「なぜいま学校再開なのか。再開しないでほしい」
「一刻も早く再開してほしい。もう限界だ」

安倍首相が20日、新学期の学校再開に向けて方針取りまとめを文科省に指示したことが伝わると、教育関係者や保護者から再開に対する賛否両論が沸き上がった。

安全性を危惧する声がある一方、心的・経済的理由で再開を望む声がある中で、学校を再開する教育現場にはどんな課題が待ち受けているのか検証する。

「警戒を緩める趣旨はまったくない」

ぶら下がりに応じる萩生田文部科学大臣(23日夜)
ぶら下がりに応じる萩生田文部科学大臣(23日夜)
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「繰り返しになって恐縮ですが、これまでの警戒を緩める趣旨はまったくありませんので、あらためて皆様に十分ご認識を頂きたいと思います」
24日の通知の前日、急遽会見を開いた萩生田文科相は、学校再開が拡大防止の緩みにつながることに警戒感を示した。

さらに萩生田文科相は、「感染拡大が続く中、果たして学校を再開して大丈夫なのか」との懸念にこう答えた。
「前提条件として今の状況は休業をお願いした時と変わっておりません。もっといえば感染者が増えている状況でございます。しかしながら何が変わったかと言えば国民の皆様の意識が大きく変わってまいりました。この休業期間中に地方自治体の皆さん、学校関係者の皆さんに大変なご努力を頂いて、どうしたら集団感染を免れることが出来るか様々な知恵や経験を積んでいただきました」

学校再開と臨時休業を行うためのガイドライン

専門家の知見、そして現場の経験をもとに発出された文科省の通知では、学校再開と臨時休業を行う場合のガイドラインを示している。
再開のガイドラインとしては、毎朝の検温や手洗い・咳エチケットの徹底、いわゆる「3条件」が重なった場所を避けるため換気の励行などが挙げられているほか、授業だけでなく学校行事や部活動などにも3条件が重ならないような対策を取るよう通知した。

一方、臨時休業を判断する際のガイドラインでは、児童生徒や教職員の感染が判明した場合、当人や濃厚接触者を出席停止とするものの、「即全部休業とは考えていない」(文科省担当者)。感染が判明した場合、教育現場は感染者の症状の有無や行動を分析するなど「総合的に」考慮し、自治体の衛生当局と相談したうえで、学校の全部または一部の臨時休業を実施するか決めることになる。

実は文科省の中でこの原案が回った際、一部には「これは間違えたメッセージを与えかねない」という危惧があった。これまで自治体の中には、「自治体内で一人でも感染者が出れば即全校休業、隣接する自治体で感染者が出ても同様」と厳しい取り決めをしているところもあった。こうしたルールから見ると、このガイドラインは「緩めた」メッセージを与えかねない。これについて文科省担当者は会見で、「2か月前と今とわかっていることが違う」と否定し、「今わかっている知見で衛生部局と相談して判断してほしい」と繰り返した。

「頼りになるのはこれくらいしかない」

教育現場は今回のガイドラインをどう受け止めているか。
「専門家会議の判断を尊重してやらないと。頼りになるのはこれくらいしかありませんし、これでやっていくしかないです。ガイドラインは細かいところはたくさん言いたいことがありますが、大筋はこれでやるしかないですね」
こう語るのは埼玉県戸田市の戸ヶ崎勤教育長だ。

戸ヶ崎氏は教育現場で課題となりそうな事例をいくつか挙げた。
「ガイドラインには多くの児童生徒が手を触れる箇所、ドアノブや手すり、スイッチの消毒液による清掃を挙げています。文科省としては書かざるを得ないのだろうけど、これだけ数のあるものを一体どうやって誰が消毒するんだと思います。また、次亜塩素酸ナトリウムの使用と書かれていますが、子どもによっては皮膚炎を起こします」

「再開したら自分が感染するんじゃないか」

さらに戸ヶ崎氏は、「心のケア」についてこんな指摘をした。
「子どもたちの中には、『再開したら自分が感染するんじゃないか』という不安を持つ子もいます。特に高齢者や基礎疾患のある家族と同居する子どもの中には、『僕が学校に行って家族が感染したらどうするんだろう』と悩んでいる子もいます」

また、保護者から『自分の子どもだけは守りたい』『これではとてもじゃないがうちの子どもは学校に行かせられない』という声も届いているという。
「こうした心のケアが必要な子どもや保護者にも、我々は寄り添わないとならないのです」(戸ヶ崎氏)
戸田市では、登校を躊躇する子どもは出席停止とし、欠席扱いにしない措置を検討している。

1人1人が行動の自制と変容を

「なぜ学校を再開するかと言うと、国民の皆様の感染拡大防止に関する意識が高まっているという認識があるからです。引き続き一人一人の行動変容、強い行動の自粛の呼びかけが必要な厳しい状況に変わりはありません」(萩生田文科相)

この三連休は春の陽気に誘われ自粛に疲れた国民が、行楽地や街にあふれた。
しかし感染が急拡大している欧米からの帰国者も増え、日本国内でいつどのようなかたちでオーバーシュート=爆発的患者急増が生じるかわからない状況は続いている。

学校の再開を楽しみにしている子どもたちのためにも、大人一人一人が行動を自制し、変えていく必要がある。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。