P波)を検出すると、直ちに最寄りの階に停止します。
世の中には、万が一ということもありますので、緊急地震速報が鳴った時には、速やかに全ての階の停止ボタンを押し、停止した階でエレベーターの外に出ましょう。
正常に機能していれば、中からはボタンを押して出ることができますが、外からは入れません。
もし閉じ込められてしまったら、助けが来るまでに、大変時間がかかるので、エレベーター内に止まってはいけません。
地震の波には、速度の速い「P波」と、それよりは遅い「S波」があり、S波の方が強い揺れをもたらします。
震源が遠いほど、両波の到達時間差が大きくなり、大きな揺れが来る前に停止することができます。逆に、震源が近い(直下の浅いところ)場合は、大きな揺れが来るのと、ほぼ同時の停止動作となります。
――「揺れを検出すると、最寄りの階で自動停止する機能」が備えられたエレベーターでも、地震が発生した時に閉じ込められることはある?
「全く無い」とまでは言い切れません。
大地震が発生したとしても、各種の機能が正常であればよいのです。
けれども、あくまでも例外的に起こる可能性と言う範囲ではありますが、何らかの大きな支障、故障が生じることもあり得るのです。例えば、ドアが開かないとか、最寄りの階ではない所で停止してしまうような場合も想定しなければなりません。
エレベーターの問題と言うよりも、建物の問題ですが、一例として、超高層ビルの場合は長周期振動により、揺れが増幅され、あるいは共振によって激しい揺れが発生するなどの可能性があります。
そのような場合の被害は、まだ十分に研究されていません。

――地震でエレベーターが緊急停止し、閉じ込められてしまった時、どのように対処すればよい?
慌てずに外部と連絡を取り、救助を求めます。エレベーターの中にある「通報装置」でエレベーター管理会社などに連絡しましょう。それが通じない場合は「119番」「110番」に通報してください。
連絡が付かない場合でも、何かをたたいて音を出すなどの疲れすぎない方法で、外部の人に「エレベーターの内部に人がいる」ことを知らせてください。
叫び続けたりすると、体力を消耗しますので、注意しましょう。

「非常用備品ボックス」に入っているもの
――エレベーターの中に「非常用備品ボックス」が設置されているのを見ることがある。設置しているエレベーターは増えている?
そのようなエレベーターは、近年、確実に増えてきています。特に、東日本大震災以降は、様々なところで見かけるようになってきました。
一部の防災関係者が注目し始めた頃(2000年台中頃には既製品が売り出されていた)は、まだほとんど見かけませんでした。
東日本大震災では、関東地区で多数の「閉じ込め」が発生し、救助にも相当時間がかかる例もあったことなどから、段々と設置されるようになりました。
各種の製品があり、それぞれの形状から、「高齢者用のスツール」だと認識されたり、「エレベーターの壁や部品の一部」の様に思われたりするので、知らない方は気づかないかもしれません。

――どのような場所(商業施設、マンション、ビルなど)のエレベーターに「非常用備品ボックス」は設置されているのでしょう?
公共施設(役所、会館、図書館、保健センター)、商業施設、マンション、事務所ビルなど、各種の建物のエレベーターに設置されています。
私がかつて勤務していた練馬区役所では、東日本大震災の2年後くらいに、区の関係する公共施設のエレベーターには、一斉に設置されたように記憶しています。
また、近年はいろいろなところで見かけるようになりました。
――「非常用備品ボックス」には、どのようなものが入っている?
ライト、水(ペットボトル)、非常用トイレ、目隠し用シートなどです。
もしトイレに行きたくなったら…
――閉じ込められているエレベーター内でトイレに行きたくなったら、どのように対処すればよい?
「非常用備品ボックス」が設置されていれば、非常用トイレセットが入っていますので、それを使いましょう。目隠しになるものも、入っています。
設置されていない場合の対応について、理想的には、自分のバックやリュックなどに、非常用トイレ・大きな黒いビニールのごみ袋を常備して、それを使います。
非常用トイレがない時でも、ビニール袋に吸水できる紙・布を入れたものを用います。目隠しが無い時は、コートなどで臨時に隠します。
ちなみに、私は出張用のバック、リュックに、非常用トイレまたは大小ビニール袋、テイッシュを常備して、備えています。決して、かさばるものではありません。
――自分が住んでいるマンションや勤め先のエレベーターに「非常用備品ボックス」が設置されていない場合、どのような備えをしておけばよい?
自分の手荷物に、このような時に役立つものを入れて持ち歩くことをお勧めします。
大地震の際には、エレベーターに閉じ込められた時以外にも役立ちます。
例として、LEDライトが付いたモバイルバッテリー(数台用+充電ケーブルは各種接続対応のもの)、大小のビニール袋とティッシュペーパー(大袋は黒色が望ましい)などの非常用品。
キーホルダーには、笛も付けておきます。笛は、大きい音の出るものを選びましょう。
少々時間がかかっても、ご自分の住んでいるマンションやお勤め先のビルなどのエレベーターに、「非常用備品ボックス」を設置するように、働きかけましょう。
――7日夜の地震で停止したエレベーターに閉じ込められたケースは、1都3県で合わせて28件あった。これはどのように受け止めている?
今後、想定される大地震を考えると、言い過ぎかもしれませんが、良い「防災訓練」や警告だったと思い、自分たちが閉じ込められた時を想像して、エレベーター内に備蓄するなどの備えを進める必要があります。
7日夜の最大震度5強の地震でも28件あった、停止したエレベーターに閉じ込められるケース。
誰にでも遭遇する可能性はあるので、今回の地震を教訓に、閉じ込められた時の正しい対処法を頭に入れ、万が一のことを考えた備えを始めてみてはいかがだろうか。