昨年末教育界を揺るがせた「第二のPISAショック」。日本の子どもの読解力低下が問題視されたが、実はPISAが求めたのはデジタル時代の「読解力」であったことがのちに明らかになった。つまり日本において、学校教育のICT対応、デジタル活用の遅れこそが最大の課題だったのだ。

こうした中政府は、全国の小中学校に1人1台PC等を配備するという「GIGAスクール構想」の実現に向け動き出した。

デジタル地域格差に政府も動く

政府は2019年度補正予算に2318億円を計上し、校内通信ネットワークの整備と国公私立の小中学校などで児童生徒が使用するPC端末を整備する。具体的にはコンピュータ1台あたり4万5千円を補助し、高速ネットワークの整備のため1校あたり3千万円まで補助する。現状全国平均では5.4人に1台にとどまり、佐賀県の2人に1台に対して愛知県は7.5人に1台など自治体間の格差も大きい。こうした地域間の格差是正に、国が重い腰を上げたかたちだ。

一方で日本の子どもは、ゲーム遊びやチャットにはデジタルデバイスを多く使っており、スマホの保有率は高校生でほぼ100%、中学生で6割以上、小学生も4年生以上で過半数と急増している。デジタルリテラシーを含めた、学校教育でのデジタル活用は待ったなしなのだ。では「1人1台」で学校教育は今後どう変わるのか?

文科省の矢野和彦審議官に「1人1台」時代の教育の姿と課題を聞いた。

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タブレットで教科書を読む

ーーまず、端末はPCだけでなくタブレットもありますか?

矢野審議官:
はい、PCになるかタブレットになるかは自治体や学校の判断となりますが、3つの必要条件はキーボード、タッチパネルとQRコードの読み込み機能です。キーボードは、タイピングができるようになるため必ず必要です。大学や社会に入ると必須になりますし、プログラミングもタイピングが必要ですから。

ーーソフト面ではデジタル教科書がコンテンツになりますか?

矢野審議官:
中心になるのはデジタル教科書です。デジタル教科書を中心として、たとえば映像やVRのようなデジタル教材や、先生が生徒の回答を一覧で見られる授業支援システムなどと一体的に活用することで、教育の幅が広がるというのが学校の先生の一致した意見ですね。

ーーそうすると紙の教科書はやがて無くなるのですか?

矢野審議官:
では一切紙が無くていいのかというと、最先端の先生ですら確信を持てない状況です。「紙も捨てがたいところがある」という意見が大半なんですね。ただ、紙と端末の完全併用が必要とも限らないので、たとえばこの教科は紙を残す、この教科はデジタルにするなど、今後もう少し慎重な議論が必要ですね。

紙の教科書には紙の教科書の良さもある
紙の教科書には紙の教科書の良さもある

情報モラルや先生不要論は?

ーー保護者の中には、情報モラルやフィルタリングについての心配の声があります。

矢野審議官:
子どものスマホ保有率が急増する中で、有害情報の問題はもうすでに相当カオスになっています。学校に端末を入れたら、子どもがよりスマホ漬けになるのではないかという心配はあたりません。学校だけでなく家庭がネットリテラシーを考える契機になればと思います。

また、保護者から健康面で不安の声、斜視や目が悪くなるという指摘もありますが、これも同時に考えていきます。

ーー先生たちからは「先生の不要論が出る」という懸念の声もありますね。

矢野審議官:
まったく逆で、いろんな意味で先生がもっと必要になります。手書きの答案を自動採点できるようになるなど先生が楽になる部分もありますが、先生は教育をより深め、より本質的な方向に向かうと思います。

いずれ端末は自己負担に

ーー子どもたちが端末を家に持ち帰ることもできますか?

矢野審議官:
将来的には持ち帰りできないといけないと思っています。宿題は紙と鉛筆でとなると、何をやっているんだとなりますね。いずれBYOD(Bring Your Own Device)=個人の端末を学校に持ち込む方向に移行していくでしょう。これは海外では常識です。

海外ではBYODが常識
海外ではBYODが常識

ーーそうなると経済的に端末を買うことができない家庭の問題も出てきますね。

矢野審議官:
いま市町村が買っているPCは平均12万円、タブレットもそれなりの値段がします。それでは保護者に持ってきてくださいというのは難しいでしょう。いまランドセルの価格は5~10万円するので、その範囲は家庭負担になることはあるかもしれませんが、いま低所得の家庭には就学援助があります。ランドセルは援助対象で、タブレットは対象ではありませんが、いずれ対象になっていくでしょう。

国の補助金終われば地方が整備

ーー国の補助金は今年度だけですか?今後はどうなるのでしょう?

矢野審議官:
令和5年度の一人一台端末実現までは閣議決定に基づき国が継続的に補助を行う予定です。今回の補助を通じて国が日本の標準を作り、その後は新しい標準に沿って地方が整備するということになるでしょう。

ーー全国学テ=全国学力・学習状況調査もCBT(コンピュータで設問と解答する方式)になりますか?

矢野審議官:
これは自然な流れでしょうし、積極的に政策に活かせるような制度設計すべきと考えています。教育現場にどうフィードバックされるか、期待しています。

ーーありがとうございました。

次回の「世界に負けない教育」も「GIGAスクール構想」を取り上げます。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

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鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。