先進的な教育を進める戸田市を取材
先週の「世界に負けない教育」では、全国の小中学校で1人1台のPC等を配備する「GIGAスクール構想」について紹介した。この構想には2318億円の税金が投入され、コンピュータ1台あたり4万5千円、高速ネットワークの整備で1校あたり3千万円が補助される。では公費を投入される学校現場は、この構想をどう受け止めているのだろうか?
埼玉県戸田市は英語やプログラミング教育など、全国でも先進的な教育を行っている自治体だ。取材当日もその取り組みを一目見ようと多くの教育関係者が訪れていた。戸田市では「GIGAスクール構想」に先んじて、3年前から各学校にICT(PC)導入を開始している。戸田市の教育改革のけん引役、戸ヶ﨑勤教育長に話を聞いた。

「もらえるならもらう」自治体も
ーー1人1台がいよいよ始まりますが、3年前から取り組んでいた戸田市から見て、他の自治体の受け止めはどうですか?
戸ヶ﨑教育長:
『もらえるならもらうけど、使い方は後になって考えればいい』という考え方の自治体も少なくなく、積極的に『これをやりたいから早く導入してほしい』という自治体はまだ多くはないように思います。これでは導入しても十分活用できるようにはなりません。ICTを『マストアイテム化』する取り組みを今からすぐにでも進めないといけないと考えます。
ーー学校教育でコンピュータを必要不可欠なものにしなくてはならないと。
教育長:
マストアイテム化する授業、つまり授業や学びの改革を今からやっておかないと、教師は配備されてもそれをどうやって使ったらよいか、何で使わなきゃいけないかわからないわけで、それを積極的に使えと言っても無理じゃないですか。
戸田市の学校はパソコン室を無くす
ーー戸田市では「マストアイテム化」するためにどのような取り組みをしていますか?
教育長:
まず、戸田市では学校のパソコン室を無くします。
ーーパソコン室を無くすのですか?
教育長:
来年度、この4月から小中学校ともに無くします。自治体によっては、これからパソコン室を整備しようというところもあると聞いていますがパソコン室なんていう特別な教室は無くても、すべての教室でパソコンが使えるわけですから。また、小さなホワイトボードも徐々に廃止してもらう予定です。教師によっては、そのボードは学びの共有に必需品だと言っていますが、そこはもはやICTの独壇場だということをわかって欲しいと思います。
ーー「マストアイテム」化した授業とは、どんなものになりますか?
教育長:
知識・理解・技能といった基礎学力の習得を、ICTの徹底活用によりデジタル化、個別化していこうと考えています。そのことによって習得にかかる時間が効率化され短縮されれば、現在、戸田市で力を入れている教科等横断的な学びや社会課題解決など、正解の無いいわゆるPBL型の学びの時間を生み出すことができます。この学びにおいてPC端末は、Web検索、カメラ撮影、動画やプレゼンテーションの編集などの用途に、市内の学校ではすでに有効活用されています。
ヒトモノカネは「脱自前主義」と「クラスラボ」で
ーーこうした授業を行うには、ヒト(教員)モノ(端末)カネが必要になりますよね。そこでどの自治体も躓くのですが、戸田市ではどうやっているのですか?
教育長:
キーワードは「脱自前主義」と「クラスラボ」です。教育委員会と学校だけだと限界があるので、多くの企業の力も借りています。ICT導入を検討した当初、思うように予算化できなかったので、企業から端末を借りてスタートしました。企業には端末を導入してもらい、学校は教室を効果検証の実証の場として提供するという企業とウインウインの関係を築き、自分たちのお金を極力出さないで、知見をもらいながら端末を使える方法を考え実践してきたということです。よく戸田市は財政が豊かだからできるのではないかと言われますが、そんなことはありません。
タブレットでも「文鎮化」する

ーー自治体によっては安ければいいとデスクトップ型PCを今後導入するところもあると聞きます。
教育長:
今更デスクトップですか?確かにその方がはるかに安いのでしょうね。PCはあくまでもツールですから、そのデスクトップをどのような学びに日常的に使うのかというビジョンが明確になっているのか疑問です。
繰り返しますが、デスクトップではなくノートPCやタブレットであったとしても、活用する学びのビジョンが無く「もらえるものはもらおう」と言っていると、タブレットでも「文鎮化」するのが目に見えていますね。このままではスクールニューディル政策(※)の時に電子黒板が失敗した時のようにか、それ以上の失敗になります。
(※)文部科学省による2009年の教育施設の充実構想。学校耐震化やICT環境の整備が進められ約4900億円が計上された。
利用しない学校の端末は「保管転換」に
ーー学校のPC活用の温度差の解消にはどうしたらよいと思いますか?
教育長:
戸田市の中でも学校によってPC活用の頻度などに温度差がすでに出ています。校長や教頭のリーダーシップによるところが大きいと考えています。本市では校長会議で「保管転換」すると言っています。
ーー「保管転換」ですか?
あまり利用していない学校の端末は、ニーズのある市内の他の学校に移すということです。市民の税金で買ったものですから有効に活用しなければいけない。端末はアクティブデバイス数で監視しているので利用状況がわかります。あまり利用していない学校には「使わなくても教育成果を出していればいいのだから、無理に置いておかなくてもいいですよ」と言います。そう言うと急にアクティブデバイス数が上昇したりするんですね。
変化する社会の動きを教室に取り込む

ーー利用しないのであれば、学校がその理由をきちんと説明するべきですね。
教育長:
近い将来、ICTを全く使用していない授業は大変珍しくなり、「使わない方がこれだけよい授業となる」とか「使わなくてもこれだけできる」など、ICT活用に対する問題提起をする授業に限られてくるのではないかとも思っています。
いまの子供たちが活躍する社会は、ICTがマストアイテム化するSociety5.0の社会です。教育改革で大事にしたいのは、変化していく社会の動きをいかに教室の中に取り込むかです。そのためには当然授業も変わらないといけません。子どもが出ていく社会を教師が知ろうとしないのは極めて不誠実です。
ーーありがとうございました。
来週はGIGAスクール構想の中で注目されている、デジタル教科書について取り上げます。
