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天然温泉100%の源泉かけ流し。情緒あふれる和風旅館のオーナーは…、 飲食業を本業とするこちらの男性。今トレンドになりつつある、 個人による新たな事業承継の形とは…。

 福島県二本松市にある、名湯「岳温泉」。メインストリートにある「扇や」は、 天正2年創業の400年以上続く、老舗の旅館だ。

 女将:お天気すっかり良くなりまして… 雨が嘘のように…
女性客:よかったです
 女将:今日はどちらに?
女性客:今日は本当は山登りたかったんですけど…

歴史に裏打ちされたおもてなしが魅力のこちらの旅館ですが、東日本大震災をきっかけに、 経営は苦境に立たされていた。

「扇や」女将 鈴木亜矢さん:従業員みんなの生活が成り立たなくなってしまったら、本当に申し訳ないことですし、そちらは、すごく最後まで悩んでいたといいますか…。

この旅館の存続の危機に手を挙げたのが、新たにオーナーに就任した菅又信也さんだ。

「扇や」をM&Aで取得した菅又信也オーナー :元々、自分が旅館が好きだったというのもあるんですけど、この「扇や」が閉じてしまうというのは、おそらくこの温泉街にとっても非常に大きなダメージですし、一つの巡り合わせかなと。

菅又さんと旅館を巡りあわせたのは、ネット上で“事業の後継を探したい人”と “後を継ぎたい人”をM&Aという形で結ぶ プラットフォーム「バトンズ」だ。

菅又さんの場合、飲食業を経営しながら、セカンドキャリアの充実のため、この旅館をM&Aしました。

「扇や」をM&Aで取得した菅又信也オーナー :安達太良山の中腹にある温泉街なんで、高村光太郎さんの書であったり、高村智恵子さんの紙絵、切り絵、そのあたりを置いて、この土地を感じてもらえるというようなところに力を置いてやってきてます。

この事業承継により、女将さんを始め22人の雇用はそのまま維持され、温泉街の空洞化回避にも繋がった。

バトンズが扱う事業承継の案件およそ3670件のうち、 970件あまりが500万円以下。これまでの経験を生かし起業を考えていた人や、 夢だった仕事への手がかりとして、個人による小規模の事業買収のケースが増えているという。

「バトンズ」大山敬義CEO:地元のいいもの、それを活かしたものというのは、やろうと思っても、たとえば東京にいて、始められるものでもないし、あるいはそれを知る機会さえない訳なんですが、多くのやる気のある若者が、地方に行くことによって地域の活性化にもなる。それが1つのネット時代のM&A、事業承継の形なのかなと思います。

内田嶺衣奈キャスター:このニュースについては、デロイト トーマツ グループの松江英夫さんに話をうかがいます。今回のテーマのM&Aは、まさに松江さんの専門分野ですが、こうした取り組み、どうご覧になりますか。

デロイト トーマツ グループCSO松江英夫氏:まさに今回のM&A、事業承継と、起業とか経営をしたい人材のキャリアの多様化、これを両立させる意義ある取り組みだと思います。さらに今回のケースが広がっていくと、地場産業の活性化や、地域の創生にもつながる、この辺にも期待できるのではないかと思います。ただ、内田さん、M&Aというのは、買うのも大変なんですが、買った後がもっと大変なんですね。

内田嶺衣奈キャスター:買った後が大変というのは意外な気もしますが、どういうことなんですか?

デロイト トーマツ グループCSO松江英夫氏:はい、実は、これは言葉で言うとPMI=ポスト マージャ― インテグレーションという言い方をするんですけど、M&Aによって、買った後に相手先の価値を高めていく、これがとても重要だという考え方を言うんですね。通常の企業によるM&Aだと、買った側の会社の中でも、お客さんとか商品がありますから、相手先と経営資源を組み合わせることによって、相乗効果を生み出すことが期待できるんですが、今回のように個人でM&Aをする場合は、そこは期待できない。

デロイト トーマツ グループCSO松江英夫氏:そこでカギを握るのがマネージメントシナジー、経営としてのシナジーということなんです。具体的には、買収する個人の側が、もともと養っている経営の経験やノウハウ、それと社外の人脈とか、こういったものを相手先に提供することによって、相乗効果を生み出して、価値を出していこう、こういったまさに経営としてのシナジー、ここがポイントになってくるんですね。

内田嶺衣奈キャスター:確かに、きょう紹介した中でも、これまでの経験やキャリアを生かしていくといった話もありましたよね。

デロイト トーマツ グループCSO松江英夫氏:そうなんです。まさにそこなんです。このようなケースが、これから成功していくには、買収する個人をサポートする、こういった体制作りも大事なんですね。自分が苦手なところを聞ける専門家だとか、経営者同士の仲間だとか、こういった経営者をサポートできるような体制が組まれること、これによって個人によるM&A、これがますます成功していく、こんな好循環ができることに期待したいと思います。

内田嶺衣奈キャスター:そうですね。ここまで続けてきた事業や伝統を途絶えさせてしまうよりは、意欲や夢を持った人にバトンをつなぎたいと思う事業者の方は多いと思います。新たなマッチングの手段として、ますます広がりを見せそうです。

(「Live News α」10月8日放送分)